終焉
暗い。
ジメジメしていて身体が重い。
目を開けているのか閉じているのかもわからない。
私は一生懸命目を開けようとした。
(目は開いてるのに何も見えないだけ?)
私は身体を動かそうとした。
しかし身動き一つできない。
どうなっているのかまったくわからない。
人の気配はまったくしない。
さっきまで魔王軍のみんなと一緒にいたのに。
私は最後の記憶を思い出す。
(ムイがこちらに向かって手を伸ばしていた…気がする)
夢なのか現実なのかまったくわからない。
『おまえの…からだ…をよこ…せ…』
(これは…)
頭の中に直接聞こえてくる。
『おま…えのからだ…よこせ…』
『絶対に嫌だ!お前なんかには絶対に渡さない!』
私は大声で叫んだつもりだったが声は出ていなかった。
『抵抗…するのか…まぁいい時間はたっぷりある…』
そう言って、
『おまえのからだをよこせ…』
頭の中でずっとその言葉が響いている。
『おまえのからだをよこせ…』
『シアさ…おまえの…どこに…からだを…いるの?…よこせ…』
何か違う声が混ざった。
(この声は聖女様?)
私は聖女の声に集中した。
『シアさんどこにいるの?』
今度ははっきりと聞こえた。
『わかりません!真っ暗で身動きも取れません!』
私は精一杯の大声を出した。
『待ってて!探しに…』
というところで切れてしまった。
『聖女め…許さん…』
それから聖女の声が聞こえることはなかった。
真っ暗の中、頭に直接訴えてくる。
『おまえのからだをよこせ』
油断したら取り込まれてしまう気がした。
私は絶対に負けない。
ここで負けたらきっと大変なことになる。
『おまえのからだをよこせ』
それから何時間もその言葉を繰り返された。
私は意識が遠くなりそうになった。
このままではいけない。
(何か考えなくては)
私は冷静に今の状況を整理した。
きっと私はあの小屋のあった場所で黒いモヤモヤに捕まったのだ。
昇華の直前にガオルの背中が黒く見えたのはモヤモヤが逃げたからだろう。
おそらくあの身体を離れた瞬間だと思う。
モヤモヤの霧の状態になったガオルは地中に潜んでいたのではないだろうか。
(獲物を待つ蟻地獄のように)
そこに私がやって来た。
真っ暗でジメジメしてるのはモヤモヤに覆われているからで、その証拠に身動きが取れない。
(離せ)と念じても効かないのはそれがモヤモヤだからだ。
実体のないモヤモヤに私の呪いは効かなかった。
私はいろんなスキルを試してみることにした。
属性魔法を試してみる。
私の方を外側で発動している感じはあるが特に変わりはない。
生霊になろうとしても無理だった。
遠視も効果はない。
物質変換であのモヤモヤを気体から個体にできないだろうか?
私はとりあえず顔のまわりだけでも、と霧をギュッと握りつぶして固めるイメージをした。
私の目の前が真っ暗からほんのり何か見えそうな感じに変わった。
私はすぐに炎を放つ。
(みえた!)
ここはどうやら洞窟の中のようだ。
寝かされているようだが視線の先に何か石碑のようなものが見える。
私は同じように物質変換を試したがモヤモヤも抵抗を強めたようでまったく動かなくなった。
かろうじて目だけがキョロキョロと動かせる。
この状態で下手に攻撃魔法を出せば生き埋めになりそうだ。
近くに使役できそうな生命体がいないか探す。
何の気配もしない。
それよりもチラッと見える石碑のようなものからすごく嫌な気配を感じる。
(ここに何かいる)
本能でそう感じ取った。
相変わらず頭の中には『おまえのからだをよこせ』と流れてくる。
なんだかもう慣れてきた。
(お前なんて、全然怖くない)
いろいろ試してみるが一向に状況がよくなることはなかった。
聖女にテレパシーを送ろうとしてもダメだった。
どうやらここには私には到底解除できない強い結界が張ってある。
あの石碑を守っているとでもいうのだろうか。
いったいどれくらいの時間が過ぎたのだろう。
(みんなに心配かけちゃってるだろうな)
万策尽きた感がして眠くなってきた。
疲れた。
身体が重い。
私は意識が飛びそうになった。
水魔法で自分に水をかける。
(危なかった)
眠ったら終わりな気がした。
私は大きなスピーカーを近くに出した。
プレイヤーをそれに繋いで私が元の世界で好きだった曲をかけた。
大音量で響き渡る。
(天然のサラウンドだな)
好きだった女性歌手の声がこだまする。
私は歌おうとしたが声は出ない。
黒いモヤモヤに口が覆われているからか。
そこからは眠気との戦いだった。
私はアリを思い出して大きなクマの人形を出した。
(これを操作して何かできないかな)
(動け)と念じるとクマはゆっくりと動き出した。
(かわいいな)
私を持ち上げるように念じるとこちらに向かってきた。
(いいぞ!がんばれ!)
クマは私を持ち上げようと頑張っていたが腕がちぎれてしまった。
(ごめん…クマちゃん…)
私はちぎれた腕を元に戻してあげた。
それならばとロボットを出してみた。
アニメで見たことがあるモデルスーツ調のロボットが現れた。
そのロボットに私を起こして運ぶように命令してみた。
ロボットはウィーンとそれっぽい音を鳴らし、私を立たせることに成功した。
(えらいぞ!さすがロボット!)
しかし運ぼうとしてもびくともしない。
(そんなに重いのか…)
私はそのロボットにもたれかかる状態になった。
しかし立ち上がったことで視界が開けた。
石碑の奥の方まで見える。
炎で照らすと大きな扉のようなものが見えた。
(ダンジョンの中?)
ここはどうやら行き止まりの部屋になっているようだった。
悪魔の屋敷にあった地下室を思い出した。
雰囲気がなんだか似ている。
石碑以外には何もなかった。
(私の出したガラクタはたくさん転がっているが)
私は疲れてしまった。
アホみたいに色々やりすぎたみたいで魔力の残りもほんの少しになってしまった。
ガオルは相変わらずバカの一つ覚えのように体をよこせとブツブツ言っている。
少し休憩して魔力を回復させよう。
そう思っていたら目の前にムイが現れた。
私はとうとう死んでしまったのかと思った。
(これが走馬灯か…)
キリナが現れ、アリが現れ、レイが現れ、セキが現れた。
(みんな、最後に会いに来てくれたんだね…)
アリが「シア!一人でパーティでもしてたの?」と笑った。
黒いモヤモヤは私から離れた。
私はドサッとそこに倒れ込んだ。
モヤモヤはムイたちを攻撃している。
セキがスノードームを突き出して「ここに入れ!」と言った。
黒いモヤモヤは抵抗する素振りを見せたが、「早く!!」と言われスノードームに吸い込まれていった。
私は何がなんだかわからなかった。
そこにいたみんなが私の方へやって来た。
悪魔もやって来ていて私たちを瞬間移動させてくれた。
────
気がつくと私は魔王城のベッドで寝ていた。
(全部夢だった?)
私が目を開けると「よかった!」と言っていつもの1匹と二人が抱きついてきた。
私は重たい身体を起こした。
部屋には魔王や悪魔もいた。
魔王が「また心配させおって!」とほっぺをぷくっと膨らませていた。
悪魔が「お前がガオルの依代になったら世界が滅ぶと思ってな。」といつものニヤニヤで笑った。
ニヤもその隣でいつものニッコリで笑っていた。
キリナはまだ放心状態のようだった。
ムイは部屋の隅で泣いているようだった。
私は(長い夢だな)と思った。
「もしかして、夢じゃない?」と聞くと、
泣きやんだのか顔を拭ってムイが近づいてきた。
ムイは順番に説明してくれた。
・小屋でシア行方不明になる
・聖女にテレパシーで話しかけてもらう
・生存確認ができた
・同時にガオルの存在もわかった
・封印するしかない
・「ボクできるよ!」とセキ
・シアのチートアイテム『シアに移動飴』発動
・スノードームに封印完了
・帰宅
私は目をぱちくりさせた。
「セキ、封印なんてできたの?」
「やったことなかったけど多分できると思ったらできたよ!」
セキは嬉しそうに羽をパタパタさせた。
「それでなんでスノードームに?」
と聞くと「かわいかったから!」とセキが答えた。
「はい、どうぞ!」と渡されたスノードームは真っ黒に渦巻いていた。
「まさか封印までできるようになるとはな。」悪魔はセキの頭を撫でている。
「お主の仲間は本当に面白いのぉ。」と言い魔王は部屋を出ていった。
「割るなよ?」と言い悪魔とニヤも出ていった。
私はかわいくなくなったスノードーム手にして固まっていた。
(これって割れたらガオルがまた復活するんじゃ??)
(もっと頑丈な何かなかったの??)
私は急いで(お前は割れない…世界一頑丈なスノードーム…何があっても割れない…)と念じた。
これで割れなければいいけど。
割れるかどうか試すのは怖かったのでやめた。
私は金庫をイメージして出した。
そこにプチプチの緩衝材も出してスノードームをグルグル巻きにしてその金庫に詰め込んだ。
(あとで魔王にどこかで保管してもらおう)
ぐぅーとお腹が鳴った。
みんなは大笑いした。
「何か食べましょうね。」とムイがいい、「何が食べたいですか?」と聞かれ、私は「あのとき食べた骨付き肉!」と答えた。
「なにそれ?ボクも食べたい!」とアリやセキも言い出した。
「調理場で頼んでみます。」と言ってムイが出ていった。
キリナが「少し寝かせてあげましょう。」とみんなを部屋の外に連れて行った。
静かになったとたん私は眠ってしまった。
(みんなありがとう)
───第一部 完────




