北へ
「シア!似合ってる!」
私はいつもと違い青いワンピースを着せられた。
聖女がこんな黒い女と一緒に行きたくないと言って自分の服を次々持ってきた。
ピンクや黄色のフリフリを着せようとしたから私がこの青い無難なワンピースを選んだのだった。
「お地味ねぇ…」と不満そうだったが「ほら、行きますよ!」と腕を掴んだ。
キリルの腕も掴み私はダイオの城の近くに瞬間移動した。
門の前はいつもより兵士が多かった。
昨晩の事件を受けて警備の人員を増やしたのだろう。
私たち三人は堂々と門の前まで来た。
キリナは「隣の大陸から来た者です。昨晩のことで国王様にお話があります。」と礼儀正しく挨拶をした。
門番たちに緊張が走り、「確認してまいります。」と1人が中へ入っていった。
他の門番たちは厳戒態勢とばかりに私たちに槍を向けた。
(想定内だけどね)
すぐに中から騎士たちが現れ、「こちらへ」と槍を向けたまま私たちを中へ誘導した。
私たちはそのまま謁見の間に連れて行かれた。
国王の顔には怒りの表情がみえた。
私は(おとなしく私たちの話を聞け)と念じた。
「お初にお目にかかります。」
(2回目ですが)
キリナは礼儀正しく私たちの自己紹介をした。
聖女の名前を出すと魔法使いたちや偉そうな貴族の男たちがざわざわとした。
国王は黙って話を聞いている。
キリナはあの騎士だった男が復活した魔王ガオルであると伝え、この中にガオルに操られているものがいると指摘した。
聖女は「あなた、そしてあなた。」と4人ほど指摘した。
「まずは浄化が必要」だと言うと国王以外の三人が「必要ない!この者らを捕らえよ!」と叫んだ。
私は(黙れ)と念じた。
そして国王に(従え)と念じた。
国王は三人を前に呼び自分もその隣に並んだ。
「お願いします。」
と言うと聖女が浄化の上位魔法の昇華の詠唱を始めた。
まわりは静まり、聖女の声だけが響いた。
虹色の光が差し4人は虚ろな顔をしている。
しばらく沈黙が流れた。
騎士たちは臨戦態勢を取っていたが国王が立ち上がり聖女に頭を下げた。
姫様と魔法使いと騎士隊長の男たちもそれに倣って頭を下げた。
国王は正気に戻ったようで「この者たちを応接の間に。」と言って移動させた。
────
私たちは椅子に座るように言われ、お茶を出された。
私は従者という設定なので聖女の後ろに立っていた。
騎士たちは居なくなり一緒に浄化を受けた魔法使いだけになった。
国王は話を戻し、ガオルが洗脳のために自分たちに黒い霧を吸わせた。というところまで話し、確認した。
キリナは「その通りでございます。」と言い、魔王軍の名前を出さずに、「この城のみなさんに危害が加わらないよう最善の計画を立て、ガオルを追い込みました。しかし残念ながらとどめを刺すには至らず取り逃がしてしまいました。申し訳ありません。」と説明した。
そして勇者を召喚させようとした理由を説明すると、
「確かに、勇者の必要なときではないの。」
と納得していた。
(ここの国王様はまともだな)
殺された国王を思い出した。
黒い霧に侵されていないのに何が悪かを判断できていなかった。
「一人の怪我人もなく魔王を追い出してくれたこと、まことに感謝する。」
と国王はキリナに握手を求めた。
キリナは笑顔で応えた。
そして聖女の方を向き、
「父上のこと、風の噂で聞いております。お辛かったことでしょう。何か力になれることがありましたらいつでもご相談ください。」と言ってまた頭を下げた。
聖女も、「痛み入ります。その際はぜひ。」と頭を下げた。
国王はより一層兵士の育成に努めると言って、「いつでも遊びに来てくだされ。」と言ってくれた。
私は帰りがけに(黙れ)と言った人たちの念を解いた。
(ずっと黙ってたのかな)
私たちは人の気配のしないところまで来ると瞬間移動して魔王城に戻った。
────
魔王が出迎えてくれて、「よくやった!」と褒めてくれた。
これでひとまずダイオの城については片付いたと言える。
私とキリナは司令室に戻った。
「お疲れ様でした!」とムイが出迎えてくれた。
レイが抱きついてきて「生霊で見てたよ!」と言った。
(ぜんぜん気がつかなかった)
私は「気配を消すのがうまくなったね!」と褒めてやった。
レイは喉をゴロゴロ鳴らして喜んだ。
(あんな遠くまで生霊を飛ばせるようになった?!)
私はハッとした。
成長速度が早すぎてついていけない。
キリナは疲れたので少し休みます。と言って出ていった。
ほとんど任せきりだったから疲れただろう。
私も青い服が落ち着かず「着替えてくるね。」と言って部屋へ向かった。
悪魔が通りかかり、「うまくやったようだな。」とニヤニヤしながら肩をポンポンした。
「キリナと聖女様のおかげです。」と言うと、「陰でちゃんと仕事してるのは知ってるぞ。」と言ってくれた。
私はその言葉が妙に嬉しかった。
────
黒いワンピースに着替えるとなんだか落ち着いた。
「人の着たものなんか着れないわ。それはあなたに差し上げるわ。」と言われたので受け取った。
(青いワンピース…一応取っておくか)
私は洗濯かごに投げ入れた。
このまま寝てしまいたかったが私にはやることがあった。
昨晩ガオルにかけた呪いのその後である。
司令室に戻るとマップを前に意識を集中させた。
ガオルの痕跡を探すためだ。
目を閉じてあの呪いの足枷を探す。
それはダイオの城から北にある山脈にあった。
私は遠視で確認する。
ガオルは洞窟に一人でいた。
レイが爪で引っ掻いたところが毒に侵されてグジュグジュしていた。
回復魔法をあてているようだが治ることはなかった。
(レイ!すごい!)
ガオルは何かを察知したようにキョロキョロし始めた。
そして足首を見た。
(バレた!)
何をするかと思えばガオルは自分の足を切り落とした。
そして口から黒いモヤモヤを出した。
モヤモヤはまたガオルを包み込み、どこかへ消えていってしまった。
(失敗か…)
もっと呪いのレベルを上げないといけない。
私は今見たことを魔王に報告した。
「あの場で瞬時にそんなことをするなんて、お主やるのぉ〜。」と褒めてくれた。
そして「わしなんてもう少しで死ぬところだったぞよ。」と悲しい顔をした。
メメちゃんのことを思い出させてしまったようだ。
「皆でまたすぐにあ奴の居所を探ろうぞ。」
魔王は笑顔でそう言った。
私も「はい!」と笑顔で応えた。
────
司令室ではさっき見た山脈を中心にガオル捜索が始まった。
あのモヤモヤは瞬間移動のようなこともできるようだ。
城と山脈の距離からだいたいの捜索範囲を絞った。
「結構広いですね。」
私は「肩と足に傷を負っているから、きっと次の宿主を探すと思う。」と推測した。
「確かに」と言いムイは目ぼしい街や村をピックアップした。
このどこかで優秀な人をみつけるはず。
私はさっそく遠視で探した。
リストの中から1番大きな街を選んだ。
その街はかつての王都を思い出させた。
活気に溢れ、人々の生活は安定していそうだった。
私は片脚の男を探した。
街のいたるところをくまなく探した。
あんな男なら歩いているだけで目立つはずだ。
私は何か引っかかるものがあり意識を戻した。
(私なら目立つところへは行かない)
私は人の少なさそうな村を探すことにした。
案の定、それはそこにあった。
無惨にも森に捨てられていた。
片脚の男の亡骸である。
村を中心に探したがもうそこにはガオルの気配はなかった。
私はキリナを連れてその村に向かった。
森で亡骸をみつけた私たちは大きな木の下に穴を掘り、その亡骸を埋葬した。
(魔王に選ばれるほど優秀な人だったんだろうな)
花を添えて二人で合掌した。
それから私たちは村に向かった。
小さな畑があるこの村は狩猟で暮らしているようだった。
魔物の毛皮らしきものがあちこちでみられた。
(レイを連れてこなくてよかった)
生霊でついてきてるかな?
と思い直しキョロキョロしてみたがみつからなかった。
私とキリナは「姿が見えない人はいませんか?」と聞いた。
「みんな狩りに出てるよ。」と5人の名前を教えてくれた。
私たちは夜まで待つことにした。
村の入口で待っていると、ひとりふたりと狩りを終えた男たちが帰ってきた。
最後の5人目がいくら待っても帰ってこない。
夜は危険だから日が暮れると狩りをしないと村の人は言っていた。
私はこの村の村長だと言ってた人の家を訪ねた。
「事件に巻き込まれた可能性があります。」と伝えるとすぐに灯りのついていない家に案内してくれた。
ノックをしても反応がない。
鍵がかかっていなかったので中を確かめるが帰ってきた形跡はなく、朝狩りに行ったきりのようだった。
私たちは村長にその男の特徴を聞いた。
キリナは器用に似顔絵を描いた。
「似ておる。」
私たちは目を合わせ、「全力でお探しします。」と言って村をあとにした。
────
次の日から似顔絵の男の行方を探すことになった。
私は複製スキルで似顔絵を量産した。
(まるでコピー機)
似顔絵の下に特徴も書いてあった。
・身長180cmくらい
・細身
・左腕に☓の古傷がある
・弓の腕前がいい
・心優しく村のみんなに好かれていた
(きっと怪我をしてる人を助けようとしたんだ)
弓は落ちていなかったので持ち歩いていると言えるだろう。
私たちはガオルの行動を推測した。
「まだ勇者にこだわるならまた召喚しようとするはず。」
「召喚に必要なのは腕のいい魔法使いや神官。」
「召喚するには複数人必要。」
召喚できる人さえ集めてしまえば場所はどこでもいいだろう。
「人が多い場所で探すはずだよね?」
「でも近くの街で探すかな?」
私たちは人の多そうなところからしらみ潰しに探していくしかないと諦めた。
似顔絵を持って街を回ろうかとも思ったがこちらの動きを把握されかねないと思いやめた。
(私もキリナに探されていたっけ)
遠い昔のことのように思えた。
捜索はムイを主体にして行い、私とキリナとレイ、そして2匹はさらなるレベルアップを最優先とした。
────
それから1週間ほど、目ぼしい収穫は何もなかった。
レベリングは順調にこなしていたがガオルの痕跡は一切みつけることができなかった。
あちらもかなり警戒しているようだ。
私たちは捜索範囲を広げることにした。
最後に痕跡のあったあの村から一番近い城に行ってみることにした。
同じ手を使うとは考えにくいが、こちらの策も尽きてきた。
私は生霊を飛ばし、マップの開拓から始めた。
ダイオから北に位置するこの大陸は冬を迎えようとしていた。
北に行くにつれ雪景色が広がった。
私は雪に馴染みがない土地で育ったので単純にワクワクしてしまった。
(雪だるま作りたいな)
私は欲望に負けず飛び回った。
すぐに大きな城をみつけた。
雪の中にそびえ立つ白い城は息を飲むほど美しかった。
私は城の周りの目ぼしい街や村をまわり、大陸の南半分くらいを開拓した。
この大陸は大きいようだったが北のほとんどが厳しい寒さで植物もほとんどなく、氷で覆われていた。
人が住みやすい環境ではない。
私は切り上げることにした。
戻るとムイが「お疲れ様でした。」と言ってお茶を用意してくれた。
ムイは実物の雪を見たことがないと言っていた。
連れて行くのは簡単だけど、行く前にそれなりの装備が必要だろうと思った。
私は冬用のコートなどを出してみることにした。
私の住んでいた地域ではそんなに必要なかったのでエスキモーをイメージした。
(ここはツンドラ…すごく寒い…暖かいコートが必要…)
フードのついたスキーウェアのようなものが出てきた。
レイに気を使ってフードによくあるファー付きのものは避けた。
試しに着てみる。
暖かいが動きにくい。
しかし寒くて震えるよりはいいだろう。
ムイが私を見て「そんなの着てたら目だちますよ?」と言った。
(確かに…)
私はスキーウェアを脱ぎ、そっと片付けた。
(誰もいないところで雪だるまを作るとき着よう)




