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初任務

(寒い…寒すぎる…)


私は身震いしながら目を開けた。


地図を開きっぱなしの机。

私は椅子に座ったまま気を失っていたようだ。


時計もなく、窓もないこの部屋で時間の感覚がまったくない。

あれからどれくらい時間がたったのかわからない。


生霊として飛び回っていた時間はおそらく1時間程度だったろうか?

飛んでいる間は本当に楽しくてワクワクしていた。


しかしその代償がこれなのだ。

まだ気怠い体をなんとか起こし、階段を登った。


(喉が乾いて死にそう…)


私は調理場の方へ向かった。


さっき生霊として飛び回ったのでこの屋敷の配置はかなり覚えた。

目当ての扉をみつけ恐る恐るノックしてみる。


「はい」


女の人の声が聞こえ扉が開いた。


「おや?あんたは新しく来たシアさんかな?」


ふっくらとして愛嬌のある50代くらいの女性は優しく話しかけてくれた。


「はい!シアです!よろしくお願いします!」


精一杯元気に答えたつもりだがその場で私は力尽き、倒れ込んでしまった。


「あらあら!どうしましたか!」


ククルと名乗るその女性に長椅子まで抱きかかえられ寝かせてもらった。


「お水をいただけませんか…」


声を振り絞りお願いした。

ククルはいそいそとコップに水を注ぎ飲ませてくれた。


(生き返る…)


「ありがとうございます…」


ククルは私の顔を覗き込みまだ不安そうな顔をしていた。


「これをお食べなさい。」


ククルは戸棚から何か持って来て私に食べさせた。

それは黒くて青臭い飴玉ほどの大きさの丸い玉であった。


「にがい…」


お世辞にも美味しいとは言えないそれを飲み込むとスルスルと元気になるのがわかった。


「なにこれ?すごい!」


ククルは微笑みながら

「ククル特製の苦団子よ。」

と言った。


薬草のようなものかもしれない。

しかしこんなによく効くとはすごいものだ。


「魔力を使いすぎたのね…」


そう言うと瓶に水を入れたものと、さっきの苦団子を数粒袋に入れたものを渡してくれた。


「まだ来たばかりで力もうまく使えないのでしょう。急にこうなったとき用に近くに置いておきなさい。」


私は深々と礼をし、調理場をあとにした。

さっきまでの疲労感が嘘のように消えている。


ククルによれば苦団子は1日に3個までと言われた。

食べすぎると逆に体に悪いらしい。


廊下の窓からは西日らしき光が差し込んでいた。


(もう夕方か…)


私はまだ何も成果を上げていないことに気がつき急いで地下の部屋に戻った。


(早くどうにかしないと…)


地下の椅子に腰掛け、また地図を見返した。


(生霊を対象の王国まで飛ばすことができない…体力が足りない…)


まっすぐ向かったとしてもきっとたどり着けないうちに体力切れになるだろう。

途中で苦団子を食べるにしても生霊としては無理だし、本体を動かすこともできない。


私はまた身分証を手に取った。


ステータスに変化があった。

Lvが2になっていたのだ。

それに伴って体力やら魔力の数値も上がっていた。


(生霊として動いたことでレベルが上がったのかしら…)


私はもう一度試してみた。

目を閉じて体から抜けていくイメージを…


今度も成功した。

さっきと同じく本体は椅子に座り目を閉じている。


(また遠くまで行ってみるか…)


そう思ったがもう一つのスキルのことを思い出した。


”念動力”


念じたら物を動かせるのではないかと考えた私は本体がいる机の上の本に動けと念じてみた。


「わぁ!!」


本はゆっくりと宙に浮き、ふわふわと漂っている。


(本棚に戻れ…)


私はそう念じると本は勢いよく本棚に納まった。


(できた!!!)


それから私は屋敷の他の部屋へ行き、動かせそうなものを動かしてみた。


あまり大きなものはガタガタとするだけで浮かせることはできなかった。

今できる最大値は枕くらいのサイズだった。


そうこうしてる間にまたフラフラしてきた。


(やばい!また気を失う!)


私は急いで地下の本体へ向かった。


私は自分を見下ろしながら戻り方について何もわからないことに気がついた。


(とりあえず重なるようにしてみるか)


私はゆっくりと自分の体に重なるようにしてみた。


ピタッという感覚とともに目を開くと元の体に戻っていた。


(やった!大成功!)


疲労感はあったが気を失うほどではない。

ククルにもらった水を飲むと少し元気が出た。


そして私はまた身分証を確認する。


・生霊操作 Lv3

・念動力 Lv2


(やっぱり!)


どうやらスキルというのは使うとレベルが上がるらしい。

私自身のレベルも3になっていた。

他のステータスも少しではあるが数値が上がっている。


(なるほど、レベリングしないと!)


RPG系のゲームは大好きだ。

レベルを上げる繰り返しの作業だって苦じゃない。


私は生霊になり念動力を使い、疲れたら戻り休むというのを繰り返した。

途中でムイが晩御飯を持ってきてくれた。

ムイは私が集中して何かをしている様子を察して何も聞いてこなかった。

私は疲れ果てるまで何度も繰り返した。

限界を感じて眠りにつくまで、何度も、何度も。


────

それから3日ほど私は同じことを繰り返していた。

生霊でいられる時間は増え、念動力で動かせる物の大きさもでかくなった。

レベルは2桁になり体力も魔力もかなり増えた。


(そろそろ実戦をつまないと)


誰かを呪ってみるにしても対象がいない。

屋敷の人を呪うわけにもいかない。


私は森の中を探索してみることにした。

もちろん生霊として。



森の中には魔物と呼ばれるものが多くいるようだった。

体力回復の間に図鑑で学んだ。

弱そうな魔物を探す。


(いた!)


ダンゴムシのような形態の魔物だ。

5cmほどのそれはウジャウジャと群れを成している。


(いけっ!)


私は剣を刺すイメージを飛ばした。


ブシャッ


私のイメージは見事に命中した。

紫色の体液を撒き散らし、ダンゴムシは息絶えた。


(これはいける)


私は疲れるまでダンゴムシを斬った。


そして少しずつ大きな魔物にシフトしていった。

少しずつ、しかし確実に私は成長していた。


仕事を頼まれてから一週間が経とうとしていた。


悪魔に消されるのではないかとビクビクしていたがこの一週間は一度も姿を現さなかった。

ムイは相変わらず見守っていてくれているようだ。

時々体調を案じてくれるだけで仕事の進捗には一切言及してこなかった。


だからといってゆっくりしていてはいつ悪魔に役立たずと言われるかわからない。


(よし、明日あの王国へ行ってみよう)


私は心を決めた。


────


私は対象の剣士の顔をしっかり覚え、コンパスで方位を確かめた。

生霊として物を持ち運べたら楽なのだろうがそうもいかない。

物を掴むことができないのだ。

浮かしたり飛ばしたりはできるが掴むことはできない。

とても不便である。


しかたがない。

太陽の位置でだいたいの方角を行くしかない。


一週間でレベルは20になっていた。

スキルも同じようにレベルアップしていた。

かなり長い時間生霊として活動できるようになっていた。

これなら行けるかもしれない。


景色を楽しむこともなく私はまっすぐ例の王国へと向かった。

スピードもアップしていたのだろう。

1時間もしないうちに城壁が見えてきた。


あっという間に街に到着した。

そんなに大きな街ではないようだが人はたくさんいる。

この中から剣士を探さなくてはいけない。


まずはメインストリートっぽい店がたくさん並ぶところから探すことにした。


人々が賑やかに買い物をしたり食堂で食事をしたりしている。

私は酒場に向かった。


(こういうときは酒場にいるはず)


某ゲームでは困ったら酒場に行けば何か情報をもらえたものだ。


剣士らしき男は見当たらない。

奥のテーブルにいた数人の男たちから”悪魔”という言葉が聞こえた。

私は近づき話を聞いてみることにした。


「悪魔討伐なんて危険な仕事、俺は受けないぜ」


「俺だって嫌だよ」


「あいつ本当にやる気なのか?」


「きっとやられてお終いさ」


(どうやら剣士が悪魔討伐に動いているのは本当らしいな)


「仲間が集まり次第出発するって言ってたがまだ一人も志願者いないんだろう?」


「ずっと教会でまってるみたいだぜ」


「さっさと諦めたらいいのに」


(教会か…)


私は教会を探すことにした。

そこに剣士はいるようだ。


教会はすぐにみつかった。

中に入ると男が一人いた。


(こいつだ!)


人のよさそうな中年の男だった。

使い込まれた剣を腰から下げ、数珠のようなものを腕に巻きつけていた。


(さて、どうしたものか)


とりあえずみつけたものの、どうするか考えていなかった。


(邪魔をしてほしいって言ってたっけ)


殺そうと思えば殺せる気がしていた。

森での修行で熊サイズの魔物までは倒せるようになっていた。


(殺していいのかな?)


魔物とは違う。

人を傷つけたことなんてない。


(討伐を諦めればいいってことだよね?)


私は心に決めた。

そして剣士に向かって刃を向けた。


「ギャーッ」


剣士は悲鳴をあげその場に倒れ込んだ。

両足から血が流れる。


私は剣士の足を狙った。

歩けなければ悪魔を倒しに行こうなんて思わないだろう。

命を奪わなくても邪魔したことにはなるだろう。


(ごめんなさい…)


見るに耐えなくなり私は一目散に屋敷に向かった。

これでよかったのかもわからないがあの場にはいたくなかった。


1時間もかからず屋敷に戻ることができた。

私は体に戻りククルにもらった苦団子を食べた。


体は元気になったが気持ちは悲しいままだった。

涙が溢れる。


(私はなんて恐ろしいことを…)


剣士の悲鳴が聞こえるような気がして両耳を手で閉じる。


こんなことをこれからもやらなくてはいけないのかと思うと絶望感で打ちのめされた。


ムイが笑顔で食事を持ってきたが食べることはできなかった。


その日は早くベッドに入った。

疲れているはずなのに眠れない。

まだ心臓がバクバクしている。


(あの剣士、大丈夫だったかな…)


眠れない夜は長い。





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