マネ
私が司令室に戻るとみんななぜか笑顔だった。
ムイが「花の守護神様の修行、うまくいったようですね!」と言った。
(あれ?私そんなこと言って出ていったっけ?)
「聖女様があの子はきっと大丈夫よって言いに来た。」
レイが一生懸命説明をしている。
(かわいい)
「コーヒー3杯も飲んでった!聖女すごい!」セキはコーヒーは大人の飲み物だと思っているので飲めるとすごい!となる。
(聖女がわざわざここに来たのか)
「みんな報告ありがとう。」私はにこやかに言った。
アリが出てきて「シア、強くなったね!」と言った。
私は悟りスキルのことを思い出しムイに聞いてみた。
「ねぇ、『悟り』っていうスキル知ってる?」
ムイではなくキリナが食いついた。
「シアさん!今、悟りと言いましたか?!」
キリナは興奮気味で私に近寄ってきた。
(近いんですけど…)
「悟りとは精神が成熟した者に稀に現れるスキルです。」
キリナは説明をし始めた。
「迷いの世界を超え、真理を体得すること。と言われております。つまり精神の向こう側へ行ったということです!」
キリナは「どうだ!」とでも言わんばかりの顔で言い切った。
私にはさっぱり意味がわからなかった。
「私もほしいんですよね〜なかなか覚えられなくて。」
と言うので「効果は?」と聞くと「知りません。」と言う。
「なんかかっこよくないですか?いいなぁ〜」
(キリナはスキルオタクだったか)
ムイもそんなスキルは知らないと言った。
試しに「スキル悟り!発動!!」
とやってみたが何も起きなかった。
特に使えそうな感じもしないし(まぁいいか)と保留にした。
悪魔は私の顔を見て「スッキリしたな。」と言った。
確かに修行を終えてから身も心も軽くなった気がする。
「花の守護神様のおかげです。」
と言うと頭をポンポンして「がんばったな。」と言った。
(最近子供扱いされている気がする)
私はやる気マンマンだった。
(レベリングでもするかな!)
と思ったが外は真っ暗だった。
レイはいすの上で居眠りをしていた。
「私どれくらい居なかったの?」
と聞くと「5時間くらいですかね。」とムイは言った。
ほんの30分くらいだと思っていた。
(昼寝しちゃったのかも…)
私はキツネに申し訳ない気持ちになった。
(次はちゃんとやります…)
私は寝ているレイを抱きかかえて寝室に向かった。
今日はほとんど構ってあげられなかった。
(お利口さんで待ってて偉かったね)
ベッドに寝かせて頭を撫でた。
(また守るものが増えたな)
私は力がみなぎってくるのがわかった。
(明日もがんばろう!)
────
私はまた例の城を遠視で見ていた。
あの騎士をみつける。
今日は姫様の護衛のようだった。
注意深く見ていると騎士は姫様に近づき口から何か黒いものを出した。
黒いものは姫様の耳から中へスゥーッと入っていった。
(なにこれ、気持ち悪い)
姫様はその場でパタリと倒れた。
その騎士はすぐに姫様を抱きかかえて居室に連れて行った。
姫様は目を開けた。
離れようとする騎士の腕を掴んだ。
(邪悪なものだと気がついたのかな!)
どうやらその逆だった。
姫様はその騎士に恋をしたように見えた。
私は魔王にそのまま報告をした。
「気持ち悪いのぉ…」
私とまったく同じ反応をしたのでプッと吹き出してしまった。
「王族に入り込もうとしているのでは?」
キリナは眉間にシワを寄せながら言った。
「それはありえるのぉ。」
「国王に知らせる手立てはありませんかね。」
ムイも眉間にシワを寄せていた。
「失敗すると城にいる者たちに危険が及ぶかもしれん。」
(確かに皆殺しにするのくらい容易いだろう)
「今日はこれくらいにしとけよぉ。」魔王はいつものようにそう言って出ていった。
私は昨日ほとんど構ってあげられなかったレイのレベリングをすることにした。
アリとセキも「ボクもボクも!」と言うので亜空間に移動した。
2匹は本来の姿になった。
2匹とも大きさはそれほど変わっていないように見えたが、なんだか筋肉質になったように見えた。
動くとスピードがすごく上がっていた。
「速く動けるよ!」
レイとのトレーニングで敏捷性が上がったらしい。
「今日は魔法の訓練をします!」
「特別講師のキリナ先生です!拍手!」
2匹とレイはパチパチと拍手をした。
キリナは「始めますよ。」とスタスタ行ってしまった。
前方に大岩がある。
「魔法であの岩を壊してください。」
アリは大声で吠えた。
岩はボロボロと崩れた。
「それは魔法じゃありませんね。はい次!」
私は岩を出した。
セキは口から勢いよく炎を吐いた。
岩はボロボロと崩れた。
「それも魔法じゃありませんね。はい次!」
私はまた岩を出した。
レイが何かブツブツと言っている。
岩は勢いよく砕け散った。
私もキリナもびっくりして「どうやったの?!」と聞いた。
レイはキョトンとして「お姉ちゃんのマネ」と言った。
(私のマネ?!)
スキルを確認するとそれはそこにあった。
・念動力
・呪詛
生霊操作こそなかったがまさかそんなスキルをマネされるとは思ってもいなかった。
「見ていて覚えたの?」と聞くと、うんと頷いた。
他にもいくつか私のスキルを覚えていた。
気配探知や精神遮断などはいいとして呪詛はいかがなものか?
(この天真爛漫な感じでまわりを呪いまくったらどうしよう)
私は青白い顔をしていたのだろう。
キリナは座るように言ってきた。
私はその場に座り、レイの新しいスキルの話をした。
「それは、よくないかもしれませんね…」
キリナも同じ考えのようだった。
「魔法の特訓は終わり!走る練習をしましょう!」
と言うと2匹とレイは楽しそうに走っていった。
レイは今のところ心優しく育っている。
しかしいつその心を傷つける者が現れるかわからない。
レイが(死ね)と思ったら相手は死んでしまうだろう。
「今はそのスキルのレベルが上がらないように気をつけましょう。」
キリナに言われ私は頷いた。
その日の夜、私はレイにこう話した。
「何か嫌なことをしたり、嫌なことを言う人がいるかもしれない。だけどその人はレイの命を奪おうとはしていない。そういうときは呪詛のスキルを使っちゃダメだよ。呪詛のスキルは本当に悪いやつに使うんだよ。」
レイは理解したような顔をしていた。
「恐ろしいスキルなんだね。」
レイはまっすぐな瞳で質問してきた。
「人を呪うと言うことは恐ろしいことなんだよ。」
「お姉ちゃんは使わない?」
私は返事に困った。
「大事な人を守るためになら使うかもしれない。」
レイは「うん」と頷き、「私もそうするね。」と言ってニコッと笑った。
レイはすんなりと受け入れてくれた。
(頭のいい子だな)
「寝ようか。」
私がそういう前にアリとセキはもう寝てしまっていた。
レイはまた一緒に寝るといい猫の姿になった。
私はもふもふを抱きしめて気持ちよく眠りについた。
────
次の日も朝から例の城を観察するとあの男は騎士の格好をしていなかった。
立派な白いスーツを与えられていた。
騎士の仕事は一切せずにずっと姫様の横にいた。
どうやら側近の従者になったようだった。
常に姫様の横にいた。
姫様はその男に熱い視線を送っていた。
(気持ち悪い…)
今すぐ飛んで行って姫様に本当の事を言ってあげたかった。
こっそり言おうにもあの調子じゃ隙も何もない。
王様にこっそり言おうか。
私はあの男が口から出した黒いモヤモヤを思い出した。
あれで操っているのだとしたら…
すでに王にもその息がかかってしまっているだろう。
気がつかれてしまえば誰かが傷つくかもしれない。
(人質を取られてるみたい)
────
私は監視するのをやめた。
今日はレイの精神遮断スキルを伸ばしてあげようと思った。
きっとあの黒いモヤモヤから守ってくれるだろう。
レイと”あてっこゲーム”をした。
いろんな記号を描いたカードを作った。
自分のカードを相手に当てさせないようにするゲームだ。
「私が持っているカードに書かれているマークは何でしょう?」
レイはうーんと悩み当てずっぽうで「まる!」と答えた。
「はずれー!三角でした。」
レイは悔しそうにしている。
「じゃあ今度はレイのマークを当てるね。レイは当てられないようにカードに壁を作るイメージをして。」
レイは目を閉じてウンウン唸っている。
「レイのマークは…お花の形!」
「わぁ、当てられちゃった。ねぇ、もう一回!」
レイは順調に精神遮断のスキルのレベルを上げていった。
こまめにレイを鑑定していた。
呪詛のレベルは上がっていない。
「言いつけを守って偉いね。」と撫でると喉をゴロゴロ鳴らして喜んだ。
このまま健やかに成長してほしい。
気がつかなかったがレイはいつの間にか9歳になっていた。
(お誕生日いつだったんだろう…)
私はハピリナにレイを連れて行った。
カリナにイチゴのケーキを頼んだ。
カリナは喜んで!とすぐに作ってくれた。
その間私とレイは長老の家を訪れた。
レイは長老に頭を撫でられ嬉しそうにしている。
長老にスキルの話をしてみた。
一瞬眉間にシワを寄せたがすぐにニコリと笑って、「シアのミニバージョンになるかものぉ。」と言った。
レイが「それなに?」と聞くと「ちっちゃいシアってことだよ。」と、聞くとレイは喜んだ。
「シアみたいになる!」
私と長老はきっと同じことを思っていただろう。
(どうかこの子が穢れることなく過ごしていけますように)
長老の家でおしゃべりをしているとカリナがケーキを持って長老の家にやって来た。
私はロウソクを9本出して火をつけた。
レイは「これなに?」とまた聞くので「お誕生日ケーキだよ!」と言って私はこの世界でだれも知らないだろうハッピーバースデーの歌を歌った。
「心の中でお願い事をしてロウソクの火をフゥーって消して。」と言うとレイは目を閉じて何か口を動かしていた。
そして思い切りフゥーと息を吹きかけた。
その勢いは強すぎて向かい側に座っていた長老の顔がクリームだらけになった。
私たちは大笑いした。
ひとしきり笑ってみんなでケーキを食べた。
レイがどこまでわかってるかはわからないけど幸せそうなのはわかった。
私も幸せだった。
(また来年もこうやってお祝いしようね)




