大移動
私は聖女と賢者を連れてタナカ町に来ていた。
私はいつもの真っ黒な不審者になっていた。
アリに「それまだ必要?」と言われたが人間たちの前ではこれで通したいと言った。
キツネはいつ間にか消えていた。
アリのように常にいるわけではなく必要なときに現れると聖女は教えてくれた。
私はアリを撫でて「アリとは違うみたいだね。」と言うと、「シアにはいつもボクが必要でしょ!」と言った。
私が「そうだね。」と言うと満足そうに籠に戻っていった。
タナカ町は人が増えていた。
私はタナカにここも危険かもしれないと言った。
そしてゲートの向こう側へすぐに引っ越すように言った。
タナカたちは畑をみて名残惜しそうに言ったが「クロ様が言うのなら!」とすぐに移動を開始した。
私は聖女を伴い亜空間の中に家を増やした。
かなりの広さがあるので王都の街をそのままイメージした。
亜空間には酒場や教会なども現れ、人間たちは懐かしそうに見て回っていた。
私は畑や果樹園などハピリナにあるものも出した。
あれやこれや言ってる場合じゃない。
とにかくここにいる人たちが飢えなければいい。
聖女は私を回復させながら、
「シア殿の力は恐ろしいものですね。」
と驚いていた。
ムイがいたらまたドヤ顔をしただろうなと思い照れ笑いをした。
そういう聖女の力も凄まじく、魔力は常に満タン状態だった。
「聖女様のおかげです。」
そう言うと聖女は「こんなのお安い御用ですわ。」と高笑いをした。
「このくらいで大丈夫でしょうかね?」
あっという間に1000人くらいは収容できるくらいになっていた。
「とりあえず王都に近い街の者たちを避難させましょう。」
私はムイに「王都に人は残っている?」と聞いてみた。
ムイは「勇者が暴れまわっていて街は壊滅状態です…」と言った。
勇者は得意の攻撃スキルで街に残っていた人をみつけては殺し、建物を壊して回っているようだった。
(王都はもう手遅れだ)
王都に近い街に行くとそこはもう混乱状態だった。
王都から逃げてきた人たちが「勇者様がご乱心!」と大騒ぎをしたようだ。
聖女と賢者は人々に落ち着いて聞けと避難が必要であると説明した。
私はモヤモヤを出して次々と人間たちを亜空間に送った。
人間たちは着の身着のままで我先とモヤモヤをくぐった。
人を押しのけ先に行こうとする輩をみつけては私は(動くな)と念じ、他の者たちが移動し終わるまでその場にいさせた。
「助けてくれ」と泣き叫んでいたが助ける者もいなかった。
(やれやれ)
私は少し嫌気がさしていたがここでやめるわけにはいかない。
人の気配がなくなるまで続け、人がいなくなるとまた次の街に向かった。
何も気がつかず普通に暮らしている街もあった。
「そんな必要なない」と拒む者も出てきた。
賢者は説得しようとしたが私は「それは本人の自由。」と言って残る者がいても無理強いはしなかった。
聖女も説得する時間がもったいないと言い、「来たい者だけこちらへ!」とモヤモヤへ誘導した。
そんな調子で大移動を続けた私たちは半日で目ぼしい街の住民を避難させることに成功した。
亜空間は人で溢れていた。
私は拡声器を出して大声で説明を始めた。
「ここは避難所である。」
危険がなくなったら帰れること。
それまではここで暮らしてほしいこと。
争わず、他人を思いやり尊重して生活してほしいこと。
人から奪わず必要以上の物を欲しがらないこと。
タナカやワタベの言うことを文句言わないで聞くこと。
私はここでの最低限のルールを話した。
文句を言う輩もいた。
私は牢屋を作りそういう輩を入れた。
そして「出て行きたい人は今すぐ名乗り出よ。」と言った。
数人出てきたので私はゲートから出ていくように言った。
それからゲートを壊した。
これであちら側と自由に行き来はできなくなった。
私は自由に住まいを探すように言った。
争いが起きたら両者を牢屋に閉じ込めると脅した。
人間たちはまわりを窺いながら家を探した。
タナカは「必要な物資や足りない物があったら腕章をつけている者に相談してくれ。」と言った。
いつの間にか兵士たちをまとめあげ、町の運営を手伝わせていた。
「さすが町長だね!」
タナカは頭を掻きながら「こんな人数になるなんて聞いていませんでしたよ。」と困り顔で言った。
しばらくはここも混乱が生じるだろう。
かつて見たことのある兵士たちも集まってきた。
いつかの騎馬隊の面々であった。
「私たちにも何か手伝わせてください。」
タナカは「助かります!」と言って仲間のもとへ連れて行った。
聖女は「ここは私にお任せください。」と言ってくれたので任せることにした。
私とキリナは屋敷に戻った。
戻るとムイは勇者の動向を記録していた。
「今は城にこもっているようです。」
今や王都の城は魔王城よりもおどろおどろしく、赤黒いオーラを放っていた。
遠視でも中は見えず、何か結界を張っているようだった。
「中は見えないや。」
私が言うとムイが「無茶はしないでください!」と怒り気味で言った。
死んでからというもの私の周りの人たちは過保護だった。
(ありがたいことだけど)
ククルはキリナのおばあさんと意気投合したようだった。
「ご夕食の準備ができましたよ。」
私たちは広間に呼ばれ、悪魔やニヤも一緒に食事をとった。
私は悪魔に今日の出来事を話し、「よくやった」と褒められた。
食事を終えると「魔王に報告してくる。」とニヤと出かけていった。
残された私たちはテーブルの画面にタナカ町を映して様子を見ていた。
「うまくいくでしょうか?」
ムイも人間たちを信用していないようだった。
「ここからは自業自得になるよ。」
私は争いを始める者に優しくはしないと言った。
キリナも「仕方がないですね。」と暗い顔をした。
────
勇者とガオルは近くの森や街をどんどん赤黒いオーラで取り込んでいった。
キリナが「村の人たちが心配だ。」と言うので避難させることにした。
私は「あの中に放り込むほうが心配だ。」と言った。
あののどかな雰囲気のあの村の人たちを殺気立っている人間の中に放り込むのは酷だと感じた。
私はキリナの村そのままそっくりの亜空間を作った。
ゲートを作るのは不安だったので閉じ込める形になってしまうけど…と言うとキリナは「それでいい」と言った。
キリナは村の人たちに今の状況を説明した。
おばあさんも村に帰るといい、亜空間に移動するように村人たちを説得した。
村人たちはすんなりと受け入れ、すぐに移動していった。
キリナは何かあったら連絡するようにとおばあさんに頼んでいた。
「こっちのことはおばあに任せな!」
(頼もしい)
────
聖女と私はガオルが拠点を広げていくたびに新しい街や村に行き、避難をさせた。
今では勇者の噂は遠くの街や村まで届き、人々は恐れながら生活をしていた。
そのせいか移動の説得は楽なものだった。
人々は喜んで避難してきた。
亜空間は大陸中の人々を集めるような形になってしまった。
私はある程度の集落を作り、少し距離を置いては他の集落を作るようにして小さなコミュニティをたくさん作った。
その中からリーダーをみんなで選び、他のコミュニティとうまく連携していくように言った。
はじめは混乱していた人々も時間が経つにつれ落ち着きを取り戻していった。
しかし牢屋は血気盛んな輩でいっぱいになっていた。
私はいつまでも騒ぎ続けて牢屋の中で殴り合う輩たちをモヤモヤから外へ出した。
「好きに生きていきな!」
そういう輩たちはすぐに嬉しそうにどこかへ消えていった。
たまに改心したように謝罪をしてくる者もいた。
私は「欲張らなければ楽しく暮らせるはずだよ。」と言って亜空間に戻してやった。
(全員を救うのは無理だな)
私はうまく生活しているコミュニティを回ってはご褒美だとご馳走や酒をふるまった。
その噂が流れ、悪いことをする人は少なくなった。
もしいたとしても住人たちが自らその人を捕まえて牢屋に入れてくれと連れてきたりした。
そうこうしているうちにタナカ町は秩序という名の元に問題もなく平和に過ごせるようになった。
(飴と鞭作戦 大成功)
私は普段通りの生活ができるようにとできるだけのことをした。
もちろん労働もさせた。
農業や採掘、狩りなどの力仕事から薬草の採取から薬作りなどの専門職、酒場の運営や食堂の運営などもさせた。
労働には対価を払った。
タナカに資金を渡し、うまく分配するように頼んだ。
そこでも自分だけ得をしようとするものが出てきたが住人たちはそれを許さなかった。
いつの間にか住人たちだけでうまくやるようになっていた。
私は安心して聖女と人間たちにここを任せた。
それに私にはやることがあった。
レベル上げだ。
キリナと一緒にダンジョンを回った。
一週間もすると聖女が「これ以上は無理。」と言い出した。
ダンジョンをレベルアップしていってくれていたがそろそろ限界だという。
そうしているとキツネが現れ「私がお相手いたしましょう。」と言ってくれた。
私は新たな亜空間を作り、そこでキリナとキツネに稽古をつけてもらった。
キツネは今まで戦ったどの相手よりも強かった。
「ボクもー!」とアリとセキも言うので一緒に相手になってもらった。
アリはさらに俊敏性が上がり、あの巨体でものすごいスピードで移動し私たちを翻弄させた。
セキはさらに大きくなっていて攻撃力もすごかった。
私とキリナは避けるのがやっとだった。
そうして2週間くらいが過ぎた。
魔王は魔王城の城下町にいた魔族たちをハピリナに避難させた。
私は未開拓の土地に城下町をそのまま作った。
魔王もそれには驚いていた。
みんなに感謝されながら私は鍛冶屋のゲートを壊した。
ピートに「お役目ご苦労様でした。」と言うと少し涙ぐんでいた。
城下町はそのまま結界で守られていた。
いつでも帰ってきてね! と言っているようだった。
勇者とガオルは人間たちがいないことに気がついたのかおとなしくなっていた。
(きっと何かを企んでいるに違いない)
私たちは油断せず、慎重に準備を進めていった。
第二段階 『レベルアップ』進行中




