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生霊操作

薄暗くなんだかジメジメしている。

物音ひとつ聞こえない。

たくさんの本に囲まれた真ん中にポツンと置かれた机と椅子。


私はその椅子に腰掛けている。

そしてどうしていいものかぽけーっと考えている。


────

「ではさっそくこの人を呪ってくださいね」


ムイはニコリとそう言いながら私に数枚の紙を渡した。


(まったく読めない…)


文字らしきものはあるが読むことができない。

そこには名前から住所や生年月日に趣味や好きな食べ物までありとあらゆる情報が書かれているという。

最後のページには似顔絵と思われる絵が添えられていた。

そもそも呪うってどういうこと?


「呪うってどうやって?何をすれば…」


ムイはびっくりしたように私を見つめる。


「シアさんは召喚される前に呪いを得意としていたのでは?」


(呪いが得意ってなんなのよ…)


「この方はご主人様を討伐しようとしてらっしゃいます。どうかそうならぬようにシアさんに邪魔をしてほしいのです。」


(邪魔…っていうからには殺さなくてもいいって言うことか)


「前の世界でやっていたようにやってみてください。

残念ながら私は呪いなどには精通しておりません。

何か必要なものがあればご用意いたしますのでおっしゃってくださいね。」



そう言われて一人にされてからかれこれ2時間くらいたっただろうか。


(いつもやっていたように…

転べ!とか、失敗しろ!とか念じてただけなのだが、はたしてそれでいいのだろうか?)


もらった資料を眺めながらいろいろ念じてみたが何も起きない。

もともと呪いと言っても私の自己満足だったわけで何か効果があったわけではないのだから。


(仕事もできない役立たずだとバレてしまったら私はどうなるんだろう…)


恐ろしい想像をしてしまい私は身震いする。


あの美しい悪魔は冷酷に私を排除するに決まっている。

悪魔なんてきっと慈悲の心なんて持ってるわけがない。


そもそもこの紙に書かれている人がどんな人なのかもわからないし、なんの恨みもない。

そんな人を呪うことなんてできるのだろうか?


途方に暮れた私は天を仰いでいた。

薄暗い天井は無情にも冷たくかすかな灯りによって、ゆらゆらと影が動くばかりだった。


「どうですか?シアさん」


甘くいい匂いとともにムイがやってきた。


「お疲れでしょう。お茶をお持ちしました。お召し上がりください。」


紅茶のようなお茶とクッキーのような焼菓子が皿に数枚盛られていた。


「ありがとうございます!」


私は普段使わない頭をフル回転していたので甘い物を欲していたようだった。


(おいしい〜素朴な味わいが染みるわぁ〜)


あっという間に平らげてしまい、自分がまだ何もできていない罪悪感にはっとする。


「忘れておりました。こちらをどうぞ。」


ムイは絶望していた私にカードのようなものを渡した。


「シアさんの身分証になります。」


そのカードには何やら読めない文字のようなものと私がこの世界でもらった美しい顔が描かれていた。

免許証のようなものだろうか。


それを手に取った瞬間、急に空中に画面のようなものが現れ文字のようなものが流れた。


私はまじまじと眺めたがまったく読める気配がない。


その顔を察したのかムイが説明しだした。


「こちらはシアさん本人にしか発動しませんしその情報も人に見られることはありません。」


「あの…私…こちらの文字がまったく読めないのですが…」

泣きそうになる私。


「あぁ、なるほど。そういうときは言語変更が可能なはずです。」


ムイはその画面の操作方法を教えてくれた。


私はよくわからないまま言われるがままに空中にある画面をタッチし続けた。


何度か操作するとやっと読める文字になった。


「ありがとうございます!読めるようになりました。」


「では引き続きよろしくお願いしますね。」


ムイは食器を片付け階段を上がっていってしまった。



私はまださっきの画面と格闘中だった。


どうやらこの身分証と言うやつは私の今のステータスがわかるらしい。


・名前 シア

・年齢 17

・種族 呪物

・Lv 1


(種族が呪物ってなんなのよ…)


その他にもよくゲームで見るようなHPやらMP、攻撃力やら防御力などの数値も書かれていた。


比較になるものがないのでなんとも言えないがどれも1桁の数字だったので弱いに違いない。


こんなんじゃあの悪魔に一瞬で消されてしまう。


最後にスキルという項目があった。


スキル

・生霊操作 Lv1

・念動力 Lv1


(生霊を操作できるってこと?)


そもそも生霊なんて出したことがない。

出そうと思って出るものなのか?


(念動力ってポルターガイストみたいなやつかな?)


試しに本棚に向かって動け!と念じてみた。

しかし何も起きない。


「はぁ…」


また途方にくれてしまった。

視線を机に戻すと先ほどの資料が目に入った。


さっきまでまったく読めなかったその資料が読めるようになっていた。

よくわからないが翻訳機能が働いたのか。


(剣士 モドラニカ)


この肖像画の人の名前だろう。

住所らしいものが書かれているがまったく検討もつかない。


(地図とかないかな…)


私は机の引き出しを開けてみた。


中には必要そうな文房具やトンカチなどの工具まで入っていた。

他の引き出しにはなにやら怪しげな液体の入った瓶などもあった。


机の中には地図らしきものはなかった。


私は本棚へ向かう。



たくさんの本がぎっしりと詰まっている。

この中から探すのは大変そうだ。

とりあえず手前から取り出してはパラパラとめくってみる。


植物図鑑のような本でこの世界に存在する薬草や毒草などについて書かれているらしい。

隣の本には魔獣図鑑と書かれ、中には見たこともない獣の挿絵と生態について詳しく説明されていた。


どれも未知の世界であり興味はあったが今はそんなことをしてるわけにはいかない。

いつタイムアウトと言われるかわからない。

私は次から次へと本を手に取った。


やっとそれはあった。

薄い大きめの本の中に付録のようについていた折りたたまれた紙は地図だった。

広げるとかなり大きかった。


(これがこの世界の地図かぁ…)


見慣れない大陸の名前がたくさん書かれている。

海も存在しているようだ。


(私が今いるところは…)


さっきの身分証に私の住所らしいものも書いてあった。


・グラッツ山脈 58-953


地図には確かにその山脈があった。

後ろの数字は番地のようなものだろう。


次に剣士の場所を探してみる。

住所にはハナザヤ王国と記載されている。


地図を見ると現在地より北西にその王国はあった。

縮尺がどうなっているのかわからないがきっと徒歩では行けないだろう。


物理的に危害を加えるのは無理そうだ。

そもそもこの屋敷から外に出たいなんて1ミリも思わない。


私はまた途方に暮れてしまった。


(どうしようかな…)


私はまた身分証を手にしてステータスを見返した。


(生霊操作…


生霊を出したり引っ込めたりできるってことだよね?)



私は昔テレビでみた心霊特集を思い出した。

幽体離脱のやり方というようなことをやっていた番組だ。


目を閉じて自分の体から離れていくイメージを想像する。


うまく行けば天井から自分を眺めることができると番組に出ていた胡散臭そうな男が言っていた。


私は十分にイメージをしてからゆっくりと目を開けてみた。



「ひぇっ」


思わず声が出てしまった。


なんと成功してしまったのだ。


目を閉じて椅子に座っている私が見えるではないか。



私はそのまま動き回ってみた。


まるで幽霊のようにふわふわと飛べている。

しかも壁や物体を通り越すことができる。


(これが生霊ってやつか!!)


私は屋敷の中を飛び回ってみた。



屋敷の中には数人の使用人が掃除や料理などをして働いていた。

ムイは執事室で分厚い本を読んでいた。


あの悪魔のものらしき豪華な部屋はあったが不在のようであった。


この屋敷はそこまで大きくはないが手入れが行き届いていて立派に見えた。


一通り屋敷を見て回ったが誰も私に気がつかない。


(この姿は他の人に見えないのね…)


私はワクワクするような高揚感を覚えた。

楽しい!!


ワクワクを抑えられず外に出てみることにした。


屋敷の外は昼にも関わらず薄暗かった。

まわりは木に覆われた広い森だった。

他に家屋は見当たらない。

山脈というだけあって高い山の上にあるようだ。


調子に乗って遠くまで来てしまったようだ。

もう屋敷は見えない。

しかし深い森はまだ続く。


(あれ…なんだか…頭が…)


急にめまいを感じ目の前が真っ暗になった。

スルスルと落下していく感覚があった。


次の瞬間私はあの部屋にいた。


椅子に座り地図を見ていた。


しかし体は疲労感がすごかった。

身動きも取れぬような疲労感。


(生霊の代償かな…)


どうやら生霊を飛ばすにはかなりの体力を使うようだ。


私はそのまま気を失ってしまった。





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