コーヒー牛乳
「絶対に無理はするなよ。」
怒り気味の悪魔と心配そうにしているムイを横目に私はキリナの村へ向かった。
念の為こまめに魔力量をチェックするように言われている。
(全然減ってないな)
私はククルのクロワッサンを片手にキリナの家のドアをノックした。
すぐにおばあさんがドアを開けてくれた。
おばあさんはすぐに私に抱きついた。
「シアさん…心配してたよ…その髪はどうしたんじゃ…」
おばあさんは私の髪の毛のを撫でて涙を浮かべている。
キリナも心配そうな顔をしていた。
私はすぐにテーブルに案内され、クロワッサンを渡すと二人とも珍しそうにして喜んだ。
「さっそくだけど…」
と、私は聖女の話を最初からした。
「死んでしまった。」
というところで二人ともびっくりしすぎて椅子から落ちそうになっていた。
『呪い返し返し』というスキルの話をしたときにキリナは、
「その髪の毛は呪いのせいでしょうね。」
と言った。
強大な呪いを受けるとそうなることがあるという。
「私も聞いたことがあるだけで見るのは初めてですけどね。」
と私の白い髪を眺めた。
(強大な呪い…元を正せば私がかけた呪いなんですが…)
「もしかしたら私のスキルで直せるかもしれません。」
とキリナは言った。
「そんなスキルをお持ちなんですね?」
私は戻るなら戻したいと思った。
「賢者に与えられるスキルなんですが…」
回復魔法の上位種にあたるらしい。
そのスキルは『浄化』というそうだ。
キリナは椅子に座った私の後ろに立ち、頭に杖を向ける。
何やら呪文を唱えている。
ほんわかと温かくなってきた。
私は気持ちよくなって自然と目を閉じる。
おばあさんが「おぉー!」と声をあげた。
キリナは呼吸が荒くなっていた。
かなりの魔力を消費するようだった。
私に鏡を見せてくれた。
そこには金髪の美しい女性がいた。
「キリナさん!ありがとうございます!!」
私は立ち上がってその姿をいろんな角度から見た。
すっかり元に戻っている。
なんなら前より艶が出てサラサラになっている。
キリナは疲れた様子だったが笑顔で「よかったです!」と言った。
おばあさんに例の苦いドロドロの液体を飲まされていた。
「すごいスキルですね…たくさん魔力を使って…本当にありがとうございました!」
私はキリナの手を握りブンブン振った。
キリナが照れて困ったような表情をしたので「興奮しちゃって…ごめんなさい。」と手を離した。
それから私は『シアver.2』とレベル1になったことやステータス上昇について話した。
キリナは笑いはしなかったが、「私もそのような話は聞いたことがありませんね。」と首を傾げた。
そして聞こうと思っていた質問をしてみた。
「キリナさんは私の話を聞いて今後どうしようと思っていますか?」
少しの沈黙が流れる。
「私は…」
と言葉を止めた。
私は緊張してつばを飲んだ。
「私はシアさんの力になりたいと思っています。たとえそれが王都の考えに反していても。」
と力強く答えた。
私は欲しかった答えがもらえて喜んだ。
「ありがとうございます!!」
そう言うと聞きなれない音がした。
アリが出てきて「時間だよ!」と言った。
私は悪魔に時間制限をかけられていた。
「ごめんなさい。もう帰らないと…」
そう言うとおばあさんがあの苦いドロドロを瓶につめて持たせてくれた。
「おばあの秘伝レシピじゃよ。」とニヤリと笑った。
キリナは「またすぐに遊びに来てくださいね!」
と見送ってくれた。
────
帰るとムイが「遅い!」と待っていた。
すぐに私の髪色に気がつき、「これはいったい…」と触ってみている。
「賢者の『浄化』スキルです。」
ムイは「なるほどなるほど…」とブツブツと言い、
「さすがあの賢者ですね!」
と褒めた。
私はすぐに悪魔の執務室に向かった。
ノックして入るとニヤもいた。
悪魔も私の髪の毛に気がついた様子だったのでムイにしたのと同じ説明をした。
悪魔もニヤも「さすが賢者だ」と感心していた。
そして「悪魔にそんな女神のようなスキルは使えんでな。」と、いつものニヤニヤで言った。
それから私は本題の『賢者の今後』について話した。
悪魔も満足気に「よくやった。」と言い、ニヤと魔王城に行くと消えていった。
私はククルのところに寄って、キリナのおばあさんにもらったあの苦いドロドロをみせた。
ククルは「液体タイプの方が即効性があって効くんですよね〜」と言い、「でも団子だと持ち運びが楽ちんでしょ!」とドヤ顔をした。
(確かに)
私は部屋に瓶を置き、地下室に向かった。
昨日もらったクロワッサンを食べるのを忘れていたことに気がついて2匹とおやつにした。
(1日経っても美味しいわ〜)
私はコーヒー牛乳のことを思い出した。
(ハピリナに行きたい)
悪魔は魔王のところへ行ってしまった。
(ムイに聞いてみるか)
ムイは自室で分厚い本を読んでいた。
「浄化について調べておりました。」
そして「体に異変がないなら大丈夫だと思います。」とニッコリ教えてくれた。
私が「ハピリナに行きたい。」というと最初は反対したが残りの魔力量を伝えると「では私もついていきます。」と言った。
(まぁいいか)
私はその場にモヤモヤを出しムイを先に通した。
「魔力量チェック!」と言われ見てみるがほとんど変わっていなかった。
(すごいエコ仕様になったな)
私はそのまま温室に向かった。
ムイは村の人たちに声をかけられ嬉しそうに手を振っていた。
「ヤゲンいる?」
薬草に詳しい魔族のヤゲンはすぐに駆け寄ってきた。
「シア様!ゴムの試作品を見てくだされ!」
ヤゲンは輪ゴムの大きなものを見せてくれた。
「これはいろいろなものに使えそうですな!」とすごく嬉しそうにしていた。
私は小さめの輪ゴムを手に取り伸ばして飛ばして見せた。
「子供たちの玩具にも使えると思うから子供たちの意見も聞いてみて。」
と言うとヤゲンも飛ばして遊んでいた。
「これは研究のしがいがありますな!」
私は温室の奥の空いてるスペースに行き、(コーヒーの木出てこい)と念じてみた。
ver.2の今なら詳しくなくても多少知っていたら出てくるんじゃないかと思ったからだ。
すぐに真っ赤な実をつけた木が現れた。
「これは?」とムイが珍しそうに見ている。
「コーヒーの木」
(多分…)
私は赤い実を取って潰してみた。
コーヒーの香りはしない。
ヤゲンもにおいを嗅いでいる。
(コーヒー牛乳の道はまだ始まったばかり!)
私は赤い実の中に見たことのある形をみつけた。
「これがコーヒー豆!」
私はおしゃれなカフェでグルグル回る『焙煎中』の機械を思い出した。
コーヒーの木を複製すると一気にたくさん現れた。
ムイとヤゲンはびっくりしていた。
私は赤い実を集めて袋に入れた。
「うまくいったらまた来るね!」
私はムイを連れて『モデルハウス』に向かった。
中は電化製品が所狭しと並んでいた。
ムイは珍しそうに開けたり叩いたりしている。
私は空いているスペースをみつけて(焙煎マシーン出ろー)と念じた。
銀色に輝くそれはカフェの窓越しに見たそれと同じだった。
私は赤い実を剥いた。
それは地道な作業だった。
すぐに飽きてしまい、剥いた一粒に向かって複製をかけた。
薄い緑色のコーヒー豆は大量に現れた。
私はそれらを焙煎マシーンに入れて電源プラグを差し、スイッチをオンにした。
マシーンはゆっくりと回転する。
ムイも黙ってその様子を眺めた。
「香ばしいいい匂いがしてきましたね。」
ムイはクンクンとにおいを嗅いでいる。
(きたー!コーヒー!)
それは私の知っているコーヒーのにおいだった。
私はコーヒーは苦手である。
しかしコーヒー牛乳は好きだった。
10分もしないうちにカチッといってマシーンは止まった。
開けてみるとホカホカのよく知っている黒いコーヒー豆がそこにあった。
ムイが心配そうに「これは食べ物ですか?」と言う。
私はすぐにコーヒーの豆を砕くやつのついたコーヒーメーカーを具現化した。
コーヒーを飲まない私にはそれがどんなものかイマイチわかっていなかったがそれは現れた。
どうやら豆を入れると全自動でコーヒーにしてくれるらしい。
(こんな便利なものが…)
私は豆をセットし、水魔法で水を出していれた。
スイッチを入れるとバリバリと豆を砕く音が聞こえすぐにポタポタと液体の落ちる音が聞こえた。
ムイは静かにその様子を眺めていた。
しばらくするとピーという音がした。
カップを2つ出し出来上がったものを注いでみる。
コーヒーのいい香りがする。
ムイに渡すとおそるおそる口をつけた。
(うへぇ…苦くて無理だ…)
私が不味そうにしているとムイは「これは素晴らしい!」と美味しそうに飲んでいた。
私はもしかして?と(電力を使わないコーヒーメーカー)と念じてみると同じ見た目のコードのないものが現れた。
スイッチを入れると動くではないか。
私はがっかりしてそれを抱えモデルハウスを出た。
(ハピリナ電力計画これにて終了)
私はしっかりと鍵をかけ、「さよならモデルハウス」と別れを告げた。
ムイは訳がわからずにいたが「持ちますよ!」と言ってコーヒーメーカーを持ってくれた。
私は焙煎した豆を持ってカリナの家に向かった。
珍しくカリナは何も作っていなかった。
ムイが来たのでちょっと驚いていたが快く迎えてくれた。
私は豆とコーヒーメーカーを渡し、
「これよりコーヒー牛乳の開発を始めます!」
と言った。
カリナは嬉しそうに「喜んで!」と言った。
ムイは「見学します。」と椅子に座った。
私は先ほどより濃くなるようにコーヒー豆をセットした。
カリナもコーヒーのにおいが好きなようで「いい香りですね〜」とクンクンしていた。
すぐにピーと鳴ってコーヒーは出来上がった。
私は冷蔵庫を開けた。
いつかの溶けない氷が入っている。
私はその氷を取り出して(電力のいらない冷蔵庫になれ)と念じた。
冷蔵庫はかすかにウィーンと鳴りだした。
開けてみると冷たい空気が出てきた。
(電力という概念はこの世界から消えました…)
私は嬉しいような悲しいような、太陽光パネルを思い出して複雑な気持ちになった。
私は溶けない氷に(溶けろ)と念じ水に戻した。
(長い間ご苦労様でした)
気を取り直して冷たい牛乳と砂糖、生クリームも用意した。
「甘いコーヒー風味の牛乳を作ります。」
カリナは目を輝かせて「はい!」と返事をした。
熱いコーヒーで砂糖を溶かし、牛乳を注いだ。
飲んでみる。
「うまい!」
生クリームを入れてみる。
飲んでみる。
「もっとうまい!!」
コーヒー牛乳はすぐに完成してしまった。
カリナは分量をメモしていた。
私は大量の空き瓶を出してこれを詰めて温泉の冷蔵庫に入れてほしいと頼んだ。
村の人たちにも温泉あがりに飲んでほしいと伝えた。
普通の濃さで淹れたコーヒーをカリナにも飲ませてみると「私はこれ好きです!」と喜んだ。
コーヒー牛乳が負けた瞬間である。
焙煎機も出したかったがカリナの家は私のせいでもうスペースがなくなっていた。
私はムイと外に出て空き地を探した。
ちょうどカリナの家の近くにいいスペースをみつけた。
私は小さな小屋を建てた。
ムイは慌てて「魔力量チェック!」と言った。
少し減っている感じはしたがほとんど気にならない量だった。
「すごい魔力量だし、消費はすごく少ないですね…」
と言い私の体に異変は出てないかチェックをした。
「変わりないようですね。」
私はムイのチェックを済ませ小屋に入った。
中に焙煎機とコーヒーメーカーを出した。
冷蔵庫も出して中に元の世界にあった牛乳パック入りの生クリームを出してみた。
それは元の世界でみたものそのままだった。
カリナが様子を見に来たので焙煎機の使い方を教えた。
(あとはコーヒー豆を剝くのが大変だな…)
もちろん複製してもいいのだが、私がいなくても製造できる方がいいだろう。
生クリームに関しても鍛冶屋と工夫して撹拌できる機械を発明していた。
鍛冶屋に言えば何かうまい道具を作ってくれるに違いない。
私は赤い実を持って鍛冶屋に向かった。
ちょうどヤゲンも来ていた。
「赤い実のことを鍛冶屋に話してたところです。」
ヤゲンは実を割って中の薄い緑色の豆を見せていた。
「この中身が潰れないように剥きたいんじゃが…」
私は「よろしくね!」とだけ言って鍛冶屋をあとにした。
本当に魔族は賢くて優秀だ。
「彼らに任せておけばうまくやってくれそうですね。」
ムイも笑顔だった。
私は温泉に冷蔵庫を設置して屋敷に戻ろうとした。
ムイが「屋敷でもコーヒーをいただけますか?」と恥ずかしそうに言った。
(そんなに気に入ったのか…あんな苦い飲み物を…)
「帰ったらコーヒーメーカーを出しましょう!」
ムイは「ご主人様もきっと気に入られます!」と喜んでいた。
すっかり日が落ちていた。
ムイは「長居しすぎましたね!」と我にかえっていた。
急いで帰ると悪魔は怒っていた。
「無理をさせるなと言っておっただろう。」
ムイは平謝りした。
私も横で謝った。
悪魔は二人の頭を小突いて「心配させるな。」といつものニヤニヤで言った。
調理場の空きスペースをみつけてコーヒーメーカーを出した。
ククルも興味津々でコーヒーメーカーをみつめた。
コーヒーのにおいがしてくる。
ムイは出来上がったコーヒーをカップ2個に注いで急いで出ていった。
悪魔とニヤに飲ませるのだろう。
私はククルにも飲んでみるように言った。
ククルもおそるおそる口をつけた。
「これはまぁ!なんとも言えないおいしさですね!」
と美味しそうに飲んでいた。
「砂糖とか牛乳を入れても美味しいよ。」
と教えたが「このままですごく美味しいです!」と言われた。
(コーヒー牛乳2連敗)
私は1つの野望を叶え、とても満足していた。
(これならカレーライスの日も近いな)
部屋に戻り身分証の画面を出した。
レベルは114になっていた。
(この調子ならすぐに元のレベルに追いつくかも)
他のステータスもぐんぐん上がっていた。
スキルを見ると新しいものがあった。
・物体創造
具現化の上位スキルだろうか?
(電力を使わない冷蔵庫とか言ってたからかな…)
私はまたチートスキルを手に入れてしまったようだ。




