ver.2
聞き慣れた音で目を覚ます。
(この音は…)
キリナだった。
私は急いで応答する。
「おはようございます!」
私は元気に挨拶をする。
キリナは一瞬目をパチパチしていたが、
「シアさん、心配してましたよ!」
と、少し怒り気味で言った。
「シアさんに連絡を取ろうとしても『存在しません』って出たんです。」
どうやら私が死んでいる間、私は身分証のシステムからも死亡扱いを受けていたようだ。
「あの後…何かあったのかと…やっと繋がって…」
キリナは泣きそうになっていた。
キリナは滝のようにまくし立てた。
自分にいろいろなことを暴露したせいでお咎めを受け、その身に何かあったのでないかと思ったそうだった。
私は会って話したいと伝えた。
キリナは「そっちに行く」と言い出したがさすがにそれはまずいと思い、「体調が戻ったら遊びに行く。」と約束をした。
「ゆっくり休んでくださいね。」
キリナは少し安心した様子で画面から消えていった。
(確かにあの告白のあとに音信不通になったのはタイミング悪かったな)
お腹が空いたとせがむ2匹を連れて私はククルのところへ向かった。
ククルはいつものように忙しそうにしていた。
「おはようククル、何か食べるものはある?」
私が申し訳なさそうに声をかけるとビクッと飛び上がりそうになったククルはまたこちらへ突進してきた。
ククルは私の全身をチェックするように見てから、
「お座りください。」
と調理場にある小さなテーブルに座らせてくれた。
「朝食をお持ちしようか悩んだのですが、ムイ様が寝かせておけと言うので…」
ムイもまだ心配してくれているようだ。
テーブルには私の好きなコーンのスープとカリナにレシピを作らせたクロワッサンがあった。
「焼き立てじゃなくてごめんなさいね。」
まるで元の世界にいるような、不思議な感覚だった。
クロワッサンなんていつぶりだろうか…
サクサクでほんのり甘い。
バターの風味がしっかり感じられる。
私は目を閉じてその美味しさを噛みしめた。
アリとセキも「新食感!」ともりもり食べている。
ククルはそんな私たちを眺めてにこやかに笑っていた。
「心配かけてごめんね…」
と言うと「ほんとですよ!もうやめてくださいね!」と言われた。
クロワッサンがあまりにも美味しかったのでおやつ用に何個か袋に入れてもらった。
(あとでまた食べよう)
私はもう眠る気にもなれずにいた。
地下室に行くか…と思っていると「シア!なんか臭い!」とアリに言われた。
そういえば死んでいた間も含めるとしばらく風呂に入っていないことに気がついた。
「温泉に行きたいな…」
「まだ魔力消費の大きいスキルは使うな。」
後ろから怒り気味の悪魔の声が聞こえた。
(バレている)
「ハピリナに行きたいんだけど…」
悪魔は「やれやれ」と言い瞬間移動でゲートのある鍛冶屋まで連れてきてくれた。
3時間後にここに戻るように言い悪魔は消えていった。
私はピートに挨拶をしゲートをくぐった。
ハピリナは今日も良い天気だった。
村の人たちは相変わらず私を温かく迎えてくれた。
「シア様!どちらへ?」
私は大声で「温泉!」と言った。
温泉には人がいなかった。
働き者の魔族たちはこんな真っ昼間から温泉につからないのだろう。
私はゆっくり温泉につかった。
アリとセキは楽しそうに泳いでいる。
私は身分証の画面を眺めた。
(シアver.2)
なんど見ても面白い。
いろんな人を鑑定してきたけどそんな名前の人は見たことがない。
「邪魔するぞ!」
と言いドボンと魔王が飛び込んできた。
「魔王様、ごきげんよう。」
私は顔にかかったお湯を拭いながら言った。
「ライハにシアがここにいると聞いてのぉ。」
(悪魔め、刺客を送ってきたな)
「魔王様、私を鑑定してみてください。」
魔王は首を傾げたがすぐに鑑定してくれた。
魔王は大笑いして、「シアver.2ってなんぞよ!!」と私をバシバシ叩いた。
「こんなの見たことないぞよ!やはりお主はおもしろいなぁ!」
といたく喜んだ。
「しかもレベル1とは!死んでやり直しになったのかのぉ?」
魔王もそんなこと聞いたことがないようだった。
私が難しい顔をしていると、
「お主はいろいろ規格外じゃ!あまり気にすることないぞよ!」
と背中をバーンと叩いた。
私は温泉に潜る形になった。
「シア!泳げるかの?」
魔王はスイスイ泳ぎだした。
私も泳いでみる。
犬かきしかできないことを思い出した。
「なんじゃその面白い泳ぎ方は!」
二人で大笑いした。
こんなにバカ騒ぎをしたのは久しぶりだった。
二人とものぼせそうだった。
笑いながら温泉からあがり冷たい水を飲んだ。
「生き返るのぉ〜」
魔王は赤いほっぺで水をグビグビ飲んでいる。
「近いうちにいいものを用意しておきますね。」
私はコーヒー牛乳を思い出した。
「また面白いものを考えておるな!」
「急がなくていい、時間はたっぷりあるのじゃ…無理はするな…」
と急に神妙な顔つきをして言うから私も、
「はい…」
とそれに倣って答えた。
魔王は「送っていこうか?」と言ってくれたが悪魔との約束にはもう少し時間があったので丁重にお断りをした。
私はさっぱりして新しい服に着替えた。
魔王が持たせてくれたものだった。
いつものワンピースが少しおしゃれになっていた。
(黒いワンピースver.2)
私は自分で名付けてはクスクスと笑った。
アリとセキが不思議な顔をしていた。
「ママ!カリナのところへ行こう!」
セキはお腹が空いたようだ。
「そうだね!行こうか!」
私たちはカリナの家に向かった。
カリナは「シア様!いいところに!」と今焼き上がっただろうものを持っていた。
「アップルパイ?!」
なぜかそれは四角い形をしていたがどう見てもアップルパイだった。
「パイ生地というものに挑戦してみました!」
カリナは「自信作です!」と切り分けてくれた。
「パイ生地の層がなかなか理想的にならなくて…何度も作り直しました。」
と苦難を語る表情でカリナは言う。
甘く煮たリンゴがぎっしり詰まり、下には薄くカスタードクリームのようなものが塗られていた。
「うん!美味しいよカリナ!」
アリとセキも「アチチ」と言いながら焼きたてのパイを頬張る。
私は(何か足りないな…)と思ったがそれはシナモンだった。
アップルパイによく使われているシナモン…
(シナモン嫌いだから黙っておこう)
私はこの世界にはシナモンは存在しないもの、とした。
アップルパイを食べ終わった私は自分の髪が白いことを思い出した。
「私の髪の毛変じゃない?」
私はカリナに聞いてみた。
「そう言えば何か違いますね…」
カリナは「もしかして色ですか?」と聞いてきた。
魔族たちはあまり見た目を気にしないらしい。
「さすがに長老が若くなったときは気がつきましたよ!」
と笑う。
(魔族のこういうところも好きだな)
カリナは残り半分を持たせてくれた。
悪魔たちへのお土産にしよう。
私はそろそろ時間になるので、とカリナの家を出た。
朝起きたときより体も心も軽くなった気がした。
────
ゲートをくぐると悪魔が待っていた。
「お待たせしてごめんなさい!」
私は時間を確かめたがまだ3時間経っていなかった。
「楽しめたか?」
悪魔は珍しく優しい顔をしていた。
「はい!とても!」
屋敷に帰るとククルが心配して待っていた。
私がアップルパイを渡すと「お茶にしましょう。」と準備を始めた。
私たちは広間のテーブルで待つことにした。
悪魔とニヤが何か難しい話をしていた。
ムイもやって来て私の顔を覗き込みおでこに手をあてて熱を測りだした。
「熱はないようですね…顔色も悪くはない…」
「カリナにアップルパイを作ってもらったからムイも食べよう。」
悪魔に座るように言われてムイは私の隣に座った。
ククルが来るまでの間に脈を測ってみたり口の中を調べたりされた。
しまいにはニヤに「ムイ、いい加減にしなさい。」と怒られていた。
すぐにククルがアップルパイを皿に乗せて持ってきた。
「これはリンゴのお菓子のようですね。」
ククルがみんなに配る。
私はさっき食べたばかりだからとククルに食べるように言った。
悪魔も「一緒にいただこう。」と言い、4人は初めてのアップルパイを楽しんだ。
「これはクロワッサンのようにバターたっぷりでサクサク美味しいですね!」
ククルはまたレシピをもらってくるように私に頼んだ。
悪魔とニヤも「これはなかなか。」と美味しそうに食べていた。
隣のムイを見るとなぜか涙ぐんでいた。
(あれ、苦手だったかな)
ムイは涙を拭い、「甘くて美味しいですね!」と笑った。
私はみんなにver.2になってレベル1になったことを伝えた。
みんなは驚き、「バージョンアップした!」と言うと大笑いしていた。
素敵な午後のひとときだった。
────
私は地下室へ行くことを許されたがまだ魔力消費の大きいスキルは使うなと言われた。
(簡単なスキルなら使ってもいいってことかな)
私はテーブルの上にあった鉛筆を複製してみた。
鉛筆は二本になる予定だったが次々と出てきてテーブルから落ちた。
アリが驚いて「鉛筆屋さんにでもなるの?」と笑った。
(どうしちゃったんだろう)
私はアリの角砂糖も複製してみた。
また角砂糖は山のように現れた。
アリは大喜びだったがこれは何かおかしい。
私が意図していない量だったからだ。
私は何か小さなものを具現化してみることにした。
アリが座れるくらいの椅子にしようと具現化を発動させた。
そこには私が想像していたものよりはるかに出来のいい椅子があった。
魔王城で見たことのあるその椅子は細かいところまでしっかり作り込まれていた。
セキが「ずるい!ボクのも作って!」というのでサイズ違いのものを具現化してみた。
2匹はサイズ違いの素敵な椅子に座り「専用だね!」と喜んでいた。
私はなんだか楽しくなってきてテーブルやベッドなど小さな家具を次々と出してみた。
どれも私の想像以上の出来栄えで魔王城や王都の城で見たような豪華な作りだった。
私はドールハウスを思い出し部屋の隅に出してみた。
1mほどの大きさのドールハウスは2階建てで細部まで本物のような美しい造りだった。
(何かがおかしい)
今まで想像以上のものを具現化したことなんてない。
たいてい想像通りかそれ以下のものしか現れない。
ステータスを確認してみる。
レベル以外の数値はやはり死ぬ前より高くなっている。
特に魔力量は1.5倍くらいになったようだった。
レベルは15になっていた。
(もう15になってるなんて…)
死んだから経験値2倍とかになっているのだろうか?
ムイがテーブルから落ちた鉛筆を拾っている。
「今度は何を始めたのですか…」
呆れ顔をしていた。
私は今の出来事を話して聞かせた。
「それはしばらく慎重に対応したほうがいいですね…」
と、「爆発でもしたら困るので攻撃系のスキルは禁止!」と言われた。
私が「生霊操作をしたい」と言うと、「心配なのでここで見ている。」とムイは椅子に座った。
アリとセキが「一緒にお留守番だね!」と喜んでいた。
私は長椅子に座り生霊を飛ばしてみた。
特に変わった様子はない。
(ついでに王都でも見てこよう)
私は聖女のその後が気になったので確認しに行った。
聖女はまた庭でお茶を飲んでいた。
もちろん悪魔の肖像画入りの写真立ては持っていない。
何か違和感があった。
(聖女の髪の毛も白くなってる!)
美しく結われた髪の毛は私と同様に真っ白になっていた。
私は驚いてすぐに地下室に戻った。
驚いた顔で目を開けるとムイが心配そうに、「大丈夫ですか?」と顔を覗き込んでいた。
私は今見てきたものの話をした。
「シアさんと無関係ではなさそうですね…」
ムイはしかめっ面をして「ご主人様に報告してきます。」と地下室を出た。
レベルを確認すると28になっていた。
(これはまたチート無双だなぁ)
魔力を確認するとほとんど減っていない。
さっきドールハウスを具現化したのも合わせると結構使ったように思っていた。
(効率よくなったのかな?)
バージョンアップしてチート性能に拍車がかかったようだ。
ククルが夕食を持ってきてくれた。
いつもはムイの仕事だったが、ククルも私の様子が気になっていたようだった。
ククルはドールハウスを見つけると目が釘付けになっていた。
「なんて可愛らしいのでしょう!」
女子はこういう小さなものが好きだ。
そして「無理しないでくださいね!」とちょっと怒って階段を上がっていった。
私はムイがすごい量の鉛筆を片付けてくれたテーブルで夕食をとった。
優しい味のクリームシチューだった。
ククルの優しさが胃にしみる。
その日は疲れもほとんどなく気持ちよく眠れた。
(明日あたりキリナの村に行けるかな…)
悪魔に魔力量の話やほとんど魔力が減ってないことを理由に許可をもらおうと思った。
(ver.2…すごいな…)
私はニヤニヤしながら眠りについた。




