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モデルハウス

私は悪魔の執務室にいた。


悪魔と魔王とニヤとムイに囲まれていた。


「報告しなさい。」


悪魔はいつものニヤニヤで言った。


魔王は「はやく!はやく!」とテーブルを叩いた。


私は昨日キリナに話したことを順番に話した。


みんな「ほぉほぉ」と感心している様子だった。

私が話し終わると魔王は

「そこまでの男だとは思わなかったわぃ。」

と言った。


悪魔も頷いていた。


「危うかったのぉ!」

魔王は私に嬉しそうに言う。


(確かにほとんどバレていたようなものか)


「それで賢者はこれからどうすると言っておった?」


私は「あっ…」と気がつき、「聞くのを忘れていました…」と答えた。


魔王はお笑い芸人のようにガクッとテーブルに滑り込んだ。

「そこが1番大事じゃろうが!」と怒った。


「すぐに聞いてまいれっ!」


と言われ執務室を追い出された。


────


私はキリナに受け入れてもらえたと感じ、それがとても嬉しかった。

嬉しくて先のことをすっかり忘れていた。


魔王や悪魔がどう思っているかという話もしていなかった。


(どこまで話すべきか…)


私はまた地下室で悩んでいた。


魔王が優しいということを知って「討伐だ!」とは絶対に言わないだろうけど。

人間たちが魔王という存在をどう思っているかはわからない。


こちらの歴史の本には魔王と昔いた勇者が死闘の戦いを10年も続けたという事件が書かれていた。


その戦いに多くの人が巻き込まれたという。

そこにはどちらから仕掛けたかは書かれていなかった。


魔王はとてつもない力を持ち、魔族たちは絶対服従を強いられているとも書かれていた。


(あんなに慕われているのにな…)


私は元の世界にいた最強のブスだった自分を思い出した。

ブスだからデブだからと心ない言葉を浴びせられた。

私は何もしてなかったのに。

(呪ってはいたけど)


隅っこでひっそり生きていた。

(呪ってはいたけど)


私はその姿を魔王や魔族と重ねた。

(何も悪いことはしてないのに…ひどい…)


考えても結論は出なかった。

魔王は自分の意志で自分の愚行に気がついてほしいと言った。


人間たちは圧倒的に多い。

そのほとんどに『魔王は悪』『魔族は敵』という思想が根付いている。


そんな巨大な思想の塊を打ち砕くことができるのか?

数が正義だと思っているのはどこの世でも変わらない。

少数派はなかなか受け入れてもらえない。

多様性だなんだと騒ぐ人はいたけれど、自分と違う人がいれば好奇の目を向ける。


少数派の人たちは隅っこに集ってみつからないようにするか、大げさに差別だ!権利をよこせ!と騒ぎ立てるかのどちらかだ。


何が正しいのか私にはわからない。

少数派だとか差別だとか言ってる時点でもうおかしい気がする。

望ましいのは少数派なんていう言葉がなくなることだ。

いろんな考えをいろんな人が尊重できる環境になれば1番だ。


(これもただの理想論)


私はとうてい解決できない問題を考えてはわけがわからなくなっていた。


キリナのことを忘れていた。


(素直にキリナはどうしたいのか聞いてみるか)


私は考えすぎてもよくないという結論を出した。

元々考えるのは苦手だ。


昨日の今日でこちらから連絡するのはやはり怖かった。


(少し待ってみよう)


魔王は今すぐ!と言っていたが。


私はハピリナに逃げた。


────


ハピリナは雨だった。

外で作業している人はほとんどいなかった。


私は傘を具現化した。


子供たちは雨の中ビシャビシャになりながら泥遊びをしている。


(元気だなぁ)


子供たちは私をみつけると傘に興味を持った。

「シア様!それなに?」


私は濡れないようにする雨具だと説明した。

どうやらこの世界には傘がないらしい。


雨の日はどうするのか聞くと、

「濡れるよ!」

と当たり前のことを言う。


私は子供たちに傘をプレゼントした。


すでにドロドロの彼らに必要ではなかったが。

嬉しそうに私の真似をして傘をさしている。


「シア様ありがとう!お母さんに見せてくる!」

と言い家に帰っていった。


「人に刺さらないように気をつけて使ってね!」

私は走り去る子供たちに向かって叫んだ。

遠くから「はーい!」と聞こえる。


私は温室へ向かった。


中にはいつもの薬草に詳しい魔族の男がいた。


「ヤゲンさんこんにちは。」

この男はヤゲンという名前だった。


記憶力のよくない私はこの似たような名前に苦戦している。

なかなか覚えられず必要なときは鑑定して名前を思い出していた。


「シア様!今日はひどい雨ですな。」


ヤゲンは濡れていない私に気がついた。

「雨を避ける魔法でもありましたかな?」


私はさっきのように傘の説明をした。


「それは便利な道具じゃ!」

ヤゲンが感心していたので傘をたくさん出して、「ほしい人がいたらあげて。」と言って傘立てを出してそこにさした。


ヤゲンは1本取り出して開いては驚いていた。


「なるほど…こういう仕組みで…」


「この軽い金属は何でできてますかな?」


(なんだろう?)


「アルミニウムかな?錆びないから鉄ではないよね。」

ヤゲンは聞いたことのない名前に首をかしげていた。


私はアルミニウムの原石がどんな形をしているのか知らない。


私は1円玉とアルミホイルを具現化してみた。

ヤゲンは興味深く観察をする。


「このような金属はみたことがありませんな…」


魔族は勉強熱心だった。

そして研究熱心だった。


「たくさん出すから研究してみて。」

私は大きな木の箱を出してそこにたくさんの1円玉を出した。


(1円玉を溶かしたら日本なら逮捕案件だな)


私はどうでもいいことを考えていた。


私にもっと知識があったら、ここはもっと豊かになったのに。

(もっと勉強しておくんだったな)


私は今日ここに来たのにはやりたいことがあったからだ。

この世界にゴムというものを伝えたい。


私はもうこの温室にスペースがないことに気がつき、奥の壁にドアをつけてその奥にもう一つの温室を建てた。


(未開拓の場所でよかった)


1円玉に夢中だったヤゲンもただならぬ音を聞きつけやって来た。

「これは!まぁ!シア様!!助かります!」

ヤゲンもそろそろ狭いと感じていたようだ。


私はそこに1本の木を植えた。


「それは?」

ヤゲンは見たことがないと言う。


「ゴムの木です!!」


私はゴムの木を知っていた。

ゴムの木に関わらず木の幹から液体が出てくるタイプの木が好きだった。

テレビ番組でそういうのが出てくるとかじりついて観ていたものだ。


(ついでに楓の木も出そう)


これで美味しいメイプルシロップが取れるはずだ。


私はゴムの採取方法をヤゲンに説明した。


試しにやってみるとじんわり何か液体が出てきた。

私はちょうどいいサイズの容器を出して木に括り付けた。


「時間がかかるけどね。」

と言い私はこの状態のゴムの木を量産した。


私はハッとした。


「この液体からどうやってゴム製品にしてるか知らないわ…」


ヤゲンは笑い、「私にお任せください!」と言った。

私はゴムの性質を教え、どのような製品に加工されているか教えた。


ヤゲンは真剣にメモを取り、「鍛冶屋や仕立て屋にも手伝わせよう。」と言った。


私は「急いでいないからのんびりやってね。」と伝え温室を出た。


外はまだ雨が降っていた。


植物たちは雨を受けてキラキラと輝いていた。

私は村の中を歩いて回った。


改善点がたくさん見えてくる。

私はその場でできることはしながら進んだ。


(ここにベンチが欲しいな)

と思ってベンチを出したり、

(ここには時計がほしいな)

と思っては時計を出す。


誰もいない雨の中を歩く。


(電気がほしい!!!)


私は根本的なところに戻った。

この世界には電力という概念がない。


魔法という概念があるかもしれないが、誰にでも便利な魔法が使えるかというとそうではない。


カレーライスも大事だけど。


(発電しよう!)


私は雨の中そう考えた。


発電と言っても色々ある。

火力や原子力は危なさそうだからやめておこう。


あとは風力や太陽光があるけども…

理科の時間に太陽光の話を先生がしていたような気がする…


確かプラスとマイナスがなんとかで乾電池のような仕組みで…

(ダメだ…わからない…)


私が軽く絶望していると雨があがり日が差してきた。


私はとりあえず見覚えのある太陽光パネルを出してみることにした。


集落から少し離れたところに太陽光パネルを思い出し具現化してみた。


それは私の知っている太陽光パネルだった。


(見た目は完璧だわ)


私は電気スタンドを出して繋げてみた。


(…何も起きない…)


私はヤケクソで(お前は電気を作る…太陽の光を受けて電気を作る…)と念じてみた。


電気スタンドは光りだした。


(成功するんかーい!!)


私は自分でも自分の力が計りしれなかった。

(チートすぎるでしょ)


私は同じ物を作ろうとしたらアリが出てきて「複製っていうスキルを覚えたよ!」と教えてくれた。


どうやらさっきゴムの木に容器を括り付けた状態のものをたくさん出したことによって覚えたスキルのようだった。


私は「これは便利だね!」と喜び隣にどんどん同じ物を出した。


しかも具現化より魔力を使わないようだった。


このスキルの弱点は複製するものが目の前にないと使えないと言うことだった。


私がチョコレートを思い出して複製スキルを発動しても何も起こらなかった。


(それじゃ複製にならないか)


私はその近くに家を建てた。


(モデルハウスよ)


私はニヤニヤしながら太陽光パネルから線をつなぎ、家中を張りめぐらせるイメージをしてプラグの差込口を壁のいたる所につけた。


(よし、手当り次第電化製品を出してみよう)


私はククルの苦団子を食べ戦闘準備万端だった。


まずは電子レンジを出した。

この世界に来て欲しくなったものランキングに入っている。


私は見た目を思い出し具現化してみた。

今回も見た目はバッチリである。


プラグを差込口に差して動かしてみる。

まったく動かない。


そんなの想定通りだ。

(私の力を見よ!!)


私は(お前はものを温めるもの…マイクロウェーブで中に入れたものを加熱するもの…)

と半ば意味不明なことを念じた。


私はカリナのところから食べ物を持ってきた。

ジャガイモを揚げたもの『ポテトフライ』(冷めている)だった。


私は電子レンジの中に入れてタイマーを1分にしてみる。

中は光ってる様子でかすかにウィーンという音が聞こえる。

聞き慣れた『チャラララー』という電子音がして止まった。


私はドキドキしながら開けてみる。


冷めていたポテトフライからは見事に湯気が出ていた。


「成功だー!!」


私は誰もいないモデルハウスで叫んだ。

アリとセキはその熱々のポテトフライを食べて「美味しいね!」「ママすごい!」と言った。


そこから私は次々と元の世界にあった電化製品を出しては(お前は冷蔵庫…ものを冷やすことができる…)などと念じまくった。


私の周りは電化製品で溢れた。


私が欲しかったものはすべて作ることができた。


妙な達成感が私を満たす。


(私がいないときに爆発でもしたら嫌だな)


心配になりモデルハウスと太陽光パネルを厚い壁で囲った。

大きめの引き戸をつけて『立入禁止 シア』と看板をつけた。


また明日続きをやろう。

私はククルの苦団子を3つも食べてしまった。

食べすぎは体に良くないと言っていた。


私はよろよろしながら屋敷に戻った。

(電化製品を作るのは大変だ)


当たり前のように電化製品を使っていたが開発にはこんな血反吐を吐きそうな努力が必要だったのね。

(私とやってることは違うだろうけど)


私は何気なく使ったり食べたりしているものも誰かの努力によって生み出されたんだ…感謝しないと…と思った。


────


私はモノづくりに没頭していてキリナのことを忘れていた。


今日は1日連絡がなかった。


(明日こちらから連絡してみよう。)

私は魔王がほっぺをぷくっと膨らませて怒ってる姿を思い出した。


私は疲れていて泥のように眠った。

夢は見なかった。



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