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告白

私は身分証の画面を見ている。


そこにはキリナの名前があり、スマホでいう通話ができる機能のアイコンがある。


ここをタッチすればキリナにビデオ通話のようなものを開始することができるはずだ。


私はほとんど自分から連絡していなかったことに気がつき、(忙しかったらどうしよう)とか、(そういう気分じゃなかったらどうしよう)などとグダグダ考えている。


アリは呆れて寝てしまった。

セキは「ママ!暇なら遊ぼ!!」とうるさい。


「ちょっと待ってね。」


そう言ってかれこれ10分は経っただろう。

セキもやがて静かになった。


こういうとき陽キャは「おはよー!今何してるぅ〜?」みたいにところ構わず連絡するのだろう。


(偏見かな…)


私は頭の中で満員電車にいる化粧の濃いギャルがまわりを気にせず大声で会話しているのを想像した。

その横で狭いのに新聞を広げているおじさん。

そしてその横には若い男が大音量で音楽を聴いているようでイヤホンから音が漏れている。

(優しくない世界…)


私はしばらく元の世界を思い出しトリップしていた。


すると急に聞き覚えのある音がした。

キリナから連絡が来たのである。


私は妄想の世界から戻った。


「シアさん!おはようございます!」


キリナは今日も爽やか青年だった。

街を歩くだけで若い女たちが振り向く見目麗しゅう男性である。


「おはようございます。」


私は無駄にドキドキしていた。

(どうやって誘おうか)


「実はシアさんにお願いがありまして…お時間がありましたらこちらの村に遊びに来てもらえませんか?」


私はホッとして「はいはいすぐにでも!」とうんうんと頷いた。


私は1時間後に向かいますと言って身分証の画面を閉じた。


考えてもしょうがない気がしてきた。

(ハピリナで何かお土産を探そう!)


私はハピリナに向かった。


ハピリナでは朝から魔族の人たちがせっせと働いていた。

魔族は本当に賢くて勤勉な人が多い。


私はここのみんなが大好きだった。

私は出会う人々に挨拶をしながらカリナの家に向かった。


カリナは今では大親友のようだった。

暇があればやって来ておしゃべりをしたり料理をしたりしていた。


「シア様!ちょうどよかったです!」


カリナは私が知っているあるものを持っていた。


「これは…もしかしてブラウニー?!」

カリナはうんうんと頷き、「シア様が教えてくれたのを作ってみました!」と言って早く食べろと言わんばかりに目の前に押しつけてきた。


私は一欠片とり口に入れた。


それはちゃんとブラウニーだった。

ナッツ類がゴロゴロ入っていてしっかりとチョコレートの味もする。


「カリナ!すごく美味しいよ!」


溶けないからチョコレートより扱いやすいかもしれない。

「これ、全部もらっていってもいい?」と聞くとカリナは嬉しそうに袋に詰めてくれた。


「次はシュークリームというものに挑戦しようと思っています!」


私がうろ覚えでシュークリームがどんなものか話したのを覚えていたらしい。

シュー皮は独特で製法も独特だったはず。

私は料理番組でシュー皮の生地を作るとき鍋で加熱しながら混ぜていた気がしてそれも伝えた。


カリナは「それは興味深い…」と言ってあれこれ考え出した。

きっとこの人ならシュークリームも作ってしまうんだろう。


カリナに感謝をのべて私はキリナの村に向かった。


到着するとキリナは子供たちに囲まれていた。

私をみつけると子供たちは「シアねぇちゃん!」と駆け寄ってきた。


私は袋を取り出し子供たちにブラウニーを配った。

子供たちは「なにこれ?うまい!」とすぐに平らげてしまった。


「キリナさん…ごめんなさい…子供たちに食べられてしまいました…」

私は空になった袋を見せた。


キリナは大笑いをして「子供たちのためにありがとう。」と言った。


どうやら今日呼ばれたのは子供たちのためのようだった。

「属性魔法は私よりシアさんに習うほうが勉強になると思いまして。」と言うことだった。


私は杖も使わず呪文も唱えない。

果たして役に立つだろうか?


私は「イメージが大事です。」と説明する。

(私の場合イメージするだけなんだが)


「そして自分にならできると思うことも大事です。」


おおよそ授業にはなっていない。

こんなボヤッとしたことならその辺を歩いてるおじいさんにもできるだろう。


しかし子供たちは言われたとおりに真剣に岩に向かい杖を振った。


「杖の使い方は?」と聞かれ私は困った。

(使ったことがない)


「杖を信じて、杖が自分と一心同体だと思うのよ。」

また私は適当なことを言う。


子供たちは「なるほど!」とこんな訳のわからない言葉を聞き入れ一生懸命取り組む。


「やった!できた!!」

大喜びする子供たち。

(キリナに教えてもらっていたんだからできるでしょ)


私は喜ぶ子供たちを見て癒やされていた。

(素直でいいなぁ)


「シアさんすごいです!私がいくら教えてもできなかった子ができるようになりました!」

キリナは興奮して私の手を握りブンブン振った。


できなかった子と言われた子が得意そうに火の玉を飛ばしている。


まわりの子たちも彼の成功を祝福していた。

「シアねぇちゃんありがとう!もっともっと練習するね!」と約束してくれた。


2時間くらい子供たちの相手をしていただろうか。

子供たちは「お昼ご飯だー」と言って家に帰っていった。


練習場は一気に静かになった。


私はポツポツと話だした。


「実は私は…この世界の人間ではないのです。」


驚かれると思ったがキリナは優しい眼差しで私をみつめ、次の言葉を待っていた。


「悪魔に召喚されて…」

と言うと初めて驚いていた。


「悪魔に?!悪魔もたくさんいますがもしやそれはライハライトですか?」


私もびっくりした。

賢者は悪魔のことを知っていた。


私はうんうんと頷いた。


「それはそれは…予想もしていませんでした。」

と言った。


そして「実はそうじゃないかと思っていたのです。シアさんは勇者のようにここにやって来たのだろうと。」

それが悪魔によって成されたことだとは思わなかったそうだ。


「と言うことは…」キリナは真剣な顔になる。


「私が呪いの元凶です。」


沈黙が流れる。


(嫌われちゃったかな?)とキリナを見てみると逆の反応を示していた。


目が輝き、羨望の眼差しでこちらを見ているじゃないか。


「やはりあなただったのですね!!」


キリナは私の両手を掴みブンブン振った。


私は理解できずにブンブン振り回される腕を眺めた。

キリナはハッと我にかえり腕を離した。


「申し訳ありません。」

コホンと一息ついてキリナは話し出した。


「最初は悪いモノだと思っていたのです。」


そして足を怪我した人や魔法が使えなくなった人の話をした。

「なぜこんなひどいことをするのかと…」


私は思い出して悲しくなった。

私も人を傷つけたくなかった。


「しかし調査をすればするほど納得がいったのです。」

キリナは目をキラキラさせて続ける。


「これは彼らにとって悪いことではないということを!」

キリナは力こぶしを握り力説している。


私はわけがわからなくなりポカンとキリナの話を聞いている。


「もし彼らがそのまま何かを実行していたならば命はなかったかもしれません。」


「いつもそうだったのです。何かをされたわけではないのに悪魔討伐だ!魔王討伐だ!と彼らはそれが正しいと思っていたのです。」


その頃から間違っているのはこちら側なんじゃないかと思い出したそうだ。


「魔族の村はひどいことになっていました…」

思い出したのだろう。キリナは悲しい顔をした。


「魔族たちはその見た目が醜いというだけで迫害され、搾取され続けていました。」


「あっという間に魔族たちは消え、村は廃墟になっていました…」


悲しむキリナに私は「魔族たちは避難して今は元気に暮らしている。」と伝えた。

キリナはホッとした様子を見せる。


(この人は本当に優しい人だな)


「魔王討伐軍もなぜか無傷で帰ってきました。」


私は頷く。


「それもシアさんでしたか!」


「あの大人数を!すごいです!!」


私は「リーダーたちのやる気をなくせばあとは簡単だった。」と説明した。


「なるほど、兵士たちも戦いたくなかったのですね…」


キリナは「スッキリしました!」と言ってまた私の手を握り「話してくれてありがとう!」とブンブンした。


「シアさんのおかげで救われた命はたくさんあるでしょう。」


私は正直ここまで理解してもらえるとは思っていなかった。

頭のいい男だから説明したらある程度はわかってもらえるのではないかと期待はしていたがキリナは話す前から私がしていたことを理解してくれていた。


キリナは急に真剣な顔に戻り、

「ダンジョンのことですが…」

と言い出した。


私はいくつもダンジョンを壊してしまったことを話し、それによって奪われてしまった命があることを話した。


「ダンジョンに挑むのは命がけですから…」


私が壊し始めたときには転移アイテムがよく売れたと話してくれた。

使うと入口に戻れる便利アイテムらしい。


(そんなものがあったとは…)

「私も持っていますよ!」と見せてくれた。


「ダンジョンが崩れるときに使えばよかったですね!すっかり忘れていました…」と恥ずかしそうにした。


私が思っていたより被害者は少ないかもしれない。

しかし私のせいで奪われた命があることを忘れてはいけない。


「勇者パーティが出会った金色の魔物は?」

私は「それは私じゃありません。」と言うとキリナは少しホッとした様子だった。


この世界には守護神というものが存在していると私は説明した。

ひとしきり説明が終わるとアリが出てきた。


「こんにちは!キリナ!ボクが守護神のアリだよ!」


目の前でハムスターが喋っているのを見てキリナはかたまっていた。


アリはキリナの掌に飛びついた。


それを見てセキも出てきた。

小さな赤いドラゴンはキリナの胸元に飛び込んだ。


キリナはセキを見てまたかたまった。


「こちらも守護神ですか?」

震えながらセキをみつめる。


「ボクはドラゴン!セキだよ!」


セキはキリナの頭の上を飛び回った。


「ドラゴン…絶滅したはずでは…」


私はアリやセキとの出会いを順をおって説明した。

キリナは途中でそれはどういうことか?と疑問点をぶつけてきた。

最終的には「シアさんはすごい。」ということですべて納得していた。


「嫌いになりましたか?」


私は最も恐れていたことを聞いてみた。


「そんなわけないでしょう!」

とキリナは叫んだ。


「すごい方だと思っていましたが私の想像を遥かに超えたすごい方でした!」


私は他の人には言わないでとお願いした。


「言っても誰も信じないでしょうが!」と笑い、「絶対に言いません。」と約束してくれた。


キリナはまだ興奮しているようでアリとセキと遊んでいた。


私は「あっ…」と思い出し、「ふたりの本来の姿、見ます?」ときいてみた。


キリナは頭をブンブン振って「お願いします!」と言った。


私はいつか作った何もない亜空間にキリナを連れて行った。

モヤモヤをくぐるとキリナは軽く悲鳴をあげていた。


「話を聞くのと体験するのでは違いますね!」


何もない広い空間に出る。


「アリ、セキ、お願い。」


そう言うと「待ってました〜」と2匹は変身した。


アリは巨大な黒い熊に。

セキは本来の大きさのレッドドラゴンに。


セキはまた成長したようで更に大きくなっていた。


「ママ!また大きくなったよ!」

嬉しそうに飛び回るセキ。


「風を起こさないで!」と迷惑そうなアリ。


キリナは風に飛ばされ尻もちをつきながら2匹に目を奪われていた。


「ふたりとももう戻って!」

と言うと不服そうにいつもの姿に戻った。


キリナはまだ口をパクパクさせて何か喋ろうとしていたが声は出ていなかった。


「ボクたちすごいでしょー!」「かっこいいでしょー!」と言われキリナはブンブンと頭を振って「うんうん」言っていた。


(私も初めて見たときはびっくりしたよなぁ)


私は遠い過去を思い出すかのようにしみじみした。


キリナはやっと立ち上がり「この亜空間というものもすごいですね!」と、さっきまでの調子を取り戻していた。


本当に飲み込みの早い男である。


「いろいろ黙っていてごめんなさい…」

私は下を向いた。


「こんなすごいこと!なかなか人には言えませんよ!!」と言いキリナは笑った。


私もつられて笑ってしまった。


「こんな興奮したまま家には帰れない。」と言うので私は何もないこの空間に椅子を2脚とテーブルを出した。


「もう少しお話しましょうか?」

私が聞くとキリナは嬉しそうに「お願いします。」と答えた。


私たちはそこでしばらくおしゃべりをした。

お互いの幼少期の話や好きな食べ物の話なんかもした。


時間はあっという間に過ぎた。

この何もない亜空間にも星が見え始める。


「そろそろ帰らないとばあちゃんが心配するかも?」と言い、帰ることにした。


モヤモヤをくぐって練習場に戻ると外はすっかり夜だった。


私は怖くて「またね」が言えなかった。


キリナはそんな私に「また連絡しますね。」と言ってくれた。


私は笑顔で「はい!」とこたえ、屋敷に瞬間移動した。


────


(疲れた…)


今までにないほど人と話をした。

私に喋り疲れる日が来るとは思ってもいなかった。


私は夕食も取らず眠ってしまった。


あの何もない亜空間でセキにまたがりアリとキリナと空を飛び回る夢を見た。


みんな楽しそうに笑っていた。




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