魔王の願い
私は魔王城に来ていた。
門番に「魔王様に会いたい。」と告げてから30分ほど待たされている。
私は門の前から見える城下町を眺めていた。
(いい町だなぁ)
城の中から顔見知りの従者が現われ、息を切らしながら
「お待たせして申し訳…ありませんっ!こちらへどうぞ!!」
と中へ案内してくれた。
魔王は「シア!よく来たぞよ!」といつもの調子だった。
「あのチョコレートという菓子は最高じゃのぉ!」
「私もそう思います!」
私は応接室に案内された。
すぐに従者がお茶とお菓子を持ってくる。
魔王は真剣な顔になり
「見ておったぞ。」と告げた。
私は頷き、「魔王様はどう思われますか?」と聞いた。
魔王は少し考え、
「あの男は信用できると思う。」
と言った。
私はホッとした。
「ここと城下町とハピリナ、お主の住んでいる屋敷も含めて場所は漏らすな。」
「あとはシアに任せるぞよ!」
と、魔王は言ってくれた。
「承知しました。」
私は魔王に頭を下げた。
魔王は立ち上がり、
「ではハピリナに遊びに行こうぞ!」
と言って私を鍛冶屋まで連れてきた。
ピートは私をみつけると「シア様!お久しぶりでございます!」と喜んだ。
ここに来るのは久しぶりだった。
「ピートいつもありがとうね!」とお礼を言った。
ピートは「とんでもねぇ!」と恐縮した。
私は久しぶりにゲートをくぐった。
私たちをみつけると「魔王様!」「シア様!」と住人が集まってきた。
魔王はすぐにどこかへ行ってしまった。
私はカリナのところへ向かう。
カリナの家はあまくていい匂いがした。
ノックをするとカリナはすぐに出迎えてくれた。
「シア様!ケーキは大好評でございます!」
私は生クリームとバターを補充した。
カリナは喜び「またたくさん作りますね!」と張りきった。
カリナに素材を自由に使って好きなものを作るように言った。
カリナは目を輝かせ「ありがとうございます!」とこたえた。
私は用事があるので、とカリナの家をあとにした。
私は温室に向かった。
温室につくと薬草に詳しい魔族の男が水やりをしていた。
私に気がつくと、「シア様!お久しぶりです!見てください!!」と温室中に見事に生えている薬草を見せた。
「すごい!増えたね!!」
この男は枯らすことなく増やすことに成功したようだった。
私はその男に頼みごとをした。
カレーのスパイスになるような似たようなものがないか聞いてみた。
スパイスになる元の植物を出せたら良かったのだが、私はそのスパイスがどうやってできているのかまったく知らなかった。
知らないものは具現化できない。
だからこちらにあるもので代用できないかと思ったのだった。
男は「心当たりはあるがここにはないものもある。」と言い、「少し時間をくだされ。」と言った。
私は急いでいないからいつでもいいからと念を押し温室をあとにした。
(魔王はどこに行ったんだろう)
歩いてる子供を捕まえ聞いてみると「温泉だよ!」と教えてくれた。
温泉に行くと魔王は慣れた感じで湯に浸かっていた。
「シアも入れ」
私も温泉に入った。
(ふぁ〜気持ちいい…)
久しぶりに何も考えずゆっくりしていることに気づいた。
最近はいろんなことが目まぐるしく過ぎていき、頭がパンク状態だった。
魔王は私の頭を撫でて「頑張ってて偉い!」と言った。
それはまるで私がアリやセキに言うような感じだった。
(悪い気はしないな…)
私はエヘヘと笑った。
魔王は魔族たちの理想の未来について話してくれた。
私と同じ考えでずっとハピリナに住むわけにはいかないとか考えていた。
魔王は今の国王をどうにかして考え改めさせたいと思っていると話した。
勇者をほったらかしにしていることについては「あのバカ男には魔族が手出しできないよう加護がついておる。」と教えてくれた。
私が勇者にしたことを話すと魔王は大笑いし、「呪物は魔族じゃないらしいな!」と言った。
(私っていったい…)
「あのバカ男が死のうが生きようがどうでもいいが…もしも必要ならわかるな?」と聞かれ私は頷いた。
(もしものときは私が彼を殺します)
私は国王に魔王討伐を諦めるように呪いをかけるか聞くと、「まやかしではなく本気で改心させたいのじゃ…」と言った。
確かに一時的に気がかわってもまた同じことをしようとするかもしれない。
「だから時間はかかるかもしれないが本人に間違いに気がついてほしいのじゃ。」
と魔王は優しい表情で言った。
私はそれまで魔王や悪魔のために働こうと心の中で誓った。
「のぼせる前に出るかの!」
私もあがった。
(コーヒー牛乳があれば…)
私は(カレーを開発してる間にコーヒー牛乳も開発しようか…)と考えた。
ここにはまだまだやりたいことがある。
私がブスだった頃、私には呪いしかなかった。
非生産的で意味のない行為。
自己満足の世界。
私は魔王を見送りながら思った。
(私の第二の人生は素晴らしいものになっている!)
私は畑に生姜とニンニクを植えて帰った。
カレーのスパイスで使うかもしれない。
ターメリックがカギになることはわかっていたが、ターメリックがどんな植物なのかさっぱりわからない。
(先は長そうだ…)
────
私は地下室に戻り、キリナに伝える事実を整理しておこうと思った。
紙と鉛筆を出し、それぞれのいいところと悪いところを書き足す。
いいところ
・秘密がなくなる
・アリとセキが隠れて過ごさなくてもよくなる
・一緒に討伐軍の邪魔をしてもらえる
・
(あれ…他にいいことないかな…)
私はいろいろ考えてみたが思いつかない。
悪いところ
・呪っていたのが私だとバレて嫌われる
・ダンジョンを壊しまくってたのがバレて嫌われる
・隠れて観察していたのがバレて嫌われる
・最強のブスだったのがバレて嫌われる
(あれ、ちょっと待って…考えれば考えるほど嫌われる可能性出てくるんだけど…)
私は紙を見つめ思考回路が停止してしまった。
何を話しても嫌われる気がした。
(こんなチートみたいな存在、普通の人なら受け入れられないよね…)
私はキリナが自分は賢者であると話してくれたときのことを思い出した。
キリナはきっと私のことを信用してくれている。
私はそれに応えたいと思った。
(嫌われてもいい!筋を通したい!)
私は明日、キリナに自分のことだけでも話そうと心に誓った。
今私が何を考え、何をしようとしているのか知ってほしかった。
(本当は嫌われたくないけど…)
私は眠れなくて遠視で月を見た。
この世界にもちゃんと満ち欠けする月がある。
変わらないこともある。
それはそこにどんな時も存在している。
(変わりたくないな…)
悪魔にもらった第二の人生。
大変なこともあったけど満ち足りた素晴らしい毎日である。
ここに来なければ私はあのまま灰になっていただろう。
月は屋敷を明るく照らしていた。
私はゆっくりと眠りについた。




