スシス・キリナ
「お主いったい何をしたんじゃ?!」
魔王は怒っている。
両手を腰にあて魔王は怒っている。
「ごめんなさい…」
私は素直に謝った。
身に覚えが何個もある。
「任を解かれたとはいえ相手は賢者ぞよ!」
(あぁ、それのことか…)
私は勇者のことやチョコレートのことなど怒られても仕方ないことをしていたと自覚はしていた。
「偶然が重なりまして…でも私だとバレてはいません!」
私は賢者のその後の様子を話して聞かせた。
「ではなぜ金髪黒服の女を探しておるのじゃ!」
魔王はまだ怒っている。
(金髪…黒服…)
私は悪魔に姿を変えられていたことを思い出した。
「それが私だというのですか?」
私は恐る恐る魔王を見た。
「賢者が探すなど!お主のことに決まってるじゃろうが!」
悪魔もその場で首を横に降っている。
「シアが悪いな。」
悪魔も味方にはなってくれないようだった。
「ごめんなさい…」
地下室は静まり返る。
「もう賢者には近づきません!」
私は深く頭を下げた。
「少し様子を見るかのぉ」
魔王はそう言うと消えてしまった。
悪魔は「なぜ探しているのか探ってやろう。」
と言ってくれた。
悪魔はニヤに探るように言った。
ニヤは「かしこまりました。」と言い太ったおじさんに変身した。
「ニヤは変身の天才じゃ。任せておけ。」
悪魔はニヤリと笑い部屋に戻って行った。
────
ニヤは2時間ほどで帰ってきた。
私は悪魔の執務室に呼ばれた。
「賢者はその女に礼がしたいだけだと言っておりました。」
(お礼??もしかしてお礼参りとか言ってボコボコにするつもり?!)
私は暴走族が殴り合うアニメを思い出した。
「命を救ってもらった礼だと…」
悪魔は「ほぉ」と言って私を見た。
「深く探りましたが他意はないようです。」
悪魔は何かを考えているようで「魔王のところへ行ってくる。」と言いニヤと消えていった。
「ママあのお姉ちゃんにまた怒られる?」セキは心配そうにしている。
「シアは悪くないのに!」アリは怒っている。
「ふたりともありがとう。」
私は2匹を撫でた。
すぐに悪魔は帰ってきた。
「シアよ、賢者に会ってこい。」
悪魔はサラッとそう言った。
(賢者に会う?!)
私が驚き言葉を失っていると悪魔は「こういうことだ。」と魔王と決めたということを話してくれた。
私が魔王軍だということを隠して賢者に近づき、賢者の動向を探れと言うことだった。
もし今の王都の連中に反感を持っているようなら戦いに手出ししないように誘導してほしい。
その場合は魔王軍であることを言ってもよい。
しかしこちらの拠点やハピリナのことなどの情報は一切言ってはいけない。
「どうだ?」
悪魔はニヤニヤと私の顔を覗き込む。
「私…コミュ障なんですが…」
悪魔は「なんだそれ」と首を傾げている。
「危うくなったらすぐ帰って来い。」
と言い悪魔は執務室から私を追い出した。
私は部屋に戻りクローゼットの中から黒いローブを取り出した。
「セキはお留守番ね。」
私はククルにセキを預けて賢者が居るという街に向かった。
裏路地に人がいないことを確認しそこに瞬間移動した。
この姿で街を歩くのは初めてだった。
私はローブを深く被り人にぶつからないように歩いた。
(とりあえず酒場に行ってみるか…)
いつもの調子で酒場に向かう。
(あ、私お酒飲めないや!)
私は生霊じゃないことを思い出して足を止めた。
酒場の向かいまで来て通りから様子を覗った。
中から粗暴な男たちの楽しそうに酒を飲み交わす声が聞こえる。
(この姿で入ったら酔っぱらいに絡まれるかも…)
私はブスのままだったら行けたのになぁとぼんやり考えた。
少し観察したが中に賢者は居ないようだった。
宿屋や食堂が並ぶ通りへ移動した。
小さな噴水がありちょっとした広場になっている。
子供たちが噴水の水を触ってはキャッキャしていた。
そこに白いローブの青い髪の男はいた。
私はまた心臓がバクバクして爆発しそうだった。
咄嗟に路地裏に隠れてしまった。
(みつけたはいいけどどうしよう…)
私はその場に座りこんでしまった。
「あの…大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
(みつかってしまった!!)
私は顔を伏せたまま「大丈夫ですー」と答えた。
(もういなくなったかな)
とゆっくり顔を上げると目の前に青い髪の男がいた。
「お久しぶりですね。ダンジョンでお会いした者です。」
男はニッコリと優しく話しかけてきた。
(バレてる…)
私は心を決め立ち上がった。
「実はあなたを探しておりました。」
賢者は照れくさそうにそう言うと「少しお時間いいですか?」と私をカフェのような店に案内した。
居心地の良さそうな店の中には若い女が多かった。
入ると賢者は視線を集めた。
「わぁ素敵な人!」女たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。
賢者は気にせず奥の席に私を座らせた。
「自己紹介が遅くなって申し訳ありません。私はここから北西にある小さな村の者です。スシス・キリナと申します。」
(寿司好きさん…)
「どうぞキリナとお呼びください。」
そう言うと男は私の返事を待った。
「あ、私はシアといいます。ただのシアです。」
と慌てて言った。
「シアさん、素敵な名前ですね。」
私は顔が真っ赤になっているのがわかった。
恥ずかしくて頭から湯気が出てるんじゃないかと思った。
「シアさんは命の恩人ですから…どうしてもきちんとお礼がしたかったのです。」
男はまっすぐに私をみつめていた。
私はすぐに視線を外し「いえ!悪いのは私ですから!!」と叫んだ。
まわりの女たちが私の方を見てクスクス笑っている。
(あぁ、もう帰りたい…)
店員がやって来て「ご注文は?」と聞いた。
男はメニューを指差し「シアさんは何を飲まれますか?」と聞いてきた。
私はメニューを見るがそれがどんな飲み物なのか全くわからない。
「ごめんなさい…こういうお店は初めてで…」
私が困っていると「では私が選びましょう。」と言って注文をしてくれた。
「シアさんはこの辺の方じゃないのですね。」
私は返事に困り「ここからずっと遠くの地図にも載っていない小さな村に住んでいる。」と適当なことを言っておいた。
(まさか悪魔と一緒に住んでるとは言えない)
「瞬間移動でいらっしゃったのですね。便利なスキルですよね。」
(いろいろバレている…何か話したら墓穴を掘りそうだ)
私は「うんうん」と頷いた。
店員が飲み物を持ってきた。
男が私に選んでくれた飲み物はホットミルクのようなほんのり甘い飲み物だった。
(美味しい!)
「お気に召したようでよかったです。」
ニコニコとこちらを見ている。
「あの…もしかして人の心が読めたりするんですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
男は笑い「不快に思われてたら申し訳ない。表情や身振り手振りで人の感情を読むのが得意なだけで…思っていることを読めたりはしませんよ。」と言った。
(本当だろうか…)
私は精神遮断を心がけた。
ここで気配を消すのは怪しまれるだけだろうからやめた。
できるだけ力を使わないように心がけた。
(鑑定を持ってたらどうしよう…)
私は頭の中でグルグルといろんなことを考えた。
「相当な力の持ち主とみましたが、王都でお仕事でもされてますか?」
私はビクッとし「いいえ、野菜を育てたり果物を取ったりしています…」と答えた。
(嘘は言ってない)
「それは素敵なお仕事ですね。私の村は土があまり良くなくて…」と自分の村の様子を話して聞かせてきた。
(うん、知ってる…)
と思いながら私はあの村を思い出した。
決して裕福な村ではないがみんな幸せそうな顔で暮らしていた。
「それで、あの、ばあちゃんがあなたに会えたらこれを渡せと…」
男は珍しくモジモジしながら金色のネックレスを差し出した。
「いきなり知らない男からこんな物をもらうのは気持ち悪いでしょうが…売ったら多少の金にはなると思いますので…」
金色のネックレスには四つ葉のクローバーのような形の飾りがついていた。
アクセサリーをもらうのは初めてだった。
「ありがとう。」
私は無意識に受け取っていた。
高級なものではないだろうけどとても美しかった。
私はしばらくネックレスを眺めていた。
「ばあちゃんのお古で申し訳ない…溶かして他のものにしてもいいし…」
男はまだモジモジしていた。
「いいえ、大事にしますね。お祖母様によろしくお伝えください。」
私はいつの間にか笑顔になっていた。
男は安心したようで飲み物を飲み干した。
「これでばあちゃんに怒られないで済みます。」
男は「お話は以上です!お時間をありがとうございました。」と言って立ち上がった。
私はポケットにチョコレートがあることに気がつき、
「あの…これ…お礼と言ってはなんですが、お祖母様に…」
と言って包みを渡した。
男は「気を使っていただいてありがとうございます。必ず渡します。」
と言って代金をテーブルに置き席を立った。
「あ!お金…」
持っていないことに気づいた。
「ここはご馳走させてください。」
男は店員にごちそうさまと言って店を出た。
私もあとを追い店を出た。
私は「ごちそうさまでした。では…」と言って帰ろうとした私に
「シアさん!!あの、よければ今度ダンジョンをご一緒しませんか?」
と聞いてきた。
(私とダンジョンへ?!)
私は賢者の動向を何も探ってないことに気がついた。
これでは悪魔に怒られるだろう。
「この前のダンジョン、崩れた場所に隠し通路があったんです。あの崩れた天井に。だから見つけたのは実質シアさんのおかげですので…」
男は恥ずかしそうにしている。
もしかしたら人にプレゼントをあげたり誘ったりするのは得意ではないのかもしれない。
私は「はい、ぜひ。」と言い、身分証のフレンド登録をしようと言われた。
(身分証?!)
アリが小さな声で「任せて」と言った。
「ごめんなさい…やったことがなくて…」
私が申し訳なさそうにしていると「私もそんなに頻繁にしてるわけではないのですが…」と言って自分の身分証を弄っている。
「名前の上にある数字を読んでいただけますか?」
(こんなところに…認識番号とかIDみたいなものか)
私が番号を読み上げると画面に
『スシス・キリナからフレンド申請が来ました』
と表示され、
『承諾・拒否』
と出た。
私は少し不安だったがアリが「大丈夫だよ」と教えてくれたので『承諾』をタッチした。
私は賢者キリナと友達になったようだ。
「では近いうちに連絡しますね!」
キリナは嬉しそうに去って行った。
私は怒涛の出来事に呆然とし、しばらく通りに立ち尽くしていた。
(せっかくだからセキに何かお土産を買っていこう)
私は頭の思考を1度止めてセキへのお土産を買おうとしたがお金を持っていないことに気がついた。
(セキ!ごめん!!)
────
人気のない裏路地を探して瞬間移動で屋敷に帰ってきた。
ククルからセキを引き取り地下室へ向かった。
「ママ!寂しかったよ!次は連れて行ってね!!」
セキはちょっと怒っているようだった。
長老のところへ置いてくればよかったかな。
ククルは忙しいからあまり遊んでもらえなかったのかもしれない。
「この世界にはドラゴンがいないんだって。」
私がセキに言うと
「竜はドラゴンじゃないの?」
と聞いてきた。
確かに魔王城には竜がいた。
私は図鑑を持ってきてセキに見せた。
「竜はドラゴンに似てるし飛べるけど炎を吐いたりはしないみたい。」
「それにセキと違って蛇みたいに胴体がニョロニョロ長いでしょ?」
セキは図鑑を見て「ほんとだぁ〜」と言ってちょっと寂しそうだった。
「でもアリだけずるいよー!」と言うとアリは「ボクはおとなしくいい子にできるもんね!」とセキにドヤ顔をして見せた。
セキは「ボクもアリみたいになればいいんだね!」と言いポンっと変身してみせた。
そこにはハムスターが2匹いた。
(赤いハムスターって存在するのかな…)
アリは「そんなの変だよ!そんな生き物いないよ!」と怒っている。
セキは「そんなことないよ!アリにそっくりだよ!!」と2匹のかわいいもふもふはケンカを始めた。
私はそのかわいいケンカを眺めていた。
「じゃあ次は一緒に行こうね。」
と約束した。
(次は…ダンジョンに行く予定だけど…)
急に巨大な黒い熊や絶滅したと言われているドラゴンが現れたら賢者はどんな顔をするだろうか。
私は賢者との時間を思い出した。
(普通の人だったな…)
もっと偉そうな堅苦しい人だと思っていた。
私はネックレスを取り出してみた。
(まさか!呪いや盗聴装置がついてたりするのかな?!)
私は鑑定してみた。
・素材 金
・種類 ネックレス
・特殊効果 なし
呪いも盗聴もないようだった。
(疑って申し訳ない…)
私はネックレスをつけてみた。
クローバーがかわいく揺れている。
(ダンジョンに行くときに村に寄らせてもらおう)
きっと大事なものだろうから。
おばあさんに直接お礼がしたい。
(チョコレート溶けてなかったかな)
その日私はおばあさんが美味しそうにチョコレートを食べている夢を見た。




