討伐軍
私は王都に来ていた。
魔王から討伐軍の邪魔をするように頼まれたからだ。
眠そうな顔をした勇者が先頭に立ち兵士たちはそれに従う。
勇者は馬車に乗り込む。
その後ろに騎馬隊が20人ほどいる。
その後ろは徒歩のようだ。槍や剣を持った兵士たちが100人くらい居るだろうか。
討伐軍はぞろぞろと東の谷へ向かっている。
魔族の村は今ではすっかり廃墟になっている。
どこへ向かうというのだろうか?
私は城へ戻り金庫を探す。
宝物庫のような場所に金貨や宝石が積まれている。
私は瞬間移動でそれを持ち出し地下室へ持っていく。
「シア!大金持ちだね!」
アリは宝石をコロコロさせながら嬉しそうに言う。
セキは金貨をかじってみて「美味しくない」と変な顔をしている。
「これは欲しくて持ってきたんじゃないよ。ちゃんとあとで持ち主に返すんだから。」
私は再び討伐軍の様子を見にいく。
半日ほど経って兵士たちは休憩を取っていた。
勇者は相変わらずで「早く出発するぞ!」と息巻いている。
騎馬隊の隊長らしき人が「勇者様、それは無理です。少し休ませないと到着前に兵士が倒れてしまいます。」と言うと
勇者は兵士たちを見て「軟弱者たちがっ!」と言い唾を吐いた。
隊長は見えないところで「やれやれ」という顔をしていた。
待ちきれなくなったのか勇者は「先に行く!」と言い馬車は走り去っていった。
騎馬隊の人たちは追いかけるべきかどうか悩んでいる。
私は騎馬隊の隊長に
(ここで解散するように言え)
と念じた。
隊長はぎこちない動きを見せ、みんなの前で「ここで解散する!」と大声で言った。
他の騎馬隊の人たちが隊長に「何を言ってるんですか?」と詰め寄った。
兵士たちはザワザワとして何が起こっているのかわかっていなかった。
一人の兵士が「私は戦場に行かないといけません。私が戦わないと家族はお金がなくて餓死してしまいます。」と泣きそうになりながら叫んだ。
まわりの兵士たちも「そうだそうだ」と口を揃えて言う。
隊長は何を言われても「解散だ!家に帰れ!」と言っている。
私は地下室から持ってきた金貨や宝石の入った袋を隊長の前で出し、持たせた。
そして(その中身をみんなに配れ)と念じた。
隊長は兵士たちに並ぶように言い、前から順番に金貨や宝石を渡した。
兵士たちは金貨など見たこともない様子で「これは本物か?」と言いかじったりしていた。
最後に騎兵隊の人たちに宝石を渡し、「さぁ、仕事は終わりだ!帰るぞ!」と言った。
みんな首を傾げていたが一人帰りだすとみんな後を追った。
あっという間に街へ帰る行列ができた。
騎兵隊の人たちは「こんなことをして大丈夫ですか?」と心配していていっこうに帰ろうとしない。
私は残っている人たちに(任務完了!直ちに帰還せよ!)と念じた。
騎兵隊も城へ帰っていった。
私は城に戻り国王やその取り巻きたちに(討伐軍は進軍していない。城で訓練をしている。)という暗示をかけた。
これで兵士たちが戻っても怒られることはないだろう。
勇者を見に行くと谷の手前まで来ていた。
「まだ着かないのか!」と馬車の中で扉を蹴り暴れている。
「少し馬を休ませないと走れなくなります…」
と従者に言われ、「馬を走らせるのがお前の仕事だろう!」と言い殴った。
殴られた従者はよろよろしながらも馬にエサと水を与えた。
私はその従者のポケットにも金貨を入れた。
従者は馬に「ごめんな…」と言いまた走らせた。
ほどなくして馬車は谷に到着した。
従者は谷につくなり椅子を降ろした。
勇者はそこに座り「早くテントを建てよ!」と怒鳴った。
従者はせっせとテントを建てている。
一人で建てるのは難しそうだった。
私は気がつかれないようにそっと手伝い、テントは完成した。
「とろくさい男だな」と勇者は従者に唾を吐く。
従者は「申し訳ありません申し訳ありません」と平謝り。
テントに簡易ベッドを用意させ勇者は「みなが着いたら起こせ」と寝てしまった。
従者はまた馬にエサと水を与えていた。
ブラシで撫でて「がんばったな。」と褒めていた。
心の優しい男のようだ。
私はその従者にも(任務完了!帰路につけ!)と念じた。
従者はそのまま馬車で来た道を戻って行った。
谷にはテントがポツンと1つ。
勇者はいびきをかいてぐうぐう寝ていた。
私はそこで地下室へ戻った。
アリとセキは大笑いして「起きたらどんな顔をするのかな!」と言った。
私はそこで思いつき地下室の机の上にテレビを具現化した。
今まで試してみたが砂嵐しか映らなかったテレビだ。
私は遠視で見える映像をテレビに映してみた。
そこにはテントの中でいびきをかいている勇者の姿が映った。
「ママ!なにこれ!すごい!」とセキは喜び、アリは「あいつが起きそう!」と叫んだ。
私もテレビ越しにその様子を見ることができた。
どのスキルが組み合わさってこうなったのかはわからないが、やりたいことはできた。
私たちはテレビで勇者を観察した。
勇者はくしゃみをし、「寒いな…」と言いながら起きた。
「何をしてんだよ!早く火を起こせよ!!」と怒鳴った。
返事がないのにイライラした勇者はテントの外に出た。
辺りはすでに日が落ちて谷は灯りもなく真っ暗だった。
勇者は「まだ到着してないのか!使えない奴らめ!!」と椅子を蹴った。
そこで馬車の姿がないことに気がつく。
私たちはその姿を見て大笑いしていた。
誰もいないのに騒ぎ散らすバカな男の姿はとても滑稽だった。
笑い声を聞きつけてムイがやってきた。
ムイはテレビを不思議そうに眺め「何をしてるのですか?」と聞いてきた。
私は簡単に説明するとムイもテレビに釘付けになった。
「これが勇者なんですか?」
ムイは眉間にシワを作り明らかに嫌悪感を示した。
勇者はテントの周りを探し回っている。
「誰もいないのにね!」セキは嬉しそうにリンゴをかじりながら言った。
「どうするつもりでしょうね?」ムイも笑いながらこのあとの展開を楽しんでいる。
「私なら城に戻るけどな」と私が言うと、勇者はテントに入り寝てしまった。
私たちは「ふて寝したね!」と大笑いした。
私はそのままテレビに勇者の姿を映し続けた。
みんな勇者に飽きてきて私たちは晩御飯を食べることにした。
テレビを観ながらご飯を食べるなんていつぶりだろうか。
(おもしろい番組はやってないけどね)
勇者はこのまま朝まで寝るようだった。
私も疲れたのでテレビの電源を落とした。
「続きはまた明日の朝にしよう。」
────
朝食を済ませた私は昨日のようにテレビに勇者の姿を映して見せた。
まだ寝ている勇者を見て「お寝坊さんだね!」とセキが言った。
勇者は震えながら起きた。
そして怒鳴ることなくテントの外へ出た。
明るくなった谷は良い天気もあって美しかった。
勇者は絶望したように城の方へ歩いて行く。
どうやら諦めて帰るようだ。
私は王都の様子を見に行った。
王都では「勇者様が行方不明です!」とざわざわしていた。
誰も勇者がどこに行って何をしているのか知らなかった。
(討伐軍の進軍はなかったものにしたもんね)
兵士たちはいつものように中庭で訓練をしている。
昨日の騎馬隊の隊長が指揮を取っていた。
勇者がいないので兵士たちは心持ち嬉しそうだった。
昨日金貨を渡したのでそのまま兵士を辞めてしまったものも居たようだった。
ここの物価はわからないが金貨1枚でしばらく暮らせるくらいの価値があるようだった。
(もっとあげればよかったかな)
国王たちは勇者の捜索をするように騎馬隊に命令を出した。
隊長は3人組を作り各方面を捜索するように指令を出した。
(そのうちみつけてもらえるか)
私は時間を潰すためにダンジョンへ向かった。
────
数時間ダンジョンで時間を潰した私は地下室へ戻った。
アリとセキはテレビを映せとせがんだ。
私は勇者をみつけテレビに映した。
2匹は映画でも観る感じでお菓子をポリポリ食べながらみていた。
「ママ!これおもしろいね!」2匹ともテレビが気に入ったようだった。
勇者はヨロヨロと歩いては座り込んだ。
お腹が空いて喉もカラカラなんだろう。
(自分の荷物も人に持たせるからだよ)
私はイライラした。
騎馬隊の一人が勇者をみつけ駆け寄ってきた。
勇者は騎馬隊の男から剣を取り上げそれを男に向けた。
(いけない!!)
私は瞬間移動して勇者の持つ剣を折った。
勇者は怒り狂っているようだった。
折れた剣を振りまわしところ構わずスキルを放っていた。
私は勇者を念動力で騎馬隊の人たちから引き離した。
「何を!!お前たち許さん!!」
勇者はわめき散らしていたが後ろへ飛んでいった。
騎馬隊の人たちは何が起きてるのかわからず、剣を取られた男は震えていた。
このままではこの人たちが傷つけられてしまう。
私は勇者に(昨日からの記憶がない)と思わせ、気を失わせた。
勇者はその場で倒れ、騎馬隊の人たちは恐る恐る近寄り動かないのを確認すると馬に乗せ城へと帰っていった。
(罪のない人が怪我をするところだった…)
私は反省をし、考えが甘かったことを悔やんだ。
(城に戻った頃にまた見に来よう)
アリとセキは「殺しちゃえばよかったのに!」とちょっと怒っていた。
魔王や悪魔にだってあんな勇者を殺すくらい簡単なことだろう。
そうしないということには何かある。
少なくとも手当たりしだい邪魔者の命を奪うようなことはしないようだ。
人間が思っているよりもずっと魔族は優しい生き物である。
それは悪魔にも魔王にも言える。
────
王都を見に行くとちょうど勇者を乗せた馬が城に戻ってきていた。
国王はすぐにヒーラーを呼び勇者の治療を始めた。
(お腹が空いてるだけだよ)
勇者は水を与えられ目を覚ました。
「何をしておった?」
国王に聞かれた勇者は首を傾げていた。
「俺は…何をしていたんだ?」
勇者はいつもの覇気がなく虚ろな目をしていた。
国王はその様子に驚きすぐに休むように言った。
勇者は従者に抱えられベッドに寝かされた。
私は他の人たちにお咎めがなかったことを確認し地下室へ戻った。
(今回は危なかったな…)
もう少しであの騎馬隊の人は勇者に斬られていた。
まさかそんなことをするなんて予想もしてなかった。
(これからはもっとちゃんと計画を立てよう)
私は猛反省をしてションボリしていた。
アリとセキは何かを察したようで2匹して私の頭を撫でてくれた。
「ありがとう」
私は少し元気になった。




