新たな勇者
「勇者が召喚された。」
悪魔は不機嫌そうに私に言った。
こんな短期間に何人も召喚されるのは稀らしい。
今の国王はよっぽど魔王が嫌いなんだろう。
悪魔が魔王から聞いた情報によると今回の勇者は剣の達人でかなり好戦的な青年だそうだ。
賢者とは相性が悪かったらしく、勇者は賢者に王都を出るように言ったらしい。
賢者は私の調査という任務も解かれ故郷に帰っていったそうだ。
(賢者が王都を去った!)
私は驚き、なぜか少し寂しい気持ちになった。
今まで目標にしてきた賢者が目の前から消えてしまったような気持ちになった。
(しかし賢者を厄介払いするとは今度の勇者はよっぽど自信があるんだろうな…)
私は遠視で様子をみることにした。
(賢者がいないなら余裕でしょ)
────
勇者は王都の城にいた。
広い中庭に豪華な椅子を持ち込みどっしりと座っている。
目の前にはたくさんの兵士が剣の訓練をしていた。
勇者は鋭く細い目で兵士たちを睨んでいる。
剣を落としてしまった兵士をみつけると蹴り飛ばして怒号を浴びせていた。
(何この人…感じ悪い…)
私は鑑定してみた。
・名前 エドハルト
・年齢 17
・種族 ヒューマン
・職業 勇者
・Lv 57
どうやら私と同じ歳のようだ。
スキルは見たことのない名前のものばかりで、きっと剣技のスキルだろう。
魔法系のスキルがほとんどない。
ステータスも攻撃力が高いだけの脳筋プレイヤーなんだろうなと思った。
知力はセキの1/10しかない。
(よくこんなステータスで勇者になれたな…)
勇者の隣には気の弱そうな戦士がいて終始何か文句を言われている。
ときには殴ったり蹴ったりもしている。
使用人の女の子が飲み物を持ってきた。
グラスに何か入っている。
勇者はそれを一口飲み、お気に召さなかった様子で残りを女の子にぶちまけた。
女の子は泣きながら片づけ走り去っていった。
(この男!嫌いだわ!!)
勇者は不満気に立ち上がりどこかへ向かった。
どうやら自室のようだ。
ベッドに横になるとすぐに若い女の従者が3人やってきた。
女たちはマッサージを始めた。
数分してまたお気に召さなかった様子で女の一人を殴った。
女たちは悲鳴をあげて部屋から出ていってしまった。
勇者はそのまま寝てしまった。
ドアの向こうの廊下では先ほど隣りにいた気の弱そうな戦士が見張りをしている。
(これ本当に勇者なの?!)
異世界モノのアニメで出てくる勇者とは全く違った。
横暴で怠け者で品位の欠片もなかった。
これは賢者も任を解かれてよかったと言えるだろう。
こういうやつは人の意見を聞けない自意識過剰のナルシストに違いない。
私が一番嫌いなタイプだ。
私は意地悪でもしてやろうかと思ったが、(従者の人たちが犯人だと疑われて暴力を振るわれても嫌だな…)と思い止まった。
(いつか痛い目に遭わせてやる)
私は拳を握り新たな目標とした。
王様や偉い人たちは勇者が来てくれたことで安堵しているようだった。
「今度こそ魔王を倒してくれるだろう!」
とご機嫌で酒を酌み交わしていた。
(クソみたいな奴ばっかり!!)
私は胸がムカムカするばかりで見るのをやめてしまった。
────
魔王も悪魔も勇者に対する仕事は私に持ってこなかった。
賢者もいない今は脅威ではないのだろう。
ときどき様子を見に行くがいつも誰かを殴ったり蹴ったりしていて自分の鍛錬をしている様子はまったくなかった。
レベルも58になってはいたがステータスにほとんど変化はなく怠けて過ごしてるのは明確だった。
酒場で情報収集してみると街の人たちの反応はまったく逆で
「今度の勇者様はお強いらしい!」
「一人でダンジョンを攻略したんだって!」
「賢者様は勇者様に負けて故郷に返されたらしい。」
「今度こそ魔王を倒してくれるに違いない!」
とかなりの高評価を受けていた。
(嘘ばっかりなのにな…)
あの賢者があんな勇者に負けるわけがない。
どうせ王都のお偉いさんが流したデマばかりの噂だろう。
(勝手に喜んでたらいいわ)
私は呆れてその場を去った。
────
私はあのバカ勇者について考えていた。
(なぜあんな男が勇者なのか?)
もしかしたら私が知らないだけでとんでもない必殺技のスキルを持っているのかもしれない。
(でも○○スラッシュとか○○アタックとか、そんなスキルばかりだったよな)
もしかしたら神様とか女神とかが存在していてとんでもなく強い加護を与えてるかもしれない。
(鑑定しただけではわからないものもあるのかな?)
もしかしたらあのステータスは偽造で本当はとんでもなく強いのを隠してるのかもしれない。
(それなら偉い人たちが安堵していたことにも納得ができる)
私はどうしても勇者があんなバカ男であるということを受け入れたくなかった。
こうやって同じ世界に召喚された仲間だからだ。
(きっと本当は人格者で強い勇者なんだ!きっと私たちが油断するように演じてるだけなんだ!)
なんの根拠もなかったが私はそう思うことにした。
なんにせよ秘策があったらまずい。
いつでも油断大敵だ!
私は気持ちも新たにダンジョンでレベリングをすることにした。
────
(今日は新しくできたというダンジョンに行ってみよう)
そこは最近発見されたばかりのピラミッドの遺跡のような迷宮だった。
トラップも多く初心者向きではない。
私は霊体なのでトラップに引っかかることはない。
本体はアリとセキをお腹にのせて地下室の長椅子で横になっている。
ほとんど人のいないダンジョン。
私はゆっくり進むことにした。
壁は砂岩でできているようだ。
(崩れやすいかもしれない)
生霊が生き埋めにあっても死にはしないだろうけど。
ときどき出てくるサソリのような魔物を倒しながら進んでいく。
ここは明確なフロア分けはされてないタイプらしい。
いたる所にスロープや階段があり上がったり下がったりしていて自分が今どのくらいの高さの場所にいるかわからなくなる。
サソリの姿も進むにつれ大きく凶悪そうになる。
私の攻撃もそれに伴い強くなる。
急に上からサソリが降ってきて私は慌てて大きめの炎攻撃を出してしまった。
サソリは炎に巻かれもがいている。
攻撃は天井にも当たってしまったようでヒビが入りポロポロと砂が落ちてきた。
(やばい!崩れるかも!)
と思った瞬間、サソリの向こう側に人の姿が見えた。
(いけない!巻き込んでしまう!!)
私は咄嗟にその人に近寄り、腕を掴んで瞬間移動をした。
天井は轟音を轟かせ崩れ落ちた。
私は白いフードのこの人があそこにいるのにまったく気がつかなかった。
いつからあそこにいたのか…
勢いよく瞬間移動したので白いフードの人はダンジョンの入口に飛ばされていた。
私はこの人に謝ろうと本体を瞬間移動させた。
「あの…ごめんなさい…私のせいで…」
私は恐る恐る白いフードを覗き込む。
白いフードの人は立ち上がり、
「私も天井が崩れてくるなんて気がつきませんでした。ありがとうございました。」と笑顔を見せた。
私はその顔を見て固まった。
そしてすぐに「ごめんなさいごめんなさい!」と言い残し屋敷に瞬間移動した。
心臓が爆発しそうだった。
その白いフードの人は…
(なんで賢者があんなところにいるの?!)
青い髪の男、賢者だった。
夢にまで見た男だ。
間違うはずもない。
賢者なら気配を消すのも得意だろう。
私が気がつかなかったことも納得できる。
私も気配を消していたから相手も気がつかなかったのかもしれない。
状況を整理してみたがまだ心臓はバクバクいっている。
(どうしよう…会ってしまった…)
しばらく呆然とした私は動くことができなかった。
アリとセキが心配して叩いたりかじったりしている。
「痛い!やめなさい!」
私はアリとセキを捕まえ引き離した。
(賢者は私の姿を知らないはずだ…)
私が近づいたときに気配の欠片を察知されたことはあるが、姿は見られていないはずだ。
おそらく人間たちには身バレしていない。
あの一瞬で賢者は私が今まで探していた呪物だと気がついただろうか?
いろんなことが目まぐるしく頭を駆け回り、まったく結論にいたらなかった。
私は見られてるような気持ちになって辺りをキョロキョロと見回す。
気配感知をしてもそれらしき気配はない。
結界の中はきっと大丈夫だろう。
それでも安心できずに屋敷の中をウロウロした。
いつもの静かな屋敷だった。
それでも落ち着かず私はさっきのダンジョンを遠視で見てみることにした。
できるだけ気配を消す。
入口付近に人の姿はない。
(中にいるかも)
私は中もゆっくり慎重に見てまわった。
ときどき冒険者スタイルの剣士や魔法使いがいたが白いフードは見当たらない。
崩れた場所まで来てみたがサソリがときどきいるだけで人の気配はまったくなかった。
(帰ったのか…)
私は安堵の気持ちと少し寂しい気持ちになった。
ここに来たらまた会えるような期待をしていたような不思議な感覚が残った。
私はマップを確認する。
(もしかしたら近くの街にいるかもしれない)
みつかりたくなかったから会いたいわけではないはずなのだが、どうしても賢者の今の所在を知りたかった。
知らないと安心できない気持ちでいた。
すぐ近くに小さな村があった。
慎重に遠視してみる。
私はすぐに青い髪の男をみつけた。
男は子供たちに魔法を教えているようだ。
子供たちは真剣にしかし楽しそうに岩に向かって杖を振っていた。
男も楽しそうにお手本を見せたりしている。
子供の親らしき人がカゴにたくさんの食べ物を持って現れた。
男と子供たちは母親がひいてくれた敷物に座り美味しそうに食べ始めた。
それは勇者が兵士たちを蹴り飛ばしてる光景の真逆のものだった。
私は慎重に気配を消ししばらく男を観察した。
男は王都にいたときと明らかに雰囲気が違い、柔らかな感じがした。
いろんな人に話しかけられては和やかに会話を楽しむ男。
どうやらここは賢者の故郷の村だった。
小さな家に入っていく。
中にはおばあさんがいて「おかえり」と言った。
(ここに住んでいるのか)
「ただいま、ばあちゃん。」
とにこやかにフードを壁にかける。
「ダンジョンで何かいいものあったかい?」
そう聞かれ男は宝石や金貨を出した。
おばあさんは受け取り「これでまた冬が越せるわ。」と嬉しそうだった。
「ダンジョンの中で急に天井が崩れてきてね…」
男はあそこであった出来事を話し出した。
「女の子に助けてもらったんだ。」
おばあさんは金貨を数えながら「ほぉほぉ」と聞いている。
「ちゃんとお礼を言ったのかい?」
と叱るように言われ「ちゃんとお礼をしたかったけどすぐに消えてしまったんだよ。」と眉をひそめた。
「気配も感知できなかったし、瞬間移動も使っていた。かなりできる人だと思う。」
おばあさんは「次会ったらちゃんとお礼をするんだよ。」と子供に言うように男に言った。
男は「そうだね。」と言って笑った。
二人は決して豪華ではない食事を美味しそうにそして楽しそうに食べていた。
私はなんだか安心してそこで見るのをやめた。
────
賢者はあそこで出会った私が呪いの元凶であるとは気づいていなかったようだった。
(ふぅ…なんだか疲れた…)
アリとセキがククルにもらった食べ物を美味しそうにかじっている。
「ママも食べる?」とセキが焼菓子を目の前に差し出してくれたが「セキが食べていいよ。」と断った。
私はまた賢者の姿を思い出し、気持ちがザワザワしていた。
────
私は賢者の話を誰にもしなかった。
王都から追放された彼はもう脅威ではないだろうと勝手に判断した。
私は時間をみつけては賢者の村を遠視で見ていた。
ダンジョンに行き、子供たちに魔法を教え、ときには農作業もしていた。
村のみんなに愛されているようだったし、彼も村を大事にしているようだった。
(あの勇者に爪の垢でも煎じて飲ませたいわ!)
観察を続けたが私のことはもう気にしてる様子はなかった。
私はなんだか残念な気持ちになった。
(今、目の前に現れたらびっくりするかな)
私は想像して慌てて(無理無理)と考えを改める。
もう観察も必要ない。
私はこの村を見るのをやめた。




