チョコレートの日
私はチョコレートが食べたかった。
どうしてもチョコレートが食べたかった。
具現化すれば出てくるかと思い何度も試してみたがチョコレートはいっこうに現れなかった。
家は出せるのにチョコレートが出てこないなんて!
なんて不便なスキルなんだろうか!!
私は悪魔や魔王の仕事がないことをいいことにハピリナに向かうことにした。
(魔族の誰かに作ってもらおう)
魔族はとても真面目で優秀な種族である。
きっと材料を渡せば作ってくれるに違いない。
私はハピリナの未開拓の土地に向かった。
チョコレートの原材料はカカオマスのはずだ。
私は記憶を頼りにカカオの木を具現化した。
見覚えのあるカカオの実がなっている。
私はカカオの木をたくさん出した。
熟してるだろう実を収穫して魔族の料理上手な女性のところへ向かった。
彼女は私を歓迎してくれて力になると言ってくれた。
私はカカオの実を渡し、チョコレートがどんなものかを教えた。
実を割り中身を確認する。
彼女は実を潰し砂糖と混ぜた。
もちろんそれだけでチョコレートになるわけがない。
どう見てもチョコレートではないそれを私は舐めてみた。
やはりチョコレートではない。
なんとなく匂いはココアっぽいが味も食感も全然違う。
私はがっかりした。
魔族なら何とかしてくれるんじゃないかと簡単に考えすぎていた。
彼女は「時間をくださいませ!」と意気込んだ。
私は紙にチョコレートの絵を描いた。
とても上手ではないその絵を見ただけで、(あぁ…食べたい)とよだれが流れるのがわかった。
私はカカオの木の場所を伝えその場を去った。
こんなことならチョコレートの作り方を熟知しておくんだった!と私は悔しがった。
(元の世界から来てる人はいないのかな…)
そう思うと死んだ勇者のことを思い出した。
彼女も私と同じようにどこかの世界から召喚されたという。
なんだか悲しい気持ちになった。
とりあえずチョコレートのことは諦めよう。
私は屋敷に戻りククルに何か甘い物をもらおうと調理場へ向かった。
ククルは忙しそうにしていた。
屋敷はいつもよりピカピカに掃除されており、いつもより豪華な食事を作っているようだった。
「忙しい忙しい」と言うククルにお願いをできる雰囲気ではないので甘い物も諦めた。
誰かお客様が来るのだろうか?
(今日は厄日だなぁ〜)
私は近くの街にチョコレートがないか探しに行くことにした。
(もしかしたら似たような菓子があるかもしれない!)
私は1番最初にもらった仕事で訪れた街に来ていた。
なんだか懐かしい気がする。
あれから半年くらい経っただろうか。
もう何年もこちらの世界で暮らしている気がしてならない。
私は生霊としていろんな店を覗いた。
食堂や人の家の中まで探してみた。
しかしどこにも見当たらない。
(やっぱりこの世界には存在しないのか…)
私は屋敷に戻った。
相変わらずククルは走りまわっては忙しそうにしていた。
ムイもなんだかそわそわしていた。
私はムイに何事かと聞いてみた。
「たいしたことではないのですが。」
ムイは歯切れの悪い言い方をした。
「父が…第一執事が任務から戻ってくるのです。」
(第一執事?)
そう言えばムイは自己紹介のときに第二執事と言っていたかもしれない。
(第一執事はムイのお父さんなんだね)
ずっと見かけなかったのは悪魔の仕事で遠方に行っていたかららしい。
ククルが張りきっているのはその執事がよっぽど怖いか、よっぽど素晴らしい人なのかどちらかだろう。
私はチョコレートのことを忘れ、ムイの父がどんな人なのかとワクワクしていた。
私はもぎたての果物でも食べてもらおうとハピリナに取りに戻った。
ハピリナに行くとさっきチョコレートをお願いした女性が私に話しかけてきた。
「シア様!試作品を見ていただけますか?」
私は彼女の家に戻った。
お皿にはかなりチョコレートに見た目の近いものが数個のっていた。
私は匂いを嗅ぎ、食べてみる。
決して美味しくはない。
だがしかし先ほどの物よりかなりチョコレートに近づいていた。
「すごいよ!近づいているよ!」
私が褒めると嬉しそうにし、改良点を聞いてきた。
「もっとこう口の中でとろけるような滑らかさがあって…」
私はチョコレートについて熱く語ったが、製法についてはまったく勉強にならなかっただろう。
彼女は「なるほど」と言いながらメモを取っていた。
「きっとお気にめすものを作ってみせます!」
私はきっとこの人ならチョコレートを作ってくれるに違いないと思った。
感謝を伝え、私は果樹園へ向かった。
熟れていて美味しそうな果物を数種類もらった。
甘くていい匂いがする。
私は急いで屋敷に帰った。
一息ついていたククルに果物を渡すととても喜んでくれた。
「ニヤ様がきっと喜びます!」
ニヤとはきっとムイのお父さんのことだろう。
挨拶がしたいので屋敷に戻られたら私にも教えてと言い残し、私は地下室へ向かった。
今日はいつになく気持ちがざわざわしている。
いつもならこんなに食べ物に執着することなんてないのに。
私は気分転換にまだ読んでいない本を取った。
悪魔について書かれた本だった。
読めば読むほど恐ろしい本だった。
悪魔についていろんな伝承が書かれていた。
この屋敷の美しい悪魔からは考えられないようなおぞましいことがたくさん書かれていた。
私は身震いし本を閉じた。
────
私はいつの間にか居眠りをしてしまったようだ。
アリとセキが「起きて起きて!」と起こしてくれた。
どうやらニヤ様が屋敷に帰ってきたようだった。
私は急いで階段を上がる。
玄関の前には使用人達がその人を出迎えていた。
悪魔と一緒にその人はこちらへ歩いてくる。
使用人達に手厚い歓迎を受けているその人はムイに似た姿をしていた。
違いといえばこの人は長髪で後ろで髪を束ねていることくらいだった。
ムイのお父さんというからもっと年上の人をイメージしていたが全然若い男性だった。
悪魔とその人は私の方へやってきた。
悪魔が
「シアは初めてだったな。執事のニヤだ。」
と紹介してくれた。
私は深々とお辞儀をし「シアです。よろしくお願いします。」と行儀よく挨拶をした。
ニヤは私を眺め
「あなたがシアさんですか。ムイからよく話を聞いております。どうぞよろしくお願いしますね。」
と握手を求めてきた。
私は両手で握り返し「はい!」と元気よく応えた。
ニヤはクスクスと笑い、悪魔と去って行った。
私はムイを見つけるとニヤについて聞いてみた。
「見た目がそっくりだけど本当に親子なの?!」
ムイは照れ臭そうに笑いながら「はい」と答え、自分たちのことを話して聞かせてくれた。
「私たちはヴァンパイアで…」とその特徴を教えてくれた。
ヴァンパイアは長生きする種族で、ある程度大人になると数百年はその姿を保っていられると言う。
ムイがヴァンパイアなのは鑑定していたから知っていたが、ヴァンパイアについてはほとんど知らなかった。
私の元の世界でヴァンパイアと言えば血を吸って生きていたがそんなことはしないという。
(なるほど…ヴァンパイアか…)
その日の夕食はやはり豪華で、広間のテーブルにはいつも一緒に食事をしない使用人まで一緒に座っていた。
みんなニヤのことを尊敬しているようで悪魔とムイ以外は「ニヤ様」と呼んでいた。
とても気さくな人で使用人たちも楽しそうにしていた。
悪魔はその様子を眺め満足そうにしていた。
ひときわムイは嬉しそうにしていた。
お父さんのことが大好きなのだろう。
その日はしあわせな気持ちのまま眠りについた。
翌朝ハピリナに行くとあの女性が私をみつけ走ってきた。
手には紙に包まれた紛うことなきチョコレートの姿があった。
食べてみるとそれはチョコレートだった。
私は女性に抱きつき「ありがとう!ありがとう!」と感謝をのべた。
「たくさんお作りしますね!」
と喜び家に帰っていった。
私はチョコレートの余韻を楽しんだ。
この世界で食べられるなんて思ってもいなかった。
やはり魔族は優秀だ。
主原料を渡しただけで見たこともない料理を開発できてしまうんだから。
私はいい気分でダンジョンへ行きレベル上げをがんばった。
(またすぐにチョコレートが食べられる!)
勢いでまたダンジョンの主をやっつけてしまった。
アリに「また壊しちゃったね!」と言われ、
セキは「さすがママだね!強いね!」と褒められた。
危うく生き埋めになりそうだったが気分は良かった。
こんな日があってもいいだろう。




