闇の守護神
私は水の遺跡というダンジョンに来ていた。
この前の洞窟のようなダンジョンは黒い狼を倒すと崩れさってしまった。
中にいた他の人たちはどうなったのだろうか…
(生きて出ていますように…)
ここ水の遺跡は海の上に入口があった。
いつものように遠視で偵察をする。
前回のダンジョンより人は少ないようだ。
海の上にあるので利便性が悪いのだろう。
中はひんやりとしていて気持ちいい。
(人のいないところまで行こう)
ここはどうやら階層に分かれているタイプではないらしい。
(遠視での偵察には限界があるな…)
フロアには魔法陣がある。
それを踏むとどこかに移動するらしい。
(生霊でも無理そうだな…)
私は仕方なく本体で進むことにした。
瞬間移動というスキルは魔力の消費は激しいがとても便利である。
透明化して気配を消す。
いくつかのパーティがここにいる魚のような魔物と戦っている。
(先に進もう)
魔法陣を踏むと違うフロアに移動した。
似たような場所ではあるが明らかにさっきのフロアより人が少ない。
(もう少し先に進もう)
私は3度ほど魔法陣を踏んだ。
あたりに人の気配がなくなった。
集中して魔物を探す。
滝からイルカのような魔物が現れた。
私はいつものように透明化して気配を消した。
イルカは水の中に隠れては水鉄砲みたいに攻撃をしてくる。
(水だから炎は効かないだろうな)
私は手当り次第スキルを使ってみた。
どうやらこのイルカには雷攻撃が効くようだ。
弱点さえ判ればこっちのもんだ。
私は次々と現れるイルカを倒していく。
フロアを移動するたびに魔物も大きくなっていった。
シャチのような魔物を倒し次のフロアへ移動する。
移動した先はまるで渦潮のようなものが空中にいくつもあった。
その渦潮の中から今までの魔物とは比べられない大きさのクジラのようなものが出てきた。
黒い狼より強そうだ。
雷攻撃を仕掛けるが効果はそんなになさそうだ。
他の属性の攻撃もそんなに効いている感じがしない。
(どうやって倒せばいいんだろう)
私は気配を消したままクジラを観察していた。
渦潮から渦潮へ移動しながら四方八方に水鉄砲を飛ばしてくる。
「シア!ボクも一緒に戦うよ!」
アリはそう言うと籠から出てきた。
辺りが急に暗くなる。
禍々しい空気が流れる。
目の前には真っ黒な熊のようなものが現れた。
(なにこれ?!新たな敵?!)
「シア!いくよ!隙を作るからどんどん攻撃して!」
聞き覚えのある声が熊から聞こえる。
(え?これもしかしてアリなの??)
熊はクジラに突進していく。
考えてる暇はなかった。
熊はクジラにパンチする。
クジラは痛そうにその場に落ちる。
「今だよ!シア!」
私はクジラに向かって特大の剣を具現化して頭に向かって飛ばした。
剣はクジラの頭に突き刺さる。
私は剣に向かい雷攻撃をあてる。
クジラは動かなくなった。
(やった…のかな…?)
さっきまでそこにいた黒い熊はもういなかった。
アリはいつの間にか籠に戻り「やったね!シア!」と喜んでいる。
「ほら!逃げないと溺れるよー!」
このクジラはこのダンジョンの主だったようだ。
いくつもあった渦潮は崩れ滝のようになった。
(逃げないと!)
私は残った魔力を振り絞り瞬間移動をした。
今日も地下室に帰ってくることができた。
あの黒い熊のおかげだ。
アリも疲れた様子で角砂糖をポリポリとかじっている。
「あの黒い熊って…アリなの?」
アリは角砂糖をかじりながら「そうだよ!」と言った。
あの姿が本来の姿であるという。
「あのままだと迷惑でしょ?だから小さくなってるんだよ!」
確かにあの姿だとこの屋敷を壊しかねない。
この部屋にだって収まらないだろう。
(闇の守護神…)
まさにその名のとおりだった。
まわりの空気すら暗く重くしてしまう禍々しいオーラをまとった巨大な黒い熊…
(味方でよかった…)
私は愛くるしい姿のアリを撫でながら黒い熊を思い出し身震いした。
────
それからというもの、悪魔や魔王の仕事の合間にダンジョンへ行くのが日課になっていた。
生身の体で戦うことにもかなり慣れてきた。
亜空間での身体強化の鍛錬も効いている。
最近では素早さに特化してレベル上げをしている。
(瞬間移動は魔力の消費が激しいから…)
どこのダンジョンも主はやはり強く、ピンチになることもしばしばあった。
そのたびにアリは黒い熊として私を助けてくれた。
アリは見たことのない闇魔法を使った。
毒々しい深い闇を操るアリは味方でありながら恐怖を覚える姿だった。
そしてとてつもなく強かった。
レベル上げの邪魔にならないようにできるだけ助けないね!と言うアリだったがピンチになると必ず助けてくれる。
とても心強い。
きっと勇者討伐のときにはかなり役立ってくれるだろう。
────
その日はいつものように悪魔の仕事をしていた。
街の僧侶が悪魔の力を弱らせる薬を研究しているからやめさせろという任務だった。
私は生霊として早々にその仕事を片付け、久しぶりに酒場に偵察に行った。
何か勇者の情報があるかもしれない。
しかしそこで噂されていたのは”黒い厄災”というものだった。
「ダンジョンを壊しまくっている”黒い厄災”と呼ばれる現象が起こってるらしいよ。」
「王都の探索パーティもいくつか壊滅させられたってよ。」
「探索してると急にダンジョンが崩れだすんだってよ…」
「崩れる前に真っ暗になるらしい。」
「主が倒されないとダンジョンが崩れるなんてことないのになぁ…」
どうやらダンジョンが攻略されて崩れているのを知らないようだ。
その”黒い厄災”というものがただダンジョンを壊していると思っているらしい。
(黒い厄災ってきっと熊化したアリのことだよな…)
確かにあれは厄災レベルなのかもしれない。
フロアが違っても崩れる前には辺りが暗くなるようだった。
凄まじい闇の力だ。
(アリもいつの間にか悪役になってるなぁ)
私は仲間ができたようで嬉しかった。
(悪役仲間だね!)
私は勇者の情報を得られず家路についた。
屋敷に戻り悪魔にその話をすると大笑いされた。
「黒い厄災とは!なかなか良き名前をつけてもらったな。」
アリはドヤ顔でムイにもらった砂糖をかじっている。
「勇者もダンジョンでレベル上げをしているらしい。気をつけろよ。」
そう言うと悪魔は自室に消えていった。
(勇者もレベル上げを…)
その日はなかなか眠れなかった。
勇者に剣を刺され倒れている自分の姿が目に浮かぶ。
レベルは150になろうとしていた。
ダンジョン攻略はとても効率がよい。
(まだまだ足りない…)
魔王の本で調べるとレベルの上限はないそうだ。
その本の存在をすっかり忘れていたが、真っ白いページは調べたいことを念じると文字が出てくる仕組みになっていた。
私専用とはそういうことだったらしい。
他の人がいくらページをめくっても一生真っ白なんだろう。
それはただの紙切れに等しいものだった。
私は何か困るとその本を開いた。
魔王の知識はとてつもなく、わからないことはめったになかった。
(さすが魔王様だなぁ!)
感心していると急に目の前に魔王が現れた。
「シア!頼みがある!!」
魔王はいつになく真剣な顔で私にそう告げた。




