ダンジョン
私はダンジョンに来ていた。
もちろん生霊の姿でだが。
前回は6階のボスと相打ちになって意識を地下室に戻された。
気配を消して行動してもこちらが攻撃を繰り出すと魔物は反射的にこちらへ向かって反撃してくるらしい。
私はそれを逆手にとって攻撃したら移動するという方法で戦うことを身につけた。
この方法だと移動先を察知できない魔物にはとうてい私に攻撃を当てることはできない。
6階である程度レベルを上げた私は7階へ向かった。
この先へ進むのは初めてである。
きっと蜘蛛よりも強い魔物がいるに違いない。
長い階段を降りるとそこは美しい花畑だった。
さっきまでの暗くてジメジメした洞窟は姿形も見られず、それは私の亜空間の草原を思わせた。
私がその風景に見入っていると急に魔物の気配がした。
それは白い布をまとった二足歩行の金色のキツネのようなものだった。
蜘蛛とはうって変わってとても美しい姿をしていた。
「よくここまで来たな。」
キツネは言葉を話すようだ。
言葉を話す魔物に会ったのは初めてでびっくりした。
気配を消しているのに私の存在に気がついたらしい。
「私はヒュリナク。よろしくな。」
(ここが最深部なのか!)
もっと奥まで続くと思っていた私はちょっぴり拍子抜けをした。
しかしそんなことを言ってる場合じゃない。
私の気配を察知されている。
これは生霊として一大事である。
「ここを攻略したくば本体で現われよ。」
(本体…私が生霊だってバレているということか…)
私は諦めようかとも思ったが戦うことにした。
(こんなところでやられているようじゃ勇者なんて倒せない!!)
意識を集中させこの場に本体で瞬間移動した。
いつもとは反対の生霊に重なっていく感覚は新鮮だった。
目を開けると私は花畑にいた。
「いらっしゃい、シア。」
(このキツネ!私のことを知っているの?!)
私が身構えていると籠からアリが顔を出した。
「久しぶりだね!」
アリはキツネに向かい話しかける。
(え?知り合いなの?!)
「久しぶりだな、闇の守護神よ。」
キツネもこたえる。
(闇?!アリが??このかわいいもふもふが闇の守護神なの??)
「今はアリっていう名前をもらったんだ!君も名前をもらったんだね!花の守護神!」
「私はこのダンジョンの創設者の守護神となった。」
(ダンジョンの創設者…??ダンジョンを作ってる人がいるということなのか?)
話の流れからいくとこのキツネもどうやら守護神らしい。
(え?守護神と戦うの?!!)
明らかにアリより強そうだ。
これはよくない展開なんじゃないかと焦っているとキツネはこう言った。
「ではシアよ、ここの主と戦うがよい。」
そう言うとキツネは指を鳴らした。
次の瞬間美しかった花畑は消え去り、暗くジメジメした洞窟に戻った。
ガルルル…こいう鳴き声が聞こえそれは現れた。
黒い大きな狼のような魔物だった。
(これがここの主か…)
私は戦う相手がさっきのキツネじゃなくてよかったとホッとした。
とは言えこの狼も相当強いのがわかる。
「シア!来るよ!」
胸元でアリが叫ぶ。
「わかってる!いくよ!」
私は避けると同時に近くにあった大岩を飛ばした。
狼は間一髪で避けた。
私は透明化のスキルを使い気配を消した。
狼はクンクンとにおいを嗅ぎ私を探しているようだ。
すかさず雷を槍状に出して狼に投げ飛ばす。
(当たった!)
狼はビリビリ痺れヨロヨロしていた。
致命傷ではないらしい。
私は間髪入れずに炎を撃ち込む。
狼は長い尻尾を振り私の炎を打ち返してきた。
(そんなことできるの?!)
私はなんとか炎をかわした。
さすがにここの主だ。
今までの魔物とは段違いで強い。
私は気配を消し、いろんな攻撃を試してみた。
毒攻撃がヒットしジワジワと体力を削っていた。
私は弓を具現化し矢に雷を込めた。
集中し矢を放った。
矢は狼の頭に刺さりあたり一面に雷がビリビリと走った。
狼は一瞬笑顔のような表情を見せると尻尾からキラキラと消えていく。
それと同時に天井からゴロゴロと岩が落ちてくる。
「早く逃げて!崩れちゃうよ!」
アリが叫び私は急いで地下室へ瞬間移動した。
体は疲れきっていて魔力もほとんどなかった。
苦団子を口にしたがなかなか回復しない。
アリは興奮気味に「ダンジョンクリアだね!」と喜んでいる。
クリアしたらダンジョンが崩れるなんて聞いていない。
(危なかったな…)
私は長椅子に横になった。
意識が薄れていくのがわかった。
────
「シアさん大丈夫ですか?!」
ムイが心配そうに私を揺さぶっているようだ。
私は重いまぶたをゆっくり開ける。
「よかった!生きてましたね!」
(死んだと思われたのか…)
ムイはマドレーヌのような焼き菓子とお茶、そしてアリのために可愛い形をした砂糖を持ってきていた。
「今日はちょっと危なかったです…」
私はムイにダンジョンでの出来事を話して聞かせた。
「ダンジョンに花の守護神様ですか!」
またムイは興奮気味な反応を示した。
この世界の人は守護神のことが相当好きらしい。
「それは珍しいことですね。」
そう言って普通のダンジョンには居ないと教えてくれた。
もしかしたらアリが居たから…
「普通のダンジョンの主なら、シアさんが気配を消している状態を察知できるとは思いません。」
確かに…私もそう思う。
賢者や勇者だって私のことを察知できなかった。
「花の守護神様…何者でしょうね…」
ムイは食器を片付け階段を上がっていった。
私は寝ているアリを起こし花の守護神について聞いてみた。
「友達だよ!」
アリはニコニコと答える。
(守護神皆友達…なの??)
どうやら加護を受ける前の守護神は天界の神殿のようなところで暮らしているらしい。
そこには様々な姿の守護神がいて、誰かのところに降りるのを待っているらしい。
(アリの友達…敵ではないということなのかな…)
私は魔王にもらった本のことをすっかり忘れていた。
(魔王の叡智を借りることにするか)
本をめくってみたがどのページも真っ白だった。
(ん??)
私は(守護神のことが知りたいのに…)と思いながらページをめくっていた。
すると真っ白だったページに文字が浮かび上がる。
”守護神とは”
天の加護により現れる精霊のような存在
宿主となるものを生涯尽くして守る
その姿や能力は様々でとても強大な力を持っている
数十年に1体現れるかどうかの希少な存在で出会った人には幸運がもたらされると言われているがそれは定かではない
そう書かれていた。
魔王もよくわかってないようだった。
そんなにレアな存在だったのか。
魔王も欲しがるわけだし、ムイもククルも喜ぶわけだ。
(このかわいいもふもふが闇の守護神とは…)
私が闇属性なのはなんとなくわかる。
決して花や光の要素はない。
私は寝ているアリを撫でた。
(かわいい)
守護神についてはよくわからなかったし、アリに聞いても降りた先の守護神がどうなるかはわからないと言われた。
主となる存在によってそれは千差万別らしい。
あのキツネを思い出す。
金色の美しい姿のキツネ。
(敵だったら嫌だな…)
本能でそう思った。
その日は晩御飯をたっぷりと食べて早々にベッドに入った。
魔王にもらった本の検証は明日にしよう。
アリはククルが用意してくれた小さなふかふかの寝床を気に入り私の枕元に置かせた。
(寝相が悪くて落としたらどうしよう)
そんなことを考えているうちに眠りについた。
今日は本当に疲れた。
私は花畑を駆け回る夢を見た。




