レベル100
私はいつものように魔物狩りをしていた。
この世界にはダンジョンと呼ばれるものがあった。
よくゲームでみかけるやつだ。
近くの森の魔物ではレベルが上がらなくなってしまったのでムイに相談するとここを勧められたわけである。
ダンジョンは攻略されると消えるらしい。
最深部にいるボスを倒すと攻略したことになるそうだ。
とりあえずいつものように遠視で偵察してみる。
資源やレアアイテムを求めて訪れる人も多いようだ。
(生身の体で来るのはやめておこう)
私は生霊を飛ばした。
────
ここのダンジョンは洞窟のような造りになっていた。
暗くてジメジメしていて…なんだか落ち着く。
入口を進むと戦士や魔法使いなど数人のグループがいくつか行動しているのが見えた。
(この辺はスルーしよう…)
私はそのまま奥へ向かう。
下へ向かう階段があった。
どうやら地下へ進んでいくタイプらしい。
地下5階くらいまでいくつかのパーティがウロウロしていた。
(人のいないところへ行かないと)
私は地下6階までノンストップで来た。
地下を進むに連れて闇は深くなった。
(そろそろいいかな)
辺りに人の気配はない。
魔物を探すとすぐに見たことのない毒々しい姿の蜘蛛のようなものが現れた。
(気持ち悪いな…)
とりあえず炎系の攻撃をしてみる。
魔物は悲鳴のようなものをあげる。
こちらが見えているわけではないようだが何かを察知したらしく私がいる方向に紫色の何かを飛ばしてきた。
反撃されたのは初めてだった。
予想してなかった私は慌ててその紫色の何かを避ける。
(危なかった!)
壁面にぶつかったその紫色の何かはゴツゴツした岩をシューシューいいながら溶かしている。
(酸のようなものなのかな…)
ここの魔物は明らかに強い。
(冒険者たちがいないわけだ)
私は蜘蛛の攻撃をなんとかかわしながら1匹やっつけた。
ステータスを見るとレベルが1上がっていた。
たった1匹で上がるなんてかなり強い魔物に違いない。
生霊の状態で攻撃が当たってしまったらどうなるんだろう?
本体にも損傷がでるのだろうか?
かと言って試すわけにもいかない。
死んでしまったら元も子もない。
私は緊張感をもって奥へと進んでいった。
蜘蛛は定期的に現れる。
いろんな属性攻撃を試してみたがこの蜘蛛には炎が1番効くようだ。
下への階段が見える。
(やっと下に行ける)
そう思った途端にそれは現れた。
さっきの蜘蛛よりでかい蜘蛛だった。
(このフロアのボス??気持ち悪い!!)
私は気合を入れて攻撃を繰り出す。
さすがにすぐやられるような相手ではないようだ。
紫色の何かだけではなく白い糸のようなものも飛ばしてくる。
蜘蛛の糸だろうか。
生霊を糸で捕まえることができるのかは不明だったがあたりたくはない。
私はひときわ大きな炎を作りその蜘蛛に向かって飛ばした。
同時に蜘蛛から黒い何かが飛んできた。
(まずい!ぶつかる!!)
大きな蜘蛛は炎に焼かれ大きな悲鳴をあげながら倒れる様子が見えた。
そして次の瞬間真っ暗になった。
(やられちゃったのかな…)
黒い何かは私に直撃したようだ。
しびれる感覚がある。
ゆっくりと目を開けるとそこはいつもの地下室だった。
体が動かない。
私はどうにかしてククルの苦団子を食べた。
少しずつ楽になっていくのがわかる。
あの大きな蜘蛛と相打ちになったようだ。
生霊がやられると強制的に意識が戻るのか。
新たな発見である。
生霊のダメージはそのまま本体が受けるというわけではないが少なからず本体にも支障が出てしまうようだ。
(もっと強い攻撃を受けたら死ぬこともあるかも…)
これからはもっと慎重に行動しないといけないようだ。
私はあの大きな蜘蛛でどれくらいレベルが上がったのか確かめることにした。
いつものように身分証を取り出す。
レベルはいつの間にか100になっていた。
そして見慣れないメッセージがきている。
『アップデートしますか?』
下には『はい』と『いいえ』と出ている。
私は悩むことなく『はい』を選択した。
身分証は光りだした。
そして声が聞こえる。
「レベルアップおめでとうございまーす。」
小さな男の子のような声。
私は何か出てきたのかと周りを探してみる。
何もいない。
どうやら身分証自体に音声機能がついたようだ。
恐る恐る覗き込むとハムスターのようなものが目の前に現れた。
びっくりして倒れ込んだ私の胸元にそれは飛んでくる。
「な、なにっ?!」
「ボクはあなたの守護神だよ!名前をつけて!」
10cmにも満たない灰色のもふもふしたそれは私の上で話しかけてくる。
(守護神ってなに??名前をつけろってペットか何かなのかな?!)
私は昔飼っていたハムスターを思い出す…
(かわいがっていたけれど懐くことなくいつも噛みついてきたっけ…
確か名前は…アリエルだかアリババだか…)
昔の記憶でちゃんと思い出せない。
「アリ…」
思い出そうとつぶやくとそのもふもふは
「アリ!ボクの名前はアリ!ありがとうシア!」
嬉しそうに私の上で飛び跳ねる。
(か、かわいい…)
(名前、思い出す途中だったんだけどな…)
しかしアリという名前をもらってそれはたいそう喜んでいる。
(まぁいいか)
私はそのもふもふを手ですくい上げ体を起こした。
「これからよろしくね!シア!」
愛くるしい姿で話すもふもふ。
(なんてかわいいのだろうか!!)
アリは自分が何者なのかなぜ出てきたのかを説明してくれた。
レベル100になると天から加護を受けられるらしい。
その加護は人によって様々であり、スキルを受け取ったり新しい属性をもらったり、強い武器やアクセサリーをもらうこともあるらしい。
私の場合はそれが守護神だったということだ。
アリは
「守護神は珍しいんだからねっ!」
とドヤ顔をする。
そうかと思うとアリは私の髪の毛の中に潜り込んだ。
(くすぐったい)
ムイがやってきたのだった。
「シアさん誰かとお話されていました?魔王様でもいらしてるんですか?」
ムイはキョロキョロと部屋の中を見回す。
私は頭にいるアリを捕まえムイに見せた。
「守護神らしいよ。」
ムイは目を丸くしてアリをみつめる。
「シアさん!すごいです!!守護神様とは…私は初めて見ました!」
興奮気味でアリをみつめるムイ。
アリは照れくさそうにエヘヘと笑った。
ムイは守護神がどんなに珍しいものか私に聞かせてくれた。
アリは終始ドヤ顔で「私はすごいんだぞ!」と言わんばかりだった。
すごいのはわかったがアリが現れてから私の身分証が見当たらなくなった。
(まさかアリが身分証?!)
私はアリに何かスイッチがついてないか探してみる。
「やめろっ!くすぐったい!!」
アリはただのもふもふだった。
「シアのデータならボクが全て把握しているよ!身分証の機能だってボクに言ってくれたら朝メシ前のチョチョイのチョイだよ」
身分証はどうやらアップデートで消えたらしい。
持っていなくても念じるだけでいつもの画面が現れた。
考えただけで情報を可視化することができる。
ステータスに限らずマップ機能やナビゲーション機能も頭で考えるだけで起動した。
(すごく便利!)
しかし身分証を提示しないといけなくなったときはどうしたらいいんだろうか。
ずっと屋敷にいるから必要になったことなんてなかったけど、もらうときになくさないように言われたはずだ。
「しかたないなぁ」
アリはそう言うと元の身分証になった。
「どうしても必要なときはこっちの姿になれるよ!」
そう言うとまたもふもふに戻った。
(なるほど…よくわからないがそれなら問題はないか)
ムイは興奮したまま「ご主人様に報告してきます。」と階段を上がっていった。
私は呆気にとられたままこのかわいいもふもふを撫でた。
アリは気持ちよさそうにしている。
「お腹空いちゃった!何かない?」
この守護神は食事を摂るらしい。
苦団子しかここにはない。
私はククルのところへ向かった。
ククルはちょうど休憩中だったようでお茶を飲んでいた。
ククルにも軽く説明をするとムイ同様に興奮気味でアリを眺めた。
「アリ様は何をお召し上がりになるんでしょうかね…」
ククルはいろんな食べ物を出してきた。
野菜からパン、クッキー、木の実や酒まで出してきた。
「これがいい!いただきます!」
アリが選んだのは角砂糖だった。
「美味しいー!ククルありがとう!」
そう言われたククルは大喜びで小さな箱を渡してくれた。
ククルの手には同じものがもう一つあった。
「この2つは繋がっております。いつでもアリ様がお召し上がりになれるよう定期的に補充しますね!」
そんな便利なものがあったのか。
苦団子も入れてほしかったがアリに断られた。
それからククルはある物を私にくれた。
「アリ様にちょうどいいかと。」
それは首から下げる形の蓋付きの籠のようなものだった。
私がそれを首から下げるとアリは喜んでその中に入った。
「ククルありがとう!とっても居心地がいいよ!」
ククルもアリも大喜びだった。
「何かありましたらいつでもおいでくださいね!」
地下室へ戻ろうとしていると廊下に悪魔がいた。
悪魔はアリを見せるように言い、私はアリを手の上に乗せて悪魔に見せた。
アリはまたドヤ顔で悪魔の前で自己紹介をした。
悪魔も怖くないらしい。
悪魔は珍しそうにアリを観察し笑いだした。
「これは面白い。よくやったぞシアよ。」
とだけ言いどこかへ行ってしまった。
私は本で守護神について調べることにした。
地下室にある本にはそれらしきことが記載されているものはなかった。
(存在自体が珍しいのかな…)
アリはどうやら籠の中で眠っている。
寝姿もかわいらしい。
ここ数日ずっと気が張っていた私はしばらくぶりで穏やかな気持ちになっていることに気がついた。
(そう言えばレベル100になったんだな…)
この世界に来て数ヶ月。
いろんなことがあった。
レベル100が強いのか弱いのかもわからないけど私なりに頑張ったな…と感慨深く思う。
私がその余韻に浸っていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「シアよ!レベル100おめでとう!」
魔王は本を一冊私に差し出した。
「これは叡智の本じゃ。」
そう言うと魔王はアリを手に乗せながらこの本について説明して聞かせてくれた。
早い話がこの本は魔王の知識の塊であり、魔王の知っていることならなんでも教えてくれるという代物らしい。
「シアにしか見ることができない仕様になっておる!悪用するんじゃないぞ!」
アリをもふもふと撫でて魔王は上機嫌の様子だ。
「いいなぁ〜わしもほしいなぁ〜」
アリを撫で回しながら連れて帰りそうな素振りをみせると従者は「魔王様!いけません!」と叱りつけ、いつものように連れ帰って行った。
「また遊ぼうぞよ〜」
魔王は従者に引きづられながら手を振り去っていった。
私は改めてアリを見る。
アリは嬉しそうに手の中で毛づくろいをしている。
(この小さなかわいいものを守らなくては!)
私は新たな使命を得た。
そしてまたダンジョンに向かった。
(もっと強くならなくては…)




