勇者
私は弱い。
生霊は強いけど”私の本体”はかなり弱い。
私の仕事は呪うことであって生身の体で戦うことではない。
そう思ってレベルを上げてきたがもしこの屋敷に勇者率いる人間たちが攻め込んできたらどうだろう?
私なんて秒で捕まり殺されるモブに違いない。
(これはまずいかもしれない…)
私は本体を強化することにした。
とは言っても攻撃系のスキルは全く無いに等しい。
念動力が使えるので近くにあるものを武器にして飛ばすことくらいならできるだろう。
それだけならかなりうまく使えるが…
それにしても本体を攻撃されてしまえば元も子もない。
私はとりあえず自分の身体能力を上げることを目標にした。
屋敷の中を走り回りランニング。
地下室で腹筋やら腕立て伏せ。
どれもきっと並以下だった。
元々運動は得意じゃないし嫌いだ。
悪魔に姿を美しくしてもらったが身体能力まではもらえなかった。
私は草原の家に向かった。
しばらく来ていなかったがそこには私の作り出したヘンテコな家がちゃんとあった。
私は奥に部屋を一つ作り、元の世界にあったある物たちを具現化した。
そう、トレーニングジムだ。
できるだけ詳細に思い出し作り出した。
使ってみるとちゃんと機能しているようだ。
ウォーキングマシンで走り、器具で腹筋や背筋を鍛えた。
最初はすぐに息がって上がったが徐々に効果は出てきてる感じがした。
いつの間にか
・身体強化
というスキルが増えていた。
使ってみるとステータスが跳ね上がっているのがわかった。
持続時間は1分ほどだろうか。
これもきっとレベルを上げれば効果時間が増えるに違いない。
(そろそろ私も攻撃系のスキルを覚えたいな)
とりあえず炎系のものを試してみることにした。
草原の家から離れたところにやってきた。
指先に炎が現れるように念じる。
すぐに指先は熱くなり炎が現れた。
(すごい!成功だ!)
小さな炎は私の指先で燃え上がる。
それを飛ばしてみる。
小さな炎ではあったがぶつかった先の草は燃えだした。
(いけない!水!!)
私はその炎の上に水が降り注ぐよう念じた。
雨のように水は現れ炎は消えた。
(これはいける)
その後も風を操ってみたり雷を出してみたりした。
どれも小さなものだったけど成功したには違いない。
(あとは…回復系もあると便利かな…)
風魔法を失敗して切ってしまった腕に向かい
(治れ…)
と念じてみる。
傷は徐々に小さくなってやがて消えた。
(私なんでもできちゃう)
念じるだけで思い通りになる。
存在がもうチート級な気がしてきた。
しかし勇者はもっとすごいかもしれない。
私は何度も練習した。
スキル一覧には属性系の攻撃スキルが並び、レベルも上がっていった。
念じることから派生して覚えられるスキルの数々。
もっとできることはないかと日々考える。
最初はできなかったがいつしか生霊の状態でも攻撃系のスキルを使えるようになっていた。
使うことはほとんどなかったが怖がらせるために使うことはあった。
人間たちはどこからともなく現れる炎や水に驚いた。
気配を消しながらいろんなことをするのにも慣れた。
そろそろ王都を見に行ってもいいかもしれない。
私は体調を整えた。
(賢者と勇者の様子を探ろう)
遠視で王都を探した。
城の中を探すとそこにいた。
青い髪の男は数人の人たちと一緒に何やら作戦を立てているようだった。
「勇者様は魔王を…」
賢者が勇者様と呼ぶその人物はそこにいた。
きれいなお姉さんだった。
勇者は大人の女性だった。
またもやイメージとは違う展開だ。
勇者といえば金髪の美青年ではないのか。
そんなことを考えながら私は慎重に気配を消し観察を続けた。
ここにいる5人はどうやら勇者パーティーらしい。
・勇者(茶髪のきれいなお姉さん)
・タンク役の戦士
・魔法使い(少年のような小さい男)
・ヒーラー(白髪のおじいさん)
・賢者(青い髪の男)
見た目はあまり強そうに見えないがかなりの威圧感を感じる。
(この人たちただ者ではない…)
何かを感じ取ったように賢者がキョロキョロし始めた。
(やばい!)
私は瞬時に意識を戻した。
(あの賢者には油断できないな)
悪魔に見たままを報告し褒められた。
そして「無理はするなよ。」と頭をポンと叩かれた。
ムイも心配そうにこちらを見ている。
私は絶対に無理はしないと誓い地下室へ戻った。
(勇者パーティー…)
私はあの5人を思い出し不安になる。
(今の私ではあの人たちに勝てない)
私は暇をみつけてはレベルを上げた。
草原で属性攻撃の練習を続け、トレーニングジムで身体強化もがんばった。
気配を消すイメージトレーニングも併せてやった。
そしてついには
・透明化
というスキルを覚えた。
本体の姿を透明化できるものだった。
これも最初は効果時間が短い。
私は魔力が切れるまで繰り返しスキルの練習をした。
まだ具体的にどうやって自分が戦えるのか想像もつかない。
私なんて足手まといになるから戦場にすら行けないかもしれない。
しかし私は強くなりたかった。
もう元の世界の最強のブスには戻りたくなかった。
あの頃の私はもうここにはいない。
闇雲に呪っていただけのあの頃の私はもうここにはいない。




