最強のブス
私はビジュアルが悪い。
そう、俗にいうブスというやつだ。
マンガやドラマの主人公なら「ブスだけど性格がいい」とか「ブスだけと明るくて愛嬌がある」なんて付属要素がいいかもしれない。
しかし私は性格が悪い。
どこからどう見ても ‘最強のブス’ それが私だ。
この物語は一人のブスの迷走物語である。
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私は平凡な家庭の平凡な親から生まれた一人の女である。
それなりに勉強も運動も頑張ってきたが飛び抜けた才能を開花することはなかった。
平凡な親から生まれたのに私は平凡な少女には育たなかった。
そう、ビジュアルが悪かった。
身長は平均より低め、ぽっちゃりを超えてぼってりとしたボディ、天然のくるくるパーマ、低くて聞き取りにくい声…
良いところを見つけるほうが難しい。
それなりに容姿を気にして改良を試みることもあった。
しかし何をやってもそんなに変化は見られない。
ものによっては悪化してるとも言えただろう。
こうして私は私を受け入れた。
私は最強のブスとして生きていくことにした。
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見た目がブス、心もブスという生き物はどういうことか世間には受け入れがたいもののようだ。
私には敵が多い。
公平な立場である教職員にさえバカにされたり存在を忘れられたりした。
私は「期待しない」という技を覚えた。
期待しなければがっかりもしない。
そしてできる限り自分の存在を消した。
まわりが私を見なければ嫌な思いも最小限になるはずだ。
しかし敵は手強い。
束になって容赦なく心ない言葉を浴びせてくる。
私が何をしたというのだ?
こんなに慎ましく生きているというのになぜ私にかまってくるのだ??
絶望を感じた私が行き着いた先…
─私の生きる動力になったもの─
私は呪いというものに魅了され生きがいとした。
人を呪っている間の幸福感は天にも上る心地よさである。
呪いが効いていようがいまいがどうでもいい。
私はその行為に酔っていた。
ふふ…ふふふ…
ブスがニタニタと笑っている様子はさぞかし怖いだろう。
そんなこと知ったこっちゃない。
私は私の世界で幸せだった。
”あいつが現れるまでは”
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(今日は大塚先生を呪おう…ふふふ…)
昼休みの呪いの時間は私にとって学校生活最大の楽しみと言っても過言ではない。
(大塚先生が教頭先生に怒られますように…)
呪いと言っても藁人形に釘を打ったりはしない。
そんな恐ろしいことなんてできないし、なんと言ってもめんどくさい。
夜中に誰にも見られないところで儀式をするとか、考えただけでも震えが走る。
私の呪いは主に念じることである。
イメージ的には生霊を飛ばす感じである。
こうなればいいのに…ということを強く念じるのである。
ある日は転べと念じ、ある日は財布を落とせと念じる。
特に意地悪なやつは何度も私の呪いの餌食になっている。
まぁ、呪いが成功したことなんてないのだが。
そんなことは関係ない。
私の中ではいつも念じたことは叶い、意地悪な奴らは痛い目に遭っている。
妄想?
そんな言葉で片付けられない。
これは立派な呪いである。
呪文があるわけでも人形に釘を刺すこともない。
私は呪っている。
私の生きる支えになっている。
私のまわりのありとあらゆる物を呪って生きている。
なんて楽しいんだろうか!
そんな満ち足りた毎日をおくっていたのに…
呪いに夢中になっていた私は階段を踏み外し上から下まで勢いよく落ちてしまった。
まるで飛んでいるようなそんな浮遊感。
スローモーションのように近くにいた人々の驚く顔が見えた。
死ぬのかな?走馬灯はいつ流れるのかな?
私は深い闇の中に落ちた。
真っ暗で寒い。
自分の鼓動さえ聞こえない静寂。
─闇の中─
どのくらいの時間が過ぎたのだろう?
私は死んだのか?
痛みは感じない。
ただ冷たい。冷たいところに横たわっているようだ。
目を開けるのが怖い。
なぜなら…
何者かの気配を感じる。
暗く冷たい圧倒的な強さをもつ何か…
目を開けなくてもわかる。
私はその何かに支配されている。
死神というやつだろうか?
目を開けてはいけない気がした。
私は頑なに目を閉じていたがそれはあっさりとこじ開けられた。
そしてそれは私の目の前にいた。
透きとおるほど白く美しい肌に青い瞳。
シルバーに光る髪の毛は肩につく長さでサラサラと輝いている。
黒いスーツに黒いマント、蛇の彫刻を施された素晴らしい杖を持ち、先の尖ったツヤツヤの黒い靴。
そして何よりも美しいのは頭に生えた二本の角。
ツノ?!
え?鬼??
私の頭では理解できなかった。
この目の前にある美しいモノがなんなのか?
「失敗か…こんなに醜いとは…」
その美しいモノは私を見つめブツブツと何か失礼なことを言っているようだ。
こんな時にもブスで悪かったね。
この美しいモノをどうやって呪ってやろうか考えようとした瞬間、私は身体に衝撃を受けた。
ギュッと握りつぶされて拡げられたような感触。
「これでよし」
美しいモノは私を見返しニヤリと笑った。
(なんて美しいんだろう)
私は私の状況がわからぬまま、その美しいモノをただただ眺めていた。
「異世界から来た者よ。私が今日からお前の主人になる。」
美しいモノは私に話しかけているようだ。
(異世界…??主人??)
「私がこの世界の最強の悪魔、その名もライハライト・モナリア・シュゲンナウザリアだ。」
(らいはらもなしゅうざ??何その長い名前)
「お主、名前はあるか?」
(名前…私の名前…)
不思議な感覚だった。
私の名前…
私には名前があったはずなのに思い出せない。
(名前…なんだっけ…)
ぼんやり考えながら私は自分の手を見た。
(なにこれ、こんな白く細い腕なんて知らない)
「これは誰?私は何??」
美しいモノはパニックになってる私を見て冷酷に笑った。
「お前が醜かったので私好みの姿に変えさせてもらった。」
(なるほど…ブスだったから…)
「名前がないのか?うーん、ではこうしよう。お前は今日からシアと名乗れ。」
「シア…?」
(幸せのシア?すてきじゃないか)
「お前は私のためにこの世界に召喚された。
念の強い禍々しいものを召喚したらお前がやって来た。
私のために働くのだ。シアよ。
今日からよろしくな。」
(ちょっと待って!これって異世界転生とか世間で流行ってるアレ???
え?この人さっき自分のこと悪魔って言ってなかった??
悪魔って悪役じゃないの?こういうのって王様とか勇者とかお姫様とかそういう配役の人が出てくるんじゃないの??)
私は一生懸命理解しようとした。
理解しようとしたが自分の名前すら覚えてないこのポンコツの頭では何1つ理解できなかった。
血の気が引くのがわかった。
私はその場に倒れてしまった。
これは夢だ。
悪夢に違いない。
私はまた闇の中で目を閉じた。
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