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(「」声にしない言葉「」)

 


 感情がこもっても先輩の声質は変わらず柔らかく耳に落ちる。その声が落ち着きを取り戻そうとして、また言葉を並べていく。



「当たり前だが一人だけが一方的に語り続けていることを会話とは言わない」



 だとすると先輩とのこれも会話ではないですね。



「例えば二人の人物が交互に語っていれば、カギ括弧は連続しているが話している人物はそれぞれで別になる。カギ括弧を並べた場合に別人の発言に見えるのは、そのためだろう」



 実際、ラノベだと同じ人の発言で並ぶのはあまり見ない気もしますね。古めの小説だと普通にありますけれど。



「では片方がカギ括弧を使わず、地の文だけで応答していればどう見えるだろうか」



 変なことを言ってオープンラウンジにいた学生たちの注目を集めて恥ずかしくなった顔はいまは隠されていますね。

 でも、こちらに手を引かれて隣を歩く先輩の頭はまだ見えていると思いますよ。



「残念だが必ずしも一人だけが語っているとは分かりにくい場合もある。だがこうして私だけが滔々と語る光景がいつもの光景である、という前提が提示されるだけで私が一人語りをしていることが明瞭になる」



 先輩が変人だというのを明瞭にする前提ですね。



「可能ならば語り出す前振りとして、地の文で説明させるのが伝わりやすいだろう。例えばキミは、敬愛して止まない先輩が語る言葉を遮るなんて有り得ないという崇拝にも近い思いを抱いて沈黙を保とうと耳を傾けることにした」



 呆れて声も出ませんよ。

 こっちまで恥ずかしくなるからやめてください。



「そんな一文が地の文に記されているだけで、そのあとに続く語りが私だけの言葉だと限定できる。そして同じように地の文を使うことでそれを止めることもできるだろう。例えば、抑えきれない先輩への想いが無意識のうちに口を開かせていた、と地の文に記せば、次の発言がキミの言葉だと明瞭になる」



 ようやく自爆した恥ずかしさから回復した先輩がこちらへと視線を向けて、また赤くなった顔を逸らした。

 うつるからあんまり照れないでください。




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