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(「」思考や視覚「」)

 


「そもそも他者が長尺で一人語りをする実例はあるのだろうか。一方的に誰かが語るのを沈黙して聞き続けるような状況だ」



 回答や謝意を待ちきれなかった薄桃色の唇から、また言葉が溢れてくる。



「今の私たちの状況だといわなくていい。それは私も理解している。私たちであればこうして過ごすときが一番身近な実例になるだろうが、例えば誰にでもにも共感できるような、もっと一般的なものと言われて何が思いつく?」



 そう問われても日常に近いものほど思いつきやすいのか、滔々と語る先輩の姿ばかりが脳裏によぎる。



「例えば小学生の頃に学校集会で行われた校長や教頭の長話。あるいはここの教授たちが行う講義など。そういうものが一人語りの実例としては、割とイメージとして共有しやすいんじゃないだろうか?」



 なるほど、先輩の一人語りに感じる懐かしい感覚はそのせいか。



「それを踏まえて考えてみればわかるだろう。如何に有用であろうと、仮に名言であっても、ただただ一方的に流されているものは聞き流してしまう。同じように、長尺で一人語りを一気に書いた場合には読み飛ばされてしまう可能性がある」



 先輩の一人語りが午睡のような微睡みを誘うのは、声質からくる安らぎのせいだと思っていました。



「長話は聞いて貰うため、読んで貰うためのものだ。そのために話者は工夫する。緩急や抑揚、イントネーション、強さ弱さ。咳払いで注意を引いたり、名指しで注目させたり」



 そんな文章にしたら表れないことを語る声を耳に、だんだんとまぶたが落ちてくる。

 なるほど。語るうちにそれがなくなるから眠気を誘うのは必然なんですね。



「もちろん文章ではそれらは難しい。エクスクラメーションマークの濫用や、3点リーダーあるいはスペースの多用。そういう視覚的な影響を加味する方法もある。だが例えば緩急のように、言葉の文字数で表せる部分もあると思う。例えば多めの言葉を並べたカギ括弧の次のカギ括弧を短い言葉にすることで、前の方を読み返させる方法だ。いまこうして言葉を置かずに並べているのが長めのカギ括弧に該当するわけだな。そうなると言葉を置いた後の発言が短いカギ括弧になるように端的に伝える必要があるわけだ。わざわざこういう説明を行っているのだが既にキミの瞼が閉じつつあるのはもしかしたら既に言葉が流れているのかもしれない。だとするなら、少しばかり刺激的な言葉を選んで驚かせてみるのもありか。そうだな、少女漫画や乙女小説などであるようなシーンを試すのがわかりやすい反応が出るんじゃないだろうかと思う。聞いていないなキミ。それでは実際に言葉にした際の反応が確認しやすくなるように、また語りの長さの差をつけるためにいったん言葉を置いて少し間を開けよう」



 微睡みに視界が閉じて薄桃色の唇は見えなくなった。耳に落ちる言葉が少し止まったけれど、どうせすぐにまた溢れ出るだろう。これまでの経験からもそう長く先輩は黙ったままでいることはないのだから。

 言葉を待ちながら、もうこのまま寝てしまおうか。



「キスで黙らせてよ」



 びっくりして目が開いた。




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