(「末と頭を━で繋ぐ」)
「もちろん読み飛ばされないこと、聞き流されないことを前提として、言葉は紡がれている。だが一言一句を逃せないほど情報が詰まってしまうと、わずかに意識が逸れただけでついてこれなくなる。
退屈な授業として実例を━━━━」
言葉を詰まらせた先輩の視線を辿ると、次のコマのために移動中らしき教授の姿があった。
クリーニングとは無縁そうなスーツの上では、理髪店が匙を投げそうな頭部がこちらを向いている。
二人して会釈すると、会釈を返すことなく顔を背けて去っていった。
「━━━授業の実例よりも小説の実例で考えてみよう。重要情報を長尺で語るシーンは実はそんなに珍しいものではない。
例えば殺人━━━」
こちらに語りかける先輩の言葉が、また詰まった。
視線を辿り振り返ると、驚いたような顔のカップル。昼飯の時間が終わって次の授業のために移動する人が増えてきたようだ。
「━━殺人犯が告解するシーンがわかりやすいだろう。
何故殺したのか、どんな因縁があったのか、どうやって殺したのか、アリバイの誤魔化し方や、証拠の隠滅方法、協力者がいる場合にはその関係性やどんな風に関わっていたか、さらにはそれぞれのシーンにおいてどんな感情や思いを抱いたか、などなど語ることは多くあるが━━━━」
カップルが逃げ去っていく。
突発的に意味不明な言葉を止まることなく溢れさせる先輩は、不慣れな人には殺人犯ほどではなくても理解が困難な変人だ。
「━━━多くを語る途中で観衆が詰ったり、探偵が問いかけたりするため、長尺一人語りの形にはなっていないことも多い。
だがその発言は推理小説の要約と言えるほどの重要情報が詰まっている。そこを読まないという読者がいないわけでもないが━━━━」
通り過ぎる人に盗み見られる度に、ほんの少しだけ先輩の言葉は止まる。そのときはいつも、先輩に握られた右手が少しだけ引き寄せられるような感覚がする。
不器用に甘えているような、頼られているような感じだ。
「━━━━重要情報でない言葉でさえ、漏らさず受け止めてもらえることが嬉しいのは、書き手も語り手も同じだと思うんだ」
そういうとき先輩は稀に、それ以上に甘えるような頼るようなことを口からこぼして、ちょっとだけ口を閉ざす。




