(「」地の文を挟む「」)
新作投稿開始。
「一人称の小説では情報を得る手段は限定される。また、その大部分は地の文という主観の言葉に置き換えられてしまう。しかも往々にして一面的なものだ」
食事を終えた学内のオープンラウンジで一息ついていたら、とても挨拶とは言えない言葉が突然背後から飛んできた。
「対して発言には差異が現れる。性別、年齢、立場、性格や思想など差異の要因は様々だ。しかしそれさえも主観による観測がなければ存在すらできない。主観という地の文による観測情報がなければ、つらつらと語らせたところでそれがどんな人物なのか判断することもできない。もちろん話者が自己紹介を行っていれば別だろうが、発話の度に毎回のように自己紹介をする人間を目にしたことは私にはない。たぶん大部分の人もそうだと思う」
声に振り返れば、眼前へと突き出された指先に目が寄ってしまう。開かれた細長い指先を彩るのは、青と白で彩られた空とも海ともつかないネイルだ。
「そして話者が全てを言葉として語る事は稀だ。だがもし語らせるなら? ひとまとめの長尺でも読まれるか? ならばカギ括弧の連続はどうか? いっそどちらも避ける工夫はないか?」
並べられた問いへの回答を待つことなく言葉が続く。
「その思考実験を見かけたので少しばかり考えてみたのだが、論より証拠とも言うのでまずは一つ具体的な手法をまず提示しよう」
眼前に翳された手のひらが、ゆっくりと閉じていく。人差し指を立てた手が誰の物なのか、予想はできたが顔はまだ見えない。
毎日深夜1時投稿です。




