9話 一家団らん
「ダンジョンは次の日曜日に行くぞ。
当日は君の家に迎えに行くからしっかり休んで英気を養っておいてくれ」
「はい! 今日からトレーニングをします! なまった体を鍛え――」
冒険者として当然のことだ。僕は誇らしげに言う。
しかし……
「なにバカなこと言っているんだ!」
大声を出すアスカさん。
「えぇ!?」
「トレーニングなんて絶対ダメだ! もし、なにかの間違えでレベルアップでもしてしまったらどうするんだ! 精霊のダンジョンのボスを倒せないだろ!」
「……ああ……そっか」
精霊のダンジョンのボスは僕のレベルの10倍になるんだった……
「レベル0の君じゃないとダメなんだ! 弱いままの君でいてくれ!」
「はい……」
……仕方ないことだが失礼な人だな。やっぱり白野サクラに推しを戻そうかな……
◇
帰りはまた高級車で家まで送ってもらう。
行きと違い、世界を世界を救う英雄として堂々と乗れた。
「ふふふ、この車、サスペンションがいいですねぇ」
僕の言葉は全無視の黒スーツであった。
家に着くと突然の息子の冒険者デビュー、それも政府直々の依頼ということで両親は慌てていた。
僕の隠された能力がダンジョンクリアに必要だから協力をしてほしいと政府の人間が伝えたようだ。
心配する両親。
「大丈夫だよ。強いギルドと一緒に行くんだから」
「心配ね……」。
フンッ、報酬に目がくらんで息子をダンジョンに送り込むくせに何言ってるんだ。
「でも……オタフクがダンジョンに行けるって聞いて、お母さん嬉しかったわ」
「え?」
そう言った母さんに僕は驚いた。冒険者は嫌いなのかと思ってが……
「冒険者は小さい頃からのオタフクの夢だったからね。
レベルを強く産んであげられなくでごめんなさいね……」
涙ぐむ母親を見て、僕も目頭が熱くなった。
「な、なに言ってるんだよ! 別にレベル0は父さんと母さんのせいじゃないだろ。
ったく、なに泣いてるんだよ! 風呂入ってくる」
僕は恥ずかしくなり風呂場に逃げ込む。
レベル0を両親はのせいにして険悪な関係になってしまっていた自分が情けなくなる。
「ごめんね……母さん……これからは親孝行するよ」
風呂を出てリビングに戻るとちょっとしたパーティーのようなごちそうが並んでいた。
「オタフクが冒険者になれるって聞いたから、お祝いにごちそう作っちゃったわ」
料理を運ぶ母。こんなごちそうは小さい頃の誕生日以来だ。
「もう……気が早いよ。母さん……」
まったく、僕のことでこんなに喜んでくれるなんて……
こんな暖かい両親のもとに生まれ、恵まれた幸せにずっと気づいていなかったようだ。
「案外、幸せの中にいると……幸せに気づかないもんなのかな……」
僕はつい恥ずかしいことを口走る。
「え? なんか言ったオタフク?」
「フフッ、なんでもないよ」
いけない いけない、浮かれてポエマーになってしまった。
「すっかりオタフクは大人になったみたいだなぁ」
父親も感慨深い表情だ。
「なにいってるんだ父さん。さあ、ご飯にしようか……
あっ、そういえば……ミュージック〇テーションは録画しておいてくれたよね?」
「あ……」
青ざめる母親。
「え……?」
「ご、ごめんなさい……忘れてたわ……」
恐怖に震える母さん。
「……嘘だろ」
今日は気になるアイドルが初登場の回だ。
僕は立ち上がり、怒鳴り散らす。
「ふ、ふざけんなーーッ!! ババアッーー!!」
「ひぃぃいい!」
オタクはキレると手が付けられないのだ。
木本オタフク18歳。反抗期はまだまだ終わらない。




