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8話 個人情報

「さっそく、同意書に目を通してサインを頼むよ」

 アスカさんがテーブルに同意書を広げる。準備がいいな……


 内容は死んでも文句を言いません、的な内容だ。

 死んでしまったら文句はもちろんあるが仕方なくサインをする。


「ありがとう。木本オタフク……良い名前だな」


「……そうですかね?」

 出来ればもっと普通の名前が良かったが。


「身辺調査をしている時、君がクラスメイトからキモオタと呼ばれているのを知ってな、今どきの若者の残酷さに涙したが、ただのあだ名で安心したよ」


「なかなかハードなあだ名ですけどね……」

 アスカさん、コッチはあなたの知らないような暗い学園生活を送ってるんですよ。


「そんなことまで調べられてるんですね? ……個人情報筒抜けじゃないですか」


「ふふ、木本君、この情報化の社会じゃ個人情報は全て丸見えなのだよ」


「そういえばアスカさんは苗字はなんていうんですか? 苗字は公表されてないですよね?」

 

「……そ、それは個人情報だからな、教えられんよ」

 アスカさんは僕から目を背ける。


「……」

 そうだよな……こんなストーカー気質のある男には教えられませんよね。


 ◇


 書類やら冒険者としての手続きを終える。


「あと、ダンジョン冒険用の武器や防具を用意するから体の採寸をさせてもらうよ」


「おおっ! 武器に防具!」


「今回行く精霊のダンジョンではいきなりボス戦だからな。

 君の10倍のレベル……つまりレベル0のボスというのがどんなモンスターなのか見当もつかないが念のため用意しておこう」


 いいな! 冒険者らしくなってきたぞ! 政府から武器をもらえるなんて。


「じゃあさっそく服を脱いでくれるか?」


「え? ここでですか?」


「当り前じゃないか。いま測って、すぐに防具を用意しないとダメだろ?」

 メジャーを持つアスカさん。


「まさか……アスカさんが測ってくれるんですか?」


「ん? なにか問題あるか?

「いえ……大歓迎です」

 嬉しいような恥ずかしいような。

 憧れのこんな美人の前で裸を晒すなんて……


「で、では……」

 僕は服の脱ぎ捨てる。合法的に美女の前で素っ裸になるなんて……クセになりそうだ……


「し、失礼します」

 パンツに手をかける。


「あー! パンツは脱がなくていい!」

 慌てるアスカさん。


「あっ、いいんですか?」

 どこかガッガリした気持ちになる。


「服だけで十分だ! そんなところ測るわけないだろ!」

 顔を真っ赤にするアスカさん。可愛い……


 アスカさんが僕の体の部位を測定する。


「ウエストが……ひゃ、115!?!? センチ……っと。なんというか……私が言う事じゃないんだが……。

 もう少し瘦せたほうがいいのではないか? 健康面で心配になるよ……」

 アスカさんは豚を見るような目で僕を憐れむ。


「……わ、わかってますよ」

 くそ! アスカさんに裸を晒すと分かっていたら、ダイエットを頑張れていただろうに。


「すみません……今度までには抱かれたい体になっておきます……。」


「な、なに馬鹿な事いっているんだ!」

 再び赤面するアスカさん。意外と初心な一面にキュンとする。

 もしかして……あまり男との付き合いがないのだろうか?


「じゃあ最後に太ももを測るぞ。ここがぴったり合ってないと動きづらいんだ」


「ふ、太もも!」

 仁王立ちの僕の正面にアスカさんがしゃがみ込む。

 チェリーボーイには過激なシチュエーションだ。


「ほう、しっかりした太ももだ! 剣道をやっていたらしいがそのおかげか? カチカチだぞ」

 ……はい、カチカチです……。


 嬉しそうに僕の太ももも測るアスカさん。

 やはり冒険者だけあって強い男が好きなのだろうか?


 計測を終え、(カチカチがバレないように)そそくさと服を着る。


「今は贅肉で醜い体だけど……」

 アスカさんが僕の体を見てなにかを言う。


「醜いって……」


「なかなか鍛えられてる良い体だ。冒険者を夢みて鍛えていた甲斐があったな」


「……そんな情報も筒抜けですか」


「君の初めてのダンジョン、しっかりサポートさせてもらうからな」

 アスカさんが僕の目を真っすぐ見て言った。


「はい。お願いします!」


 こんなに頼りになるサポートはいないだろう。

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