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その7

 夜のパーティーにはぎりぎり間に合った。

 キースは既に空いた時間に着替えを城に持ってきていたらしく……いや、アデルが勝手に用意したっていう可能性の方が高いか……黒は黒でもサテン地で銀の縁取りの入った美々しい装いだ。

 ジェイは騎士団の礼装だ。青の軍服に金の飾り太刀。普段の軟派ぶりからは想像できないナイト姿だ。

 聖職者特権ってのも変だけど、免除されるかと思っていたクリスも最初の挨拶だけ顔を出した。純白のローブ姿は飾りがないけれども、穢れなく美しい。

 もうね、三人が並んでいると、女性なら誰でも目を奪われずにはいられないだろう。正直、彼らを見慣れているわたしだって、控え室に入って彼ら三人を見た時は、あまりの美々しさに絶句してしまった。

 わたしは濃赤のイブニングドレスだ。

 正直に言おう。旅に出ている間に、わたしは体型が若干変わってしまった。

 脂肪が落ちたせいで、一回り身体が細くなったけれど、肩周り腕周りが非常に発達してしまった。日にも焼けた。髪の毛もかなりのダメージを受けている。父譲りの赤毛は見る影もなくぱさぱさだ。

「お任せください。肌も髪も女の命。わたしが何とでもしてみせますわっ」

 とマリーががんばってくれたかいあって、ドレスアップしても見苦しくないようには取り繕ったけれど、いかんせん日に焼けた肌はドレスの色や形を選んだ。

「淡い色のプリンセスラインのドレスは合いませんわね。ちょっと大人なイメージで作ったドレスがありますけれど、そちらにしましょう。お胸がなくなっていないのが幸いですわね」

 と、赤面ものの台詞を口にしながらマリーが出してきたのが、この濃赤色のスレンダーラインのドレスだ。ちょうどいいことに友布で長手袋もあったので、傷痕も隠れる。いや、わたしは別に気にしていないんだけど、ゲストがやっぱり気にするだろうから。

 わたしは赤毛なこともあって、この色は意識的に避けてきたのだけれど、鏡で見る限り案外いい。

「やればできるじゃねーか」

「……女は怖いな」

「ああ、良かった。隠れてますね、痕」

「……レティももう年頃なんだなぁ」

 ちなみに、この姿を見たジェイ、キース、クリス、父さまの感想だ。

「レティ、すごく綺麗」

 こういう風にちゃんと言ってくれるのは十二歳のユーリだけって、どういうことですか。

 そんなユーリも純白の衣装で王子の冠を頂くと、天使のようだ。いや、去年までは天使のような子どもだった。今年は、小さいけれど、そろそろ紳士になりつつある。

 ……これはもうそろそろ、年頃の娘をもった貴族たちがうるさくなりそうだ。


 パーティーが始まると、わたしと父さまは来賓の方々への挨拶に追われた。

 有力貴族の方々や、大商人、わたしが旅に出ている間、何かと援助してくれていた地方の有力者。

 こういう場合、王妃が不在なので、わたしは王妃代行的な役割も担う。

 つまり、女性ゲストたちのお相手だ。基本は父さま、ユーリが貴族、商人と挨拶している間、横でその奥方さまと挨拶をする。

 昨日旅から帰ってきたばかりで、今日は朝から働きづめ。最後にこれなので、正直ダンスタイムになった時はほっとした。

 夜遅いという理由で、ユーリはここで上がり。わたしもジェイ、キースと踊ったら上がっていいということになっていた。クリスは既に上がっている。


「お前さ、キースとなんかあった?」

 二曲踊れば終わり、と浮かれていたんだけれど、ジェイにこうささやかれてびっくりした。とたんに、夕方のことを思い出して赤くなる。

「別に何もないよ」

 嘘ではない。本当に何もない。確かに意識しちゃってるのは事実だけれど。

「ふーん? 赤くなってるけど? てか、俺と踊ってる時に他の男のことで赤くなるなよ」

 ナニを言い出すのだ。びっくりして斜め上の端整な顔を見上げる。若干面白がってそうな顔をジェイはしていた。

「明日の新聞の一面に書かれるだろ。『騎士と頬を染めて踊るレティシア姫』って。事実ならともかくさー、その実キースのこと話してて赤面とか、俺道化じゃん」

「いや、ほんとに別に何もないから。たださ……」

 夕方の話を手早く話す。隠す話でもないし。

「……で、なんか恥ずかしくなっちゃって。ほら、他人のそんな濃厚なラブシーンなんてナマで見たことないし」

「っくっく、うぶだねぇ」

 笑うな。思い切り足を踏んでやろうとする。が、運動神経に秀でたジェイはひょいっとわたしの足をかわして、逆にステップの難度を上げて一気にダンスのレベルを引き上げた。くそ、ついていってやる!

「ま、そんなのあいつ本人はもう気にもしてないだろうから、お前も気にするのやめてやれよ。あいつにとっちゃ女に言い寄られるの、日常茶飯事だし。多分、俺以上に」

「何、キースはジェイ以上にモテるの?」

「寝言言うなよ。モテるのは、俺。……まぁ、あいつの場合、モテるっていうか、えげつない女が寄ってくるっていうか。子種ください、みたいな」

 ……はっ???

「ほら、魔力は遺伝するらしいじゃん? 惚れた結果で『あなたの子が欲しい』とかならねぇ、アレだけれど。ま、あいつはそんなの相手にしないけどさ。それでも実力行使に出る女は結構いるみたいだから。寝込みを襲うとか」

 こ、怖ぇぇ。

「ま、あとは本人に聞いたら?」

 ダンスが終わった。ジェイはわたしに一礼して、手の甲に口づける。

 聞けるか! 

 と、ジェイを睨んでいると、噂の当人キースがやってきた。


「踊っていただけますか? 親の敵みたいに踊ってたけど、俺はあんなダンスは無理だから、お手柔らかに頼むよ」

「あ、うん」

 実際、ジェイに引きずられてすごく激しいステップで踊っていたので、少々息も乱れている。これは多少顔が赤くても目立たないだろう。……そこまで計算していたとしたら、ジェイ、やるな。

 キースのリードは柔らかく、わたしはゆっくりと息を整えることが出来た。

「……俺は別に気にしてないから。お前も気にするな」

 斜め上のキースの顔は、普段の彼の表情。わたしははふっとため息をついた。

「……さっきジェイにも言われたんだけど。わたしはそんなに分かりやすいのかなぁ」

「ま、ね」

「ジェイは、キースがああいうの慣れてるって」

「……なんてこと言うんだよ、あいつ」

 無表情だったキースの表情が苦虫を噛み潰したかのようにゆがんだ。思わず笑ってしまう。

「笑い事じゃないんだぞ、マジで。夜中に裸の女が訪ねてくるとか、家に帰ったらベッドに知らない女が寝てるとか。自分の私兵に俺を拉致させようとした馬鹿な貴族の女もいたし」

 そ、それは聞き捨てならない。犯罪じゃないか。……いや、みんな犯罪だけど。

「流石に屈強な男どもに押さえつけられて女に強姦されるなんてごめんなんで、軽くシメさせてもらったけど」

「そ、壮絶な生活をしてるんだね」

 どう「シメ」たのかは聞きたくもない。

「旅に出てた方が気楽だったよ。女はレティしかいなかったし。レティは俺にそんなことはしないしね」

 キースは苦笑した。

 しないしない。絶対しない。

 そりゃ、キースは美貌だ。恥ずかしながら白状すると、見とれることはたまにあった。でも、「よし襲ってやろう」とか、そんなん絶対思わない。

「だから気にするな。年増にキスされるのなんて、事故みたいなもんだ」

 すごい台詞だ。でもわたしだったらやだなぁ。おっさんに無理やりキスされたら「事故だ」みたいに割り切れないよ。

 それとも、ベロニカが美人だったからか? びっくりはしたけど「役得」くらいな気持ちなのかしら。キースだって男だし……。

「……なんかくだらないこと考えてるだろ、レティ」

 キースが何かを言いかけたけど、ちょうど曲が終わってしまった。


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