その6
シスターミリアムに鍵を返して、外に出た。
外の空気がすごく美味しい気がして、何度も深呼吸をしてしまう。
「お、ま、え、なー」
「……あ、やっぱり気づいた?」
「馬鹿にしてんのか、お前は」
弟子と師匠がけんかを始める。いや、弟子が突っかかっていってる。
「あの女に言い寄られるのが嫌だからって、俺をスケープゴートにするな」
「はっはっは、ごめんごめん」
「ごめんじゃないだろ、あー気色悪っ」
はい?
「いやぁ、一人で来たらベロニカは喜ぶだけだし。あの女にプレッシャーかけるには、レティを連れて来たかったんですよ。だけど、ベロニカは若くて美しい女性に対抗意識を持っていてね、レティが一緒だと、あの女は対抗してレティの目の前でわたしにああいうことをしようとするだろう。そんなことしてたら、証拠を探す暇がなくなっちゃうからねぇ」
じゃ、キースを連れてきたのは、わたしの護衛云々よりも。
「ベロニカがキースの色香にぼーっとしてる間に、証拠を探そうって思ってたってこと?」
「そうそう。この弟子もわたしには負けますが、それなりに見目いいですからね。……じゃーん」
効果音を口に出して、アデルが取り出したのは、血のついた白いハンカチだった。見るからに高級品。縁にVの刺繍がある。
「ベロニカの?」
「そう。本が置いてあったチェストの一番上の引き出しにありました。ちょっと血を吐いたようです」
だが、とアデルが眉をひそめる。
「これくらいで済むとは思えないんだが……」
「思っていたほどダメージを受けていないってこと? じゃぁ、『破壊するもの』を呼び出したのはベロニカではないの?」
難しい顔をして、アデルは黙ってしまった。
結局、証拠はつかめず、ってことなのか。
はぁぁ、とキースが盛大にため息をつく。
「ため息をつくな」
師匠が弟子をどつく。
「分からんが、時間だ。わたしは出かける。キース、レティを頼むよ」
「言われるまでもない」
アデルはキースに肩をすくめてみせ、わたしの手を取った。触るな、とまたキースが師匠をどつく。
「今日は忙しいのにお付き合いくださってありがとうございました」
「あ、ううん。残念だったけど、これが最後のチャンスじゃないし。帰ってきたら、儀式魔法で証拠をつかめるよ。アデル、気をつけて行って来てね。ルイ王子によろしく」
「朝の礼、その後の大臣たちとの会議、夜のパーティーと、忙しいスケジュールを組んでしまいましたが、レティもほどほどに手を抜いてくださいね」
最後ににこりと手を振って、アデルの姿はぼやけて消えた。