その29 ☆流血表現があります
流血表現があります。苦手な方はご注意ください。
「すっきりしたなぁ」
土ぼこりの中、デリク/『破壊するもの』は嗤う。
辺りには、エリスの姿も、相棒のはずのベロニカの姿すらない。
もちろん、門番も、侍女も、私兵も、みんな瓦礫の下だ。
――こいつ。もう人間じゃない。
わたしとジェイは剣を構えた。
クリスとユーリは一歩後ろに下がる。
キースはまばゆい光球を頭上に放り投げた。月明かりとこの光で、視界は確保される。
「さぁ、始めようじゃないか」
「……thunder storm」
「――はぁっ!!」
雷光の中、ジェイとわたしは走る!
以前の『破壊するもの』との違いは硬さと人間離れしたスピードだ。
ジェイとわたしはフェイントを入れつつ、交互にデリク/『破壊するもの』を攻撃する。魔力を帯びている剣は、硬いとはいえ徐々に奴の黒い肌に傷を作り始める。
その代償ももちろんある。わたしたちは無傷ではない。
「……ぐぅ」
わたしは奴の尻尾に引っ掛けられ、瓦礫に吹っ飛んだ。受身を取りそこね、まともに背中から地面に落ちる。
息を吸えないわたしにかまわず、鉤爪と黒い光が襲う! キースがわたしの前に立ちふさがった!
呪文を唱える間さえなく、ただ自身の魔力で黒い光を押さえ込む!
ばちばちと激しい火花が散り。
「はぁぁっ!」
わざと声を上げながらジェイが奴のわき腹の傷に剣を突き立てる!
深く刺さった剣が抜けない!
キースに向かっていた鉤爪だったが、ジェイに向かう。
「……fire ball」
黒い光と火球は衝突して爆発する! キースは膝から崩れ落ちた。
わたしは跳ね起きて剣でジェイをかばうが。
「っく!」
受け流しに失敗し、鉤爪はわたしの左肩を切り裂いた! 更に至近距離で黒い光の第二波を喰らう!
「レティ!!」
血が噴出し、一瞬目の前が暗くなる。胃液が喉を焼いた。
「レティ!」
ジェイは剣を抜き取る!
と同時に、ジェイの剣が眩い白光に包まれた!
クリスか?!
ジェイは今抜き取ったばかりの奴の傷に、もう一度発光する剣を突き立て、ひねり上げる!
熱いナイフがバターを切るように、デリク/『破壊するもの』のわき腹をえぐる!
デリク/『破壊するもの』の体液が、瘴気が、熱い雨のようにわたしたちに降り注いだ!
「レティ!!!」
ジェイが叫ぶ。
わたしは、右手の剣を地面に突き立てる。
左腕を抱え込み、わたしはデリク/『破壊するもの』を見据えた。
「……わたしの血と名において命ずる」
わたしの左肩……正確には、奴の体液とわたしの血が光りだす。
「……浄化せよ!」
光の渦が奴めがけてまっすぐに飛んでゆく。
あたり一面が圧倒的な光に覆われる。激しい高揚感と凄まじい消耗にめまいがする!
「……く、く」
――デリク?!
「くく、くっくっく」
「ぐ、ぐあああああっ!!!」
白光している視界の中、高笑いしているデリク/『破壊するもの』と……やつの鉤爪に貫かれている……ジェイ?! なぜ?!
「……ぬるい、ぬるいぜ、レティシア!『破壊するもの』はそれじゃ倒せないって、学ばなかったのか?!」
「……ぐぅはぅっ!」
鉤爪がひねられる!
「…………っ!!」
気を高める! 今、デリク/『破壊するもの』を倒さなければ、ジェイがやられる!
ダメだ! このままジェイを失うなんて、絶対にダメだ!
「くっくっく、はっはっはっはぁ!!」
「……thunder storm」
「……聖なる光よ!」
――魔法はデリクの前で霧散する。
デリクが嗤う。鉤爪を振るう。
キースのローブが切り裂かれ、クリスの詠唱が途切れる。
更に気を高める!
耐え切れずに片膝を付き、白い光の中、しかしわたしはデリク/『破壊するもの』睨みつける。
――ダメだ。わたしの武器、この『浄化』でも奴は倒れない。
どうしたらいい?!
「どうしろっていうのよっ!!」
喉も裂けよと叫んだわたしの目の前に。
――白銀の答えが唐突に現れた。