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その2

「レティ!!」

 通用口から、小柄で細身の影が飛び出してきた。明るく金髪が光っている。

「ユーリ!!」

 通用門で馬を預けたわたしたちは、当然徒歩。自分の荷物を持っていたので、わたしは小柄とはいえ十二歳の少年に飛びつかれて尻餅をついてしまった。

「ご、ごめん、レティ」

「いいのいいの。やー、大きくなったわね」

 荷物を放り出し、離れようとしたユーリをぎゅっと抱きしめる。

「離してよ、レティ……」

「えへへへへ」

 流石に大人気ないので恥ずかしがっているユーリを開放してあげる。飛びついてきたのは彼のほうだけど、そんなことを思春期の男の子に言うつもりはない。

「あらー。ほんとに大きくなったのね」

 わたしが落としたリュックサックはユーリが拾って渡してくれた。

 結構重たいはずなんだけど、こんなのもひょいっと持てるようになったのね。

「レティが出発してから、十センチも伸びたからね。もうすぐ追いつくよ」

「やだわ、生意気―」

 立ってみると既にユーリの身長はわたしの顎を超えていた。それになんだか顔つきもただ可愛らしいだけではなくなってきているような。

「お帰り、レティ」

「ご無事で何よりです」

「父さま! アデル!」

 ユーリにやや遅れて、通用口に優しい目をした父さまと相変わらず年齢不詳の見た目だけなら文句なし美青年アデルハートが現れた。もう夜遅い時間だからか、父さまもアデルも既に平服だった。懐かしい、国王以前の時のようだ。

 その後ろにはこんな時間でも正装の騎士団長カール卿と、グスタフ最高司祭が控えている。二人とも普段はむっつりとしているのに、今晩はなんだか柔らかい顔をしている。ちょっとじんっとくるなぁ。


 国王以前。

 父はもともとは地方領主の一人にすぎなかった。

 若くして領地を継いだ父は、継承の挨拶にクィンバート城に出向き、王女であった母レナと出会い恋に落ちた。

 大反対にあったらしいが、最後には母の兄であり当時の世継ぎであったレオン王子に味方してもらって、母と結婚することが出来たのだそうだ。

 三年前。王位を継ぎ、在位七年でレオン王は崩御した。

 避暑に行った別邸から火が出たのだ。国王夫妻は焼死した。一人息子のユーリを残して。


 ユーリ。わたしの従兄弟。

 彼を王位に、という意見も多数あったと聞くが、当時彼はまだ九歳の子どもだった。

 国王夫妻に他に子どもはなかったし、わたしの母も既に亡くなっていたので、直近の王位継承権を持つものはユーリと、もう一人、別邸に火を点けたのではと疑われていた人物、レオン王の父親、ゲオルグ王の弟ナロウ伯爵の息子、デリクしかいなかった……。

「じゃぁ、もうミハエルどのにお願いしましょう」

 言い出したのはアデルだったと言う。もう口調まで想像できちゃうよ。絶対、議論がめんどくさくなったんだ。

「ミハエルどのはレナ王女の夫君です。領地をきちんと治めてらっしゃるどころか、近年の発展には目を見張るものがあります。その手腕を国政に活かしてもらいましょう」

 父は固辞したらしい。

「王家の血を引いていないって……ミハエル、あなたも貴族なんですから、心配しなくても一滴くらいは混じってますよ。なんなら、系図に細工をしましょうか?」

 ……むちゃくちゃだなぁ。

「ユリウス王子が成人するまででいいんですよ。このまま国王がいない状態でいいわけが無いでしょう。国が荒れますよ。いいんですか?」

 ……最後は脅しだったらしい。結局は父も折れた。

 ユリウス王子が成人するまで。それまでは国政を取る。

 ユリウス王子が成人したら、彼に王位についてもらい、わたしたちは領地レーヴェンに戻る。

 ただし、国王は継がない。国王代行をするだけ。

 わたしたちは領地の城を信頼できる者に任せて、三年前にこの首都にやってきたのだ……。


 三年前って言っても、その内一年はわたしは放浪していた訳で。

 なんだかいろいろあったんだなぁ。頭を振って、散ってた気を戻す。

 ちょっと迷ったけど、なんだか偉い人たちがいるので、わたしは片膝を折って礼をした。

「ただいま戻りました。無事、『破壊するもの』は倒しました」

「おかえり、レティ、そんなの後でいいから。早く入りなさい。みんなもご苦労だったね。部屋は用意してあるから、今日は泊まっていきなさい」

「あ、入るのはちょっと待ってください。先に礼拝堂の方へ回ってください。一応、残っている魔を祓いましょう」

 にこりとアデルがさえぎった。銀髪が月光を照り返す。

 父さまはあからさまなため息をついた。

「後でじゃ駄目なのか?」

「後でじゃ意味なさないでしょ。さ、レティ。ああ、ジェイ、クリス、キースも荷物を持って。グスタフ様、よろしくお願いします」

「じゃ、レティ。礼拝堂から戻ったら、今日はもう部屋で休みなさい」

 一同、苦笑いで銀髪の宰相と丸々とした最高司祭に付き従った。なんだか父さまもユーリもしょぼんとしてるように見えたので、軽く手を振って安心してもらう。

「あのー、宰相閣下」

 月光の中を歩きながら、我々が気にしていたことを代表するかのように、ジェイが言った。

「俺たち腹へってるんですけど」

「祓ってる間に何か食べても大丈夫ですかね、グスタフ様」

「まぁ、時間がかかるからねぇ。食べててもかまわんが、教会は清貧を旨としているからな。パンとスープくらいしか出せんが」

「酒も女もナシってことっすよね。あーあ」

 ジェイが天を仰いだ。女云々はともかく、わたしも同じ気分でがっくりする

 アデルは肩を落としたわたしを振り返って、周りに聞こえないようにささやいた。

「後で部屋で」

 横目でアデルを見ると、彼がゆっくりと片目をつぶるところだった。

 顔が赤くなるのがバレないように、わたしはグスタフ様の背中を睨みつけて歩いた。



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