その23 ☆流血表現があります
流血表現があります。
苦手な方はご注意ください。
「マリー、マリー!!」
マリーは壁にもたれたまま、意識がない。呼吸と脈を確認する。特に異常はないようだ。ただ、頭を打っているかもしれない。早くクリスに診せないと。
「レティ、こっち向け」
ジェイは無理やりわたしを自分に向き直らせると、わたしの肩を押さえ、そのまま揺さぶった。
「大丈夫か? 何もされてないな?!」
何もって……。
かっと頬が熱くなる。慌ててさっきまでユーリが被っていたシーツを羽織った。
わたしのワンピースは大きく切り裂かれ、傍目には確かに「何かあった」かのように見える。
大きく一つ息を吐いた。落ち着け、わたしが落ち着かなきゃ。
「これはそんなんじゃない。今のあれは、ユーリよ。でも、どうやってか、『破壊するもの』がユーリに憑依しているの」
「ユーリ……『破壊するもの』だぁ?」
――その時。
ずぅぅうううん!!!
城が、揺れた。
ユーリ……!!
わたしは考えもせず、シーツ羽織ったまま、さっき弾かれたナイフを拾って部屋を走り出る。今のは……多分、西側の客間がある方!
「待てって」
すぐにジェイが追いついてきて、わたしに並ぶ。
角を曲がると、ドアが吹き飛び、煙が出ている部屋が見えた。遠巻きに、侍女たちが集まっている。
あれは……あの部屋は。
「くそ、キース!」
ジェイが叫んで、部屋に飛び込んだ。
わたしも一歩送れて、部屋に入り。
「……キース!!!」
部屋の中は焼け焦げ、暴風雨が通り過ぎたように惨憺たるありさま。
その部屋の中央、血の海に倒れている……ピクリとも動かないキースを見て、わたしは棒立ちになる。
「キース、キース!!」
顔の色が紙のように生白い。
キースの服の腹に大きく穴が。血が、まだだくだくとそこから流れ出ている。
血だまりが、広がる。
――目の前が、暗くなる。
彼の胸は、動かない。
――いやだ……いやだ……。
まつげも、手も、唇も。
――赤く、暗く、暗く、暗く。
「――レティ、レティ!!!」
頬に衝撃を受けて、我に返る。
「お前まで呆けるな!! キースはまだ大丈夫だ!」
――わたしは血だまりにしゃがみこんでいた。目の前に、ジェイの顔。
「クリスのところに運ぶ。まだ間に合う! レティ、しっかりしろ!!」
ジェイは、あっと言う間にわたしからシーツを引っぺがした。
ああ、こういう風に服を剥ぐんだなぁ、と、まだ呆けたようにぼんやりとして。
「……っ?!」
ジェイの上着がわたしの顔面にぶつけられた。
「な、なに……」
ジェイはシーツでキースの身体をくるむと抱えあげた。動かしたせいか、ごふり、と大きく血があふれ、あっという間にシーツは朱に染まる。
その血を見て、わたしはやっと我に返った。
ダメだ、呆けている場合じゃない!!
「それ着て先に行け。こいつ抱えては俺はあまり早くは走れない。どこにいるか知らねーが、クリスを治療室に止めておいてくれ」
「――わかった。できるだけ急いで」
やっと涙が出てきたけれど、瞬きで払う。
ごめんキース。時間を無駄にした。
クリス、頼む。礼拝堂にいてくれ。
わたしはジェイの上着を羽織って、部屋を走り出た。