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その22

 年はわたしと同じくらいだろうか。シーツをかぶっていたために乱れている柔らかそうな金髪は背に届いている。春の芽吹きを思わせるエメラルドの目と通った鼻筋は、泣き腫らしたように赤い。整った顔立ち不似合いに。

 誰かにそっくりだ。思いつく。そう、今は亡き、レオン王。もちろんレオン王のこんな姿は見たことがないけれど。レオン王はもっとばりばりのカリスマだったけれど。

 ……わたしの知らない男?

 いや、わたしは知っている……このレオン王にそっくりな男は……この優しげな子は……。

「……ユーリ?」

「レティ……レティ!!!」

 背中を冷たい汗が伝う。やっとの思いで口にした名前だったけれど、呼ばれた男は感極まったように、わたしに抱きついた。

「ユーリ? 本当にユーリ?」

「レティ……レティ……」

 成人した男はわたしよりも頭一つほども大きい。そんな男に抱きすくめられ、で、そんな大男がユーリだという事実にショックを受け、わたしは呆然とユーリをの背中をなでた。

「……どうして? どうして僕こんなことになっちゃったの? なんでこんな風に……」

 更に愕然とする。

 なんでこんなことになっているのか、ユーリ本人も分かっていない?!

「……ユーリ、ユーリ落ち着いて。ね、いつから?」

「……分からない。レティたちが帰ってきてから、なんだか服が急にきつくなり始めて……まだ最初のうちは成長期だからって思ってたけど……もうこの何日かは……今朝はもう着る服がなくて、キティに言って父上の服を……」

 唇を噛んだ。

 気付くべきだった。

 二日前、わたしを支えたユーリは、わたしとほとんど変わらない身長に思えた。

 そんなはずないのだ。

 その一週間ほど前、わたしを通用口で出迎えたユーリは、わたしの顎くらいの身長だったのに!

 一週間で十センチ以上も身長が伸びるだなんて、普通じゃない!

 ましてや今、ユーリはほとんど成人男性だ。

「ね、ユーリ、落ち着いて。クリスとキースに話してみよう? なんか急に成長するような病気かもしれないし、ひょっとしたら魔法的なものかも……ユーリ? ユーリ!」

 わたしの手の中で、ユーリの背中が硬直する。

 身内以外にこの姿を見られるのは、やはり嫌なのか……とその時。

「……だめ、レティ、離れて」

 ユーリの身体が震えだす。わたしが慌ててユーリの背中を撫でようとすると。

「レティ、離れて!」

 ユーリがわたしを突き飛ばした。

 次の瞬間!

「…………!!!」

 尋常ではない殺気を感じて、わたしは大きく飛びずさった。

「……っ?!」

 薄黄色のドレスの右半分が大きく切り裂かれる。

 ――目の前の男によって。

「……お前、ユーリじゃないな?!」

 スカートも切り裂かれたのを幸い、太ももに仕込んでいたナイフを構えた。

 緑だったはずの男の目が赤く光る。爪が異様に伸びて、魔物のよう。唇がゆがみ、長い犬歯が見え隠れする。

 ユーリの姿をしたその化け物は、くつくつと嗤った。

「……ゆりうすサ。オ前ノカワイイ従兄弟殿ダ。久シイナ、れてぃしあ」

 なんだと? 久しいなって……。まさか。

 化け物は、長い爪で自らの首を少し傷つけた。赤い血が噴出す。

「身体ヲ借リテイルダケダ。コウシタダケデ、コノ人間ハ死ヌ」

 化け物の爪は、更に喉を傷付け……。

「やめろ!!!」

 わたしは無我夢中で切り付けた。

 化け物の爪を一本折っただけで、ナイフは奴に弾き飛ばされてしまう。

「っく!」

 背後に回り、蹴りを入れる。

 足をつかまれて、ベッドに投げ飛ばされた。

 起き上がるまもなく、化け物はわたしに馬乗りになる。

 蹴上げる足を押さえつけられる。

 化け物の爪は、正確にわたしののど笛を狙っている!

 ――その時!

 ばん、とドアが開いて。

「レティ!」

「レティさま!!」

「マリー、来るな!!」

「レティさま!!」

 マリーは、わたしの危機に、化け物に向かってトレイを投げつけた。

 トレイは化け物にすら届かず。

「マリー!!」

「……っくぅ」

 化け物がうるさそうに腕を一振りすると、マリーは壁に吹っ飛んで。

「マリー、マリー!!」

 ぴくりとも動かない!

「何をしてやがるっ!」

 その隙に、ジェイは剣を抜いて化け物の背後に迫っていた!

 化け物はわたしをつかんで投げ飛ばし、ジェイに対峙する。

 受身を取ったわたしは、跳ね起きると、今にも切りつけようとしているジェイの腰にしがみついた。

「だめ! 切らないで!」

「ば、レティ離せ!」

「あれは、ユーリなの! ユーリなの!!」

「なに?!」

 もめているわたしたちを、面白そうに見て。

 にやり、と笑うと。

 化け物は……『破壊するもの』は、ぼやけて消えた。


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