その20
「ベロニカとデリクの立場から考えてみる」
キースは指を立てた。
「噂も全て事実と考える……乱暴な考え方なのは分かっている。ちょっと聞いてくれ」
何か言いかけたクリスを、キースは押しとどめた。
「三年前、ベロニカとデリクはレオン王を暗殺した」
断言する、キース。クリスは息を呑んだ。
「王位を継承したのはミハエル王、あなただった。だが、デリクたちは何を思ってレオン王を暗殺したのか。自分が王位を継ぎたかったからだ」
……あの時、レオン王暗殺の犯人と目されたが故に、王位を継げなかったデリク。
「王位を継げなかったばかりか、レオン王暗殺の首謀者として、領地に蟄居させられることになった。愛人であり相棒でもあるベロニカは尼僧院に閉じ込められている。次に奴らがやったことが、『破壊するもの』の召喚だ」
「何故?!」
思わず叫んだ。何のために?!
「自分で『破壊するもの』を退治するためだ」
「……どういうことだ?」
ジェイが首をかしげる。
「よく考えろ。『破壊するもの』を退治できるのは、十八歳以上のクィンバートの血を引く者だ。『破壊するもの』が暴れまわっていた時、この条件を満たしていたのは、デリクだけだ!」
……!!
「……自作自演をしようと?」
「デリクが首尾よく『破壊するもの』を退治できたとしたら? 前王殺しは噂でしかない。国の英雄になることが出来る。凱旋し民意を味方につければ、王位を要求することもできるだろう」
そんな……そんなことのために、『破壊するもの』を召喚したと……。
「ベロニカとデリクは待っていたんだろう。アデルとミハエル王が頭を下げにやってくるのを。『破壊するもの』を退治してくれと。……ところが」
ところが、彼らは計算違いをした……。
「王家の血を引く者で、そろそろ十八になろうという娘がいたんだ。それも、深窓の姫君ではない、領内では小物とはいえ魔物退治までしていた武芸に秀でたお姫さまだった」
そして、彼らはみごと『破壊するもの』を退治して……。
「デリクは英雄になり損ねた」
……そんなデリクが、次にとる行動……。
「――デリクが次にすることは、父さまを殺し、ユーリを殺し、わたしを……」
「……レティを殺すか、もしくは自分が王位についたら、妃として迎えるか」
……なんだと?
わたしは思わず立ち上がってしまう。
「……妃、だぁ?」
キースはため息をついた。
「悪くない縁組だろ。王家の人間同士だ。デリクはゲオルグ王の弟の息子、レティはゲオルグ王の孫。年は十歳ほど離れているが、珍しい話でもないだろう。いい話じゃないか」
「反吐が出る!」
吐き捨てたわたしだったが、ジェイとクリスは逆に興奮した。
「……ちょっと待てよ。筋通ってるじゃないか。これだよ、これ。陛下が命を狙われたのに、レティがさらわれそうになった、その状況にどんぴしゃじゃねーか」
「それに、『破壊するもの』の召喚理由が、きれいに説明がつきます!」
興奮する二人に、キースは、だが……と眉を寄せた。
「ここまでの話は、アデルがフェランツェに旅立つ前に想像していたことと同じだ」
なに?
「アデルはあの時点でこんなことまで考えていたの?」
キースは頷いた。
「ああ、そうだ。しかし、いくら筋が通ろうとこの話は証拠がなければただの空想だ。だから証拠を求めて、アデルはベロニカに会いにいったんだ。ま、無駄足だったが。だが、今の時点では……もう一人、足りない」
「もう一人?」
「……城内に、手引きした者、だね?」
黙って聞いていた父さまが、ゆっくりと言った。
キースは頷いた。
「王家、もしくは陛下、レティに個人的に恨みを持っている者か、ベロニカやデリクとつながりのある者がもう一人いるはずなんだ。それも城内に」
キースはこういって両手を挙げた。
わたしはジェイを振り返る。
「……正直、行き詰ってる。城内の人間の身元調査は一通り終わった。城内の者は、古くから勤めている者、レティたちがレーヴェンから連れてきた者がほとんどだ。身元の怪しい者はいない。調査を交友関係に広げているが、これといって……」
ジェイも両手を挙げた。
けれど。
わたしはこの話を忘れられなかった。
もう一人の、人間。
……この晩、わたしは眠れなかった。