その18
部屋に帰って、ほっと一息をつく。
部屋まで送ってもらい、今度はジェイ、キース、クリスでユーリを部屋まで送っている。わたしの部屋から出るとき、キースが目配せをしたので、おそらくここに戻ってくるつもりだろう。
わたしは汚れた服を着替えただけで、休まずに待っていた。
……なので、ノックの音がした時に、何も考えずにドアを開けて。
「キース? 入って……って」
目の前に父さまが立っていたのには、ぎょっとしてしまった。
「……キース君ではないが、入ってもいいかい?」
「……ど、どうぞ……」
テーブルについたはいいけれど、父さまはわたしから目を逸らしたままだった。
「……えーと、キースを待ってるのは、本当だけど、ジェイとクリスも一緒だから」
何故、わたしが言い訳をしないといけないんだ。腹立たしいことに、顔まで赤くなってくる。
「ああ、いや、そうか……身体はもう大丈夫なのかい?」
「あ、うん」
「無事でよかった。キース君にはお礼を言わないといけないね」
「うん……」
父さまは目を閉じてため息をついた。
「――お前が街に出たのは、わたしのせいだろう? お前に相談なくお見合いパーティーのようなことをしてすまなかったね」
「父さま……」
今なら言えるだろうか。わたしなりにいろいろ考えていたこと。でもやっぱりもやもやはしていること。
恋ぐらい自分でしたいこと。
「お前は責任感の強い娘だから、国のための結婚とか、家のための結婚とか考えているのかもしれないけれど、そんなことは考えなくていいんだよ」
驚いて父さまを見た。父さまはテーブルに目を落としている。
「何のために父さんががんばっていると思ってるんだい? 娘を政略結婚の道具にしたくないから、それ以外の方法で貴族たちや各国との関係を上手くしているんだよ。いいかい? 政略結婚は外交の一手段でしかない。絶対しなきゃいけないことではないんだ」
それはそうだけど……。
「伯爵家のことはそれ以上に心配ない。レナ以上の女性が見つかるとは思えないけれど、これからまだ父さんだって結婚するかもしれないし、いざとなったら養子を迎えればいい」
「……じゃ、なんでお見合いみたいなこと……」
父さまはまたため息をついた。
「娘には自由に恋愛くらいしてもらいたい……とは思ってもね、できるだけ身元の確かな方と、と願うのは親のエゴなんだろうね。すまなかったよ」
……なんだ。
ちゃんと最初から話せば良かったんだ。鼻の奥が熱くなる。
「……ごめんなさい。子どもみたいに拗ねて。ちゃんと話し合えばよかったのに」
わたしも謝った。父さまがようやくわたしを見て、微笑んでくれた。
「じゃあこれで仲直りだね? もう何日間かパーティーは続くが、出てもらえるかい?」
頷く。
「良かった。こじれたら、もうちょっと待ってもらわなければならないところだったよ」
そういうと父さまはわたしの部屋のドアを開けた。
「君たち、入りなさい。レティをよろしく頼むよ」
……ドアの外には気まずい様子のジェイとキースとクリスが立っていた。