その15
「買い食いってさー、どうして何でも美味しく感じるんだろうね!」
次はりんご飴にしようか綿菓子にしようか、悩みながら露店を見比べていると、キースがどうにもやりきれないというようなため息をついた。
「……まさかとは思うが、あれだけ機嫌が悪かったのは、腹が減ってたからか?」
「よし、ソースせんべいにしよう。キース、ルーレット回してよ」
「……はいはい」
にやりと笑ってキースはルーレットを回す。「漆黒の魔術師」様がソースせんべい屋でルーレットなんて回してる図は、それこそ街の方々の想像範囲外らしく、わたしとキースはそんなに目立ってもいなかった。
そもそも祭りなのだ。
仮装している人たちも大勢いる。「凱旋した四勇者ご一行」になんて五組ほど出会った。わたしたちに似ていたかどうかはともかくとして。
あの後、すぐにジェイと別れ、わたしとキースは祭りを楽しんでいる。もうすぐ日が落ちるが、夜は夜でパレードが出るので、わたしはそれを見るまで帰らないつもりでいる。
キースももう「帰れ」だの「俺は護衛だ」だの言わないし。
……なんだか本当にデートしているような気さえしてくる。
……。
……。
……。
あああ、やめやめ。意識しちゃうと、恥ずかしくなってくる。
……ソースせんべいを二十枚ゲットして、わたしとキースはそれを齧りながら、またいろんな露店を見てまわる。何かユーリにお土産にできるものがあればいいんだけど。
「あの懐中時計なんてどうだ?」
キースも同じ事を考えてくれていたらしい。渋い銀の細工のついた、上品な感じの懐中時計だ。
手にとって見る。……渋すぎるかなぁ……。
「大人っぽいものが欲しくなる頃合だろ?」
「決めた、これにしよう」
「買ってくる。待ってて」
キースは会計の列に並んだ。結構順番が先のようなので、わたしはきょろきょろと他の商品を見てまわる。
と。
「あの、スミマセン」
最初、自分が声をかけられたことにも気づかなかったが、ふと振り返ると小柄な女の子が立っていた。
「え? わたし?」
「はい、あの……ちょっと道を教えていただきたくて……あの、『白い烏亭』という宿屋で人と待ち合わせをしているんですが……この辺りだと思うんですけど、見つからなくて」
わたしよりやや年下だろうか。おどおどと上目遣いだったけれど、小動物系の可愛らしい子だ。彼と待ち合わせなのかな。たまたま『白い烏亭』は知っている店だった。
ちょっと悩んだけれど、見るとキースはまだ会計を終わらせていない。ま、いいか。すぐそこだし。
わたしは彼女を伴って露店のテントを出た。通りを横切って、路地に入るところで彼女を振り返る。
「この路地を入って、すぐの角を曲がると看板が見えるはずよ。送ってあげたいけど、わたしも連れがいるから。暗くなってきたから、気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
彼女は顔を輝かせて路地の奥へ走っていった。夕暮れで路地の奥はもう暗くなっている。わたしは彼女が角を曲がるまで見送っていた。
さて、キースに探されないうちに戻らなきゃ、と踵を返した瞬間。
「何をするんですか! やめてください!」
彼女だ! 路地の奥から聞こえてきた悲鳴に、わたしの身体は反応した。とっさに路地の奥へ走る。
「何をしている!」
角を曲がると、『白い烏亭』の前でさっきの彼女と覆面をした男がもみ合っている!
わたしの声に二人ともびくりとし、男は彼女を突き飛ばすと、更に路地の奥へと逃げていった。
「大丈夫?」
「た、助けてください。財布を……」
財布を取られたのか?
わたしは男を追って、路地の奥へと走った。
「待て、その男!」
男の割りに、足が遅い。追いつけそう……とわたしは角を二つ三つと曲がる。
深追いしすぎたか、と気付いた時。
わたしは黒装束の男たちに囲まれていた。