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その13

「な、な、な」

 あまりにあまりのことで、声にもならない唸り声を上げているわたしの目の前に、マリーは優雅な手つきでお茶を注いだ。

「落ち着いてくださいな、レティ様」

 よーし、落ち着こう。

 はい落ち着いたぞ。

 ……警備を増やしてから、四日ほどが過ぎていた。

 その後も毎晩パーティーは開かれていたが、襲撃の気配はなし。着飾ってはいたけれど、眼光鋭い騎士たちがパーティー会場に詰めていたし、父さまの移動にあわせてわたしやキースも行動を共にしていたし。

 ……だんだん何のためのパーティーなのか分からなくなってきていたんだよね。

 もともとクリスはパーティーに出ていない。

 ジェイも調査や警備の関係で、あのお祭り好きがパーティーに出ていない。

 キースも。

「お前と踊ってれば、お前は守れるが、陛下やユリウス様を守れない」

 とかなんとか言って、パーティーには顔を出しているくせに、壁の花と化している。

 四勇者のうち、わたししか本当の意味でパーティーに参加していないのだ。

 わたしも襲撃に備えて、父さまのそばを出来るだけ離れず、ダンスもせず緊張してパーティーに臨んでいたんだけれど。

「ま、そんなに緊張していないで。お前もちょっと飲んで、楽しんできなさい」

 との父さまの台詞にうっかり頷いて、酒を口にし、というか飲み過ぎ、何人かの男性とダンスを踊った。

 それだけなのに。ああ、それだけなのに。

「なんなんだ、この新聞!」

 ばんっと新聞をテーブルに叩きつける。カップがガチャリと音を立て、マリーが眉をひそめる。

「『レティシア王女、熱愛発覚』って、何。相手、誰これ」

「ツェッペン子爵ですわよね。ピスト伯爵のご子息の。昨日一緒に踊ってらしたじゃありませんか」

 誰かとは踊った。いや、何人かと。でも覚えていないし、「誰々だから踊った」というような感情はない。きっぱりない。

「……なんで、この人とこういう風に書かれるんだ?」

「ツェッペン子爵とだけ、二回踊ったんですよ」

「……眼鏡で細身の、有能な官吏っぽい人だっけ?」

「……それはその前に踊ってらした方ですわよ。ツェッペン子爵は金髪の巻き毛の」

 覚えてもいませんけど。

 しかし不覚だ。

 痛むこめかみは自分への怒りのせいか、二日酔いのせいか。

 王女生活に入って三年。わたしの行動が新聞に書かれると分かってから、こういうことにはならないように、散々気を遣ってきたのに。

 その甲斐あって、あれだけ一緒にいるジェイともキースともクリスともこんなこと書かれたことないのに。

 いらいらする。わたしは大きな音を立てて立ち上がった。

「レティ様、どちらへ?」

「キースのところ。薬もらってくる」

「お一人で出歩いては……」

「武装している、大丈夫」

 外出するつもりでいたので、慣れた傭兵スタイルだった。腰に小剣を差し、ベルトにナイフを挟む。

 いやな奴だ、わたしは。マリーは悪くないのに、八つ当たりのように、ドアを大きな音を立てて閉めた。


「……だからって、ここで愚痴ることないだろ」

 キースはソファーでリラックスし、分厚い魔法書を読んでいるところだった。わたしは無理やり部屋に侵入し、彼に薬を要求し、水差しから勝手に水を飲み、勧められもしない椅子に座って一息にもやもやをぶちまけたところだった。

 ちなみに、こうは言うものの、キースがちゃんとわたしの話を聞いていてくれていたかというと、そうでもない。魔法書から目も上げなかった。

「クリスは教会のバザーの用意があるって言ってたし、ジェイは忙しそうだったし」

「……親子揃って失礼だな。俺が忙しくないとでも?」

 キースはパタンと本を閉じた。目の間をマッサージしてため息をつく。

「……よし、じゃあ、おそらくお前だけが知らない事実を教えてやる」

 な、なによ。わたしだけが知らない事実って。

 身構えたわたしに、キースは本当に予想外の話を始めた。

「ここ三日は、ジェイはそもそもパーティーには出ていないし、俺は会場には行っているが参加はしていない。お前と親しく接するな、と言われているからだ」

 はぁ?

「三日ほど前から、パーティーの性質が変わったんだよ。凱旋パーティーから、お前の婿選びパーティーに」

 なんだって? あまりの台詞に、わたしは椅子から飛び上がった。

「わ、わたしそんなこと何も聞いてないよ!」

「そりゃそうだろうな。首謀者はもちろん陛下だ。陛下が娘には黙っていてくれと仰れば、誰も何も言わないだろう」

 なんてことだ。マリーもわたしに何も言ってくれなかった。父上に言われているからって……。

「ここ三日ほど、主賓は同じ方々だったろう? このお三方には共通点がある。年頃の独身の息子を持ってらっしゃることと、国としてもレーヴェン伯爵家としても繋がりを持てばプラスになるということ。あの襲撃があった後もパーティーが続けられたのは、このためだ」

 呆然と言葉もないわたしにキースは無表情に続ける。

「陛下は恋愛結婚だった。その手前、娘に政略結婚を強いることが出来なかったんだろう。候補を招いて、その候補とお前が恋仲になることを望んだんだ。『恋愛結婚』になるように」

「……恋愛結婚だぁ?」

 わたしだけが、何も知らなかった……。周りに仕組まれて、どなたと話をしたとか、あの方とは合いそうだとか散々見張られて、毎日お膳立てされて。

 わたしはさっぱり気付かずに、父さまの護衛気取りで。

 父さまの護衛気取りで、警戒して、気を配って。毎日。

 かっと頭に血が上る。そして。

「…………」

 そして、すぅっと血の気が引いた。

 いや。

 覚めてしまった。

「……帰る」

「……レティ?」

 何か言いかけたキースを残して、わたしは部屋を出た。


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