その12
会議が終わって、わたしとジェイとキースとクリスはユーリを部屋まで送っていた。
さっき狙われたのは父さまだけれども、念のため跡継ぎであるユーリも厳重に警備がつくことになった。ついでに、わたしにも。
「えーと、多分どの兵よりも彼女は強いと思いますけど」
というジェイの台詞は黙殺された。
正直、護衛の兵より、怪我を瞬時に治せるクリスや、魔法から守れるキースが付いててくれた方がありがたいんだけど。
「これで久しぶりにみなさんと一緒ですねぇ。わたしは城の敷地内の礼拝堂の裏に部屋がありますし、ジェイも城内に騎士詰め所があるでしょ? キースも城に居候するんだったら、またみんなで楽しくできますね。帰ってきてからまだそんなに経っていないのに、なんだかずいぶん離れている気がして」
クリスがのんきに言う。
「しょっちゅう会ってるだろ?」
「お手振りとパーティーですか? それはほら、二人はパーティーも出てるから。わたしはパーティーには顔見せくらいしか出なかったので、レティさんとこうして会うのもなんだかすごく久しぶりな感じで」
そう言ってクリスはまじまじとわたしの顔を見る。
「疲れてますねぇ、レティさん」
「……公式の場ばかりだからね。王族の勤めってこんなに堅苦しかったっけって、ちょっと戸惑い中」
おっと。言い過ぎたかな。ユーリがこちらを心配そうに見上げているので、笑ってみせる。
「お父上が狙われてる。そんな心労もあるんだろ」
お、ナイスフォローだ、キース。
「……今日はみなさん、ありがとうございました。明日からまたよろしくお願いします」
部屋の前につくと、ユーリが頭を下げた。
こういうところ、この子は偉いんだ。れっきとした生まれながらの王子だけれど、ちゃんと礼をすることができる。
「ちゃんとドアに鍵かけて寝るのよ。知らない人が来ても開けちゃダメだからね? 部屋の中で変なことが起きたら、すぐにこの人に声をかけるのよ?」
こまごまと言いつけると、ユーリは困ったように笑った。
「分かってるよ。もう子どもじゃないんだから。ジャック、今晩もよろしくね」
ドアの横に立っている近衛兵にも挨拶をする。
「みなさん、あと、レティをお願いします」
もう一度頭を下げて、ユーリはドアを閉めた。
ひゅーっとジェイが口笛を吹く。
「どっかのお姫様より全然大人だねぇ。どっちが保護者か分かんねーな」
にやり、とわたしを見る。
ジェイを睨んで、わたしもジャックと呼ばれた近衛兵に頭を下げた。
さて、とみんなで振り返って、今度はわたしの部屋まで送ってもらう。
正直、そんな必要はないと思うけれど。
「……本当に目途は付いていないんですか?」
クリスの声に、びっくりする。
なんだか、ジェイもキースも何かしら思うところがあるような言い方じゃないか。しかも、わたしがさっぱりなのに、のんき者のクリスが何かしら感じているなんて。
「目途はついていないさ。ただ、陛下を害そうとする人間は限られているだろうな、と思ってな」
「陛下が玉座を継いだ当初なら、例えば、ユリウス王子を担いで不満分子がクーデターを起こしてもおかしくない、とは思っていた。だが、今は国も落ち着き、『破壊するもの』は倒された。それでもなおかつ、こういう事件を起こすというのはよっぽどのことだ」
「この時点ではユリウス派ということは考えられないと?」
「陛下はあと六年でユリウス王子に国を譲ると国内外に明言しておられる。六年待てば自然にユリウス王子が玉座につくんだ。なぜ今事を起こす必要がある? いや、ユーリ派ではない」
ちょっと、ちょっと。何勝手なこと言ってるんだ。思わず周囲に目をやってしまう。
「大丈夫だ。俺たちが誰か人の気配がするところでこんなこと話す訳がないだろう」
「いや、それもそうなんだけど。何よ、ユーリ派とかって。ユーリがこんなことに噛むわけないでしょ」
「まぁまぁ、レティさん落ち着いてください。ユリウス様を担ぐ人たちが例えいたとしても、今回の件には関係ないだろうって話ですから」
……そうだけど。
「つまりだな、今回の事を起こした人間は、陛下個人か王族に個人的に恨みを持ってる人間だと、そう思うんだ、俺たちは」
だから、とジェイはぴっと指をわたしに突きつけた。
「お前も十分気をつけろよ。俺たちは城内でうろうろはしてるだろうが、お前だけにぴったりくっついてる訳にはいかないだろうからな」
……わたしは頷くことしか出来なかった。
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