その9
「わたくしは失礼いたしますが、みなさまはごゆるりとお楽しみください」
一礼して会場を出る。と、壁にもたれていたキースと目が合った。
「……鮮やかよね」
「何が?」
「キースのフェードアウトっぷり」
二日目のパーティー。
先ほどまでキースはわたしと踊っていたのだ。父さまとの約束通り、わたしはジェイ、キースと踊って上がる。父さまはお手洗いなのか姿が見えなかったけれど、会場に挨拶して、わたしは外に出た。
と、そこには先ほどまで一緒に踊っていたはずのキースがもう外でわたしを待っていたのだ。キースほどの男なら、ご令嬢たちが放っておかないはずだけど。魔法でも使ってるのか?
「もっと踊っていけばいいのに。残念に思ってる貴婦人たちが大勢いるよ」
「……だから、俺はそういう女性は苦手だと言ってるだろ」
苦虫を噛み潰したような表情で言う。思わず笑ってしまう。じゃぁ出なきゃいいのに。
「これに出るのは、まぁ義務みたいなもんだ。アデルから二、三日は出てくれと言われている。凱旋パーティーだからな。だからといって、レティが下がるのに俺がいる義理はない」
ごもっとも。
「部屋まで送るよ。マリーたちも忙しいようだし」
「……なんだかね、招待客がどんどん増えていくみたいでさ。マリーたちはてんてこ舞いだよ。臨時の侍女さんを雇おうかなぁ」
今日は挨拶だけでも大変だった。明日もお手振り、会議の合間に招待客のリストを見ながら名前を覚えなければならない。
ため息をついたら、笑われてしまった。
「旅に出てた方が楽?」
「ま、ね」
……緩やかにカーブしている廊下を歩いている時だった。
「……何者だ!!」
廊下の先から、父さまの声と、金属音がした。その時。
ばん、と近くの扉が開いて、髪の毛を盛大に乱したジェイが顔を出した。顔に紅がついているし、服も……。こ、これは……。
「こっちか!」
とわたしたちにかまわず、ジェイは走り出した。
「キース!」
わたしもキースに一声かけて走り出す。キースも走り出していた。
「何してんだ、お前は」
「野暮なこと聞くな」
流石に奴らは男性で、わたしはジェイにもキースにも遅れてしまう。くそ、こんなドレスと靴じゃなければ! わたしはドレスを腿までたくし上げ、ハイヒールを手に持って全力で走った。
見えた!
人気がない廊下で、対峙している父さまと、黒装束が……三人。父さまは護身用の短剣を抜いていた。黒装束は細い針のような短剣を持っている。刃の先が変にぬらっと光った。
まさか、毒か?!
「お前たち何をしている!」
キースの声に黒装束は振り向いた。
「……漆黒の魔術師か、退け」
リーダー格の合図で、三人とも逃げ出した。
「へ、陛下!」
おっとりがたなでやってきた近衛兵に父さまを任せて、わたしとジェイとキースはそのまま黒装束を追う。
「逃がすか!」
わたしは叫んで、手にしていたハイヒールを投げつけた。
「ぐ」
上手い具合に、黒装束の一人の足に絡み、転ぶ。
「上手いぞ!」
黒装束の残り二人は相棒のことを捨てて、後ろも見ないで逃げて行った。
「一人いりゃ十分」
ジェイが起き上がろうとした黒装束を捕まえようとした瞬間。
「ジェイ、離れろ!」
黒装束の男が一瞬光ったかと思うと。
「っな」
華奢な、けれど力強い腕に引き寄せられて、壁に押し付けられる。そのまま頭を抱えられた。
どおおおおおおおおおおおおん!!!!!!
……黒装束は、爆発した。
先日、初めて評価をいただきました。
ありがとうございます。すごく嬉しかったです&励みになります。
これからもがんばりますので、よろしくお願いいたします。