アークビショップ
ここはギルドからも近い。まだ時間には余裕があるはずだ。せめてレアーヌが眼を覚ますまで待つとしよう。
剣を抜いてみた。手入れは欠かしていない二本のシルバーソード。刀身が美しく輝いている。
この世界でもおそらくだが高級な剣なのだろう。他の冒険者から結構見られていたからな。
ギルドで作ってもらったステータスプレートを眺めてみた。名前はクロード。年齢十八歳。職業――。名前、年齢までは今日だけで何とか読めるようになった。職業はまだ読めない。
へー。綺麗なもんだなー。
ってちょっと待てよ!
これ……字は読めないけど、ギルドの職業表の『アークビショップ』の文字列こんな感じだったぞ。
プレートに刻まれた文字がそれにそっくりなのだ。
『アークビショップ』って確か回復の最上位職って言われなかったっけ?
俺『剣士』をお願いしたはずなんだけどな……
――そうだな。でもちょうどいい頃合いかもな。
俺は間違えられた職名をそのまま受け入れようと決めた。
何故『剣士』に留めておきたかったかというと、もちろん自分が根っからの剣戟使いだった事で、この新しい世界でも剣士で生きていくと思っていたから。『アークビショップ』だとギルドのお姉さんの口ぶりだと目立ってしまうからな。平穏が一番なのさ。
だが回復職に適性があるなんて考えてもみなかった。
それに以前の世界の能力……いや俺の場合は体質だろう。それが使える事が確認できたから。剣士で十分だったんだ。
ただたとえ職業が『アークビショップ』でも目立たなければいいだけだ。プレートの偽装が出来れば文句ないんだけどさ。
じゃあせっかくだから手始めにもしかしたら、あれが出来るかな?
期待してレアーヌの元へ行き、唱えた。
「【ハイヒール】!」
即起きた。効果が抜群に早い。魔力の恩恵が心地よい。
「あれ? わたし生きてる。なんかすっきりして気分がいいわ」
成功だ。疲労回復効果が加わったハイヒール。これは使える。
俺が効果を考察していると、いきなり怒声が響いた。
「あんた! ふざけんじゃないわよ! わたしもう少しで死ぬところだったじゃない!
しかも何なの? 剣が抜けないとかでいきなりピンチになって、あれでわたしにどうしろって言うわけ?
挙句の果てにここで攻撃欲しいって時言うって言ってたのにだんまりだし、ほんと最低なやつだわ」
まぁ全部わざとだけどな。
ただこのバカ、どうやって俺が十匹に囲まれたピンチを回避したのかとかは聞いてこない。
自分のピンチにだけ口を出すというクズっぷりだ。
「ちょっとやり過ぎたことは謝るよ。でも結局無事依頼は達成できた。早いとこ報酬を受け取りたい。今日の宿賃なんだ。報酬受け取ったら続きを聞くことにするよ」
気が付けば夕方だ。
依頼主にまず報告。手を握られ感謝された。一応レアーヌもだ。お前あの失態見られなくてよかったな。
そしてギルドに帰ってきた。
受付のお姉さんに報告する。
あれ? 苦い顔で顔面蒼白なんだけど。大丈夫かなぁ。
「ハイウルフの駆逐終わったよ。全部で十匹狩った。これが討伐証拠ね」
「お見事です。この短時間で……あの……レアーヌさんとはうまくいったんですか?」
「ふん! これから説教するのよ。邪魔しないでね。こいつ最低だわ」
「――こんな感じかな……」
頭を掻いて苦笑いした。
すると、ギルドのお姉さんが狙ったかのように頭を下げた。
「……それからすみませんでした。わたしあの時クロードさんのステータスプレート作る時、『アークビショップ』にしてしまいました。大変な間違いです。この先クロードさんは『剣士』ではなく『アークビショップ』での職能が現れてきます。どう償えばいいのか……」
そういえば、お姉さんが作業に入ると同時にレアーヌの追放劇に目移りしてしまったんだっけ。お姉さんが間違えてしまったのは、こいつのせいともいえる……まあ無理やりだが。
成長でステータスプレートに即した職能が、発現してくるということらしい。
どちらにしても俺は怒ってもいないし、このお姉さんには感謝している。この件以外の他の事で。
「いいよ。別に気にしてないし。逆に区切りをつけさせてもらえたんだと思えたから」
「ありがとうございます。この先クロードさんに関してはわたしから出来る限りの後ろ盾をさせて下さい。本当なら懲戒免職ものなので……」
「あんまり大きい声だと他の人に聞こえちゃうよ。俺でよかったと思いなよ。あと別にこの事でお姉さんを脅したりとかは、誓ってないから安心してよ」
「ありがとうございます」
涙目で喜んでいる。
「では今回の依頼達成報酬でございます。
成功報酬三万エリーと十匹のハイウルフ討伐になりましたので、一匹分の追加報酬三千エリーで、合計三万三千エリーになります」
「ありがとう」
「この度は本当にご迷惑おかけしました。今後ともよろしくお願いします。クロードさん」
なんかいい事した気分だ。
とそこへ鬼神のような顔で迫るレアーヌの姿があった。




