魔力暴走
――俺はその時、修羅場にいた。
何があったのかと言うとまたしても、異世界へ飛んでいたのだ。ただし、今回は全く意図していない形で。しかも、なんと半年に渡り元の世界に帰れなくなっていたのだった。
ただ救われた事もある。半年ぶりに元の世界に戻ったはずなのに、何故かここはリオンが異世界線へ旅立った直後だった。地球に行こうと意気込んでいるあの直後だった。今回飛んだ異世界と俺がいた世界とでは時間経過に齟齬が生じたらしい。というか、齟齬どころではなくその異世界に半年以上いた事で、もはや新たなる異世界の住人になる事に足を突っ込む寸前から、俺の世界に一瞬で戻ったような。
そして、俺は帰ったと同時にリオンの帰還が終わると、リーシャ、アヤネ、リオン、そしてさっきまでいなかった俺しか知らない少女と共に、アイテムボックス内から風紀隊詰め所へ戻ったのだ。
そう、まるで何もなかったように。いや、実際にはリーシャが案の定鬼のような表情でなんやかんやあったけど、アヤネがまずはマールさんにもお目通りさせてから修羅場に入った方が一度ですみますよと言ってくれたので、俺は怒られるのはマールに会ってからでもいいよねと勝手に外へ出る事にしたのだ。
ということで問題を先延ばしにしただけなのだ。これ、絶対ヤバいやつじゃん!
もう言い逃れとかそういうレベルではない。よりによって彼女が俺に抱き着いたまま顕現したのだから。彼女は異世界転移がよほど怖かったのだろうと思っていたのだが、どうも違う模様。
俺に必死にしがみつくのは、16歳の美少女。
アヤネ曰くこれって魔法少女じゃないですか?
あー、それアヤネの記憶でみた地球世界の派手な衣装のあれか。まあ似ている気がする。
彼女の名前はレアーヌ。決して俺が悪いわけではない。ついてきてしまったのだ。勢いで。
アイテムボックスから帰還した俺は、当然のように俺は4つの眼に睨みつけられていた。
駄目だ。話せば長くなるしきっと超怒られるだろう。だが話さなくてもきっと超超怒られるだろう。
きっかけは多分、俺の魔力暴走。
つい調子に乗って、弟子のリオンにまで異世界線旅行をプレゼントしてしまい、その結果、【空間連鎖】の使用過多でいわゆる一時的なゾーンに入った感覚になり、俺のマナが熱を帯び過ぎたのか、身体に突如負荷がかかり、あらぬ世界へ飛んでしまったのだ。
もちろん、わざとでもなければ、美少女を釣りに旅立っていたわけでもない。
全ては不可抗力である。
まずはこの4つの眼から俺は身を守らなければならない。
リオンに【空間連鎖】をかけると、それは魔力暴走を起こし、何と術者である俺まで魔法がかかったのである。
これはリオンにもやや過度な負担がかかり、後で聞いた話だと、彼はTS転移という特殊な異世界線を味わったそうだ。アークとドイルが喜びそうな感じのやつだな。
で、俺の方はと言うと、何と今までの異世界飛行テスト及び精神研鑽の異世界線行きとは違い、なんと身体丸ごと飛んでしまったのだ。
まあ目的が地球世界であれば身体ごと飛ぶのは成功ではあるが、今回は不測の事態だった。
しかも修羅場作成の原因となった美少女付きである。
「クロード!! これはどういう事なの!? わたしを置いてくなんて1000年早いんだからね!!」
魔法少女レアーヌがイキっている。口が悪いのがイタイところだが、まあ可愛い所もいくつか探せば……
…………ないな。
まあ、色々残念な美少女だ。
「クロード様、怒りませんから順を追って説明してくださいませ」
「クロード様、わたくしは聖女でとっても寛容なので、どうか説明をお願いできますでしょうか? ちゃんとお話しいただければ決して怒ったりしませんから」
駄目だ。リーシャもマールも既に青筋立て過ぎて鉱山事件の時の般若ローラのようになっている。説明しなかったら怒られるどころじゃない気がするし、説明しても怒られるどころじゃない気がする。だってもう既に今の時点で二人とも沸騰状態だから。
ただ説明しない事には俺の冤罪は晴れそうもないので、仕方ないので順を追って話す事にした。
俺の身に何が起こったのかを。
★ ★ ★
ただの簡素な蝋燭に見えるが……
手を添えてみた。
ボゥーッとひと際大きな青白い炎が燃え上がった。
おかしい。いやありえないはずだ……だって、俺は――
「クロードさん、あなたは回復系魔法に対する適正がずば抜けて高いです。すごい……回復系最上位職『アークビショップ』にまで適性が出ています。このギルドではまだいらっしゃらないのですが……そこまで選択可能となっています」
「例えばその職に就く事で著しい身体能力の低下などは起こったりするの?」
「いえ、魔法職は身体能力には恩恵は受けられませんが、低下等は一切ありません。ただ、高レベルパーティーに苦労なく入る事が出来るかと思います。回復職支援職は引手数多なので」
「でも出来れば『剣士』希望なんだけど……」
「えっ? よろしいのですか? 『剣士』ですと勿論支援魔法と回復系魔法の習得は、放棄する事になりますが……」
「うん。構わないよ。ちょっと事情があってさ。この世界で冒険者になるには何らかの職業に就かないといけないんでしょ? そうするとそれがベストなんだ」
「……承知いたしました。ではステータスプレートを作成させていた――」
そこまで聴いたところで、後ろの休憩所でテーブルを思い切り手の平でバンバン叩きつける物騒なやつがいた。ブルーの髪の16か17歳くらいの少女だ。
反復しなくても……一回でいいだろうに。
正直言ってうるさい。迷惑だな。
「そう? いいのね? こんなクソパーティーこちらから願い下げだわ!」
「そこだ! 君のそういう所が皆の輪を乱すんだ! 我慢はしてきたがもう皆限界なのさ」
「何よ! ドラゴン討伐だってわたしの魔法が決め手になったんじゃない! わたしがいなくなって困るのはあんた達なのよ!」
「皆で話し合った事なんだ。この際はっきりと言わせてもらう。君がパーティーの『死神』だ。実力云々じゃない! 君が作った皆のストレスを解放させてもらうよ。ここで君を解雇する」
「あらー。またダメだったのね……今回は一か月もっていたから、もしかしたらと思っていたのだけれど」
「どうしたの? あの人達に何かあったのか?」
「あそこで騒ぎ立てているアークウィザードの子……『レアーヌ』って言うのですが、その……多分あの性格ですので長く在籍できるパーティーがないのです。何でも元々いいとこのお嬢様だったそうですが、わがままでフィアンセに婚約破棄されて、家から追放されたそうなんですよ……
あのパーティー『銀の翼』はAランクパーティーで非常に優秀なんです。
彼女に実力があったので二つ返事で入れてもらえていたようですが、温厚な彼らの手にも余るとなると……」
「ちなみに『アークウィザード』って職業はすごいのか?」
派手なマジカルスカート。派手なカラフルなブラウス。派手なリボンのついたステッキ。ああ言うのって大体頭がイカれた感じだよなぁ。
ただし、俺はぼんやり思っていた。彼女のあのふざけたような恰好、何か懐かしさが。
「はい。アークビショップと並ぶ高貴な職業です。それこそあなたのように才能があってこそ……
努力だけでは補え切れない壁を越えた職業です」
「ふーん……」
まぁこれだけ大きなギルドだもんな。そういった異端児一人や二人はいるだろう。
とりあえず日銭をまず稼がなければならないから、依頼を探そうか。
「ねぇ、お姉さん。早速依頼を引き受けたいんだけどさ。この適性ランクとかは無視していいの?」
「パーティーとして達成可能であろうという最低ラインのレベルです。正直その一つ上のレベルでないときついかもしれません。実はこのアレフギルドは冒険者のリスク管理を自己に負わせる事で、どのランクのものでも関係なく依頼は受けられます。ただし期限までに未達成の場合、ペナルティが課せられます」
「じゃあこの『ハイウルフの駆逐』依頼を引き受けたいんだけど」
俺は掲示を指さした。
「適性レベルCランクの高ランク案件です。しかも期限がたった七日間です。今クロードさんは冒険者登録したばかりでEランクとなっています。ギルドとしては拒否は致しませんが、お勧めはしません」
「忠告ありがとう。分かってるよ。でも多分、大丈夫だと思うから。とにかく今日の宿賃、稼がないといけないから。となると今日中に行って帰ってこれる依頼はこれだけなんだ」
「ふーん。話は聞いたわ! あんた新人なんでしょ? いいわ。わたしが組んであげるわよ。天才で、高貴なわたしが手伝ってあげるんだから、報酬9割よこしなさい!」
背後から威圧的な声がかかった。腰に手を当てて仁王立ちした少女、レアーヌだった。
不思議とめんどくさいやつだなとは思わなかった。彼女の出で立ちに親近感を覚えたわけじゃないが、俺は思い出していた。【記憶遡行】でみたアヤネの記憶から、彼女の恰好が地球では魔法少女と呼ばれるものでないかと?
更に考察すると、俺自身にも何か関係深いものがあるのではないか?
そのような考えにたどりついた結果、放っておけなくなったのだ。
「君さっき解雇されてたよね? 落ち込んだりしてないの?」
「あんな使えない、わたしの有難みが分からないパーティーなんてこっちから願い下げだわ! あー清々した」
――言っている割には頬に泣いたような跡があるけど。
「お姉さん。この報酬三万エリーってなってるけど、一割の三千エリーだと宿賃にはなるかな?」
当然のことながら、金銭相場が分からない。
「そうですね。三千エリーであれば一泊二食付きで三泊までは確実に宿をとれるでしょう」
この世界を知るには三日あれば十分かな。算段を立てた。
「じゃあ臨時になるけどお願いしようかな。俺はクロード。よろしく」
「わたしはレアーヌよ。分かっているとは思うけど、わたしはあんたが新人だからってあまくないわよ」
彼女の思惑が分かっているだけに改心させたいのだけど、こりゃ時間がかかりそうだな。さすが『死神』。
明らかに俺をエサにして、その間にハイウルフを一掃するつもりだろうから。
こんなのとなんで組んだ? と言われたら、好奇心としか言い様がないが……
「では依頼受付を承認致しました。
依頼主はこの街の養鶏場にいらっしゃいます。なおハイウルフの数が十匹以上になると一匹討伐につき、三千エリーの追加報酬があります」
ギルドのお姉さんに手を振り、俺達は養鶏場へ向かった。




