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この異世界線の姉貴も好き ―side リオン―

 まあ、気持ちは全部書き込んできた。あとは信じよう。そして俺は出来る事をしよう。

 昨日は本当に思いの全てを置いてきた。その表上の文面を思い出す。


 『お父様、お母様。いきなりこんな事になってしまい申し訳ありません。頭の中では、駄目だって分かってはいたのですが、自分の気持ちが抑えきれず、ラルフ殿下に愛の告白をしてしまいました。お姉様もラルフ殿下の事、すごくお慕いしていた事は分かっていたはずなのに……

 お姉様の婚約もわたくしのせいで破棄になってしまいました。

 こんな不肖の娘でごめんなさい。もうわたくしはお父様にもお母様にも顔向けする事は出来ません。

 だけど……こんな酷い事してしまったわたくしだけれど……お姉様の事は心の底から尊敬していました。

 最後にどうか心からのお願いを叶えてあげて下さい。

 リオンより』


 そして、俺が信頼した姉貴への文面。自分がいない以上、誰が覗いてこれをチクるか分からないから。

 だからこそのピンポイント姉貴宛てだ。


 『これが見えるようだったなら、姉貴って本当に可哀想なくらい血筋に見放されてると思うしかねーんだけど、分かった?

 これは姉貴だけに見える文字って事さ。つまりここからは親父達は勿論、魔力皆無な人間にしか見えない文字で書いたんだ。

 結構やべー告白だから、念には念を入れて他には漏れないよう、姉貴だけに伝わるようにした。

 単刀直入に言うと、とにかくあのやべー王太子、どうにかしなきゃって思ったんだ。

 まあ、男を見る目がない姉貴がやたら日頃から持ち上げるもんだから、絶対あの王太子なんかあるなって睨んでたら、案の定、いや想定以上に、ヤバかったってわけさ。

 この前、学園祭の準備で遅くなった時、姉貴さ、帰り王太子に送ってもらっただろ? あの時、実は足音を魔法で消してつけていったんだ。ほら、令嬢蒸発が増えていたから魔力もない自衛策もない姉貴が心配で俺もその場にいたんだ。姉貴を送り届けてから、あの王太子何処行ったと思う?

 王城の脇にある立ち入り禁止の地下牢に入って行ったんだ。

 そこに、何と、貴族学園の攫われた女子生徒達がいたんだ。壁に腕括り付けられて。言いたくないけれど性奴隷って事さ。更にそこにいたの誰だと思う?

 なんと国王がいたのさ。

 そして、やつらは聞くに堪えない会話をのうのうとしてやがった。

 女生徒達を性奴隷の玩具扱い。

 異性の眼を釘付けにしちまう『魅了』って精神魔法を使って、誘拐の痕跡は残さないようにしてたわけだ。いくら捜索がされようが見つからないわけだ。女生徒達は自分から姿を消していたんだからな。

 根性の座った俺ですら、ぞわぞわって背中に虫が這いずり回るようで吐きそうだった。

 どうやら俺も狙われていたみたいでさ、ただ姉貴がフィアンセだから、あのクソ王太子慎重になっていたみたいだ。


 それでさ、俺、ラルフ王太子の『魅了』について調べてみたんだ。

 これがさ、思ってた以上に厄介な能力だったんだ。

 簡単に言うと、『魅了』さえあれば女生徒を簡単に性奴隷に出来てしまうんだ。

 まあ、姉貴は『魅了』されずに魅了されてたんだけど。でもそれが逆にあのプライドの高い王太子には響いたみたいだ。能力の力を借りずに姉貴をものにしたって事だからな。内面はクズだけど。

 姉貴も王太子が『魅了』なんて能力持ってるって事知れば、さすがに警戒して婚約も考え直すと思うから。王太子には願ったり叶ったりってわけ。


 でもそれだけ分かれば話は早い。3日間くらい作戦は練ったわ。王太子の嗜好品やら、興味は何に惹かれやすいかとか。いざハニートラップ実行してみたらすぐ食いついてきたよ。姉貴の手前『魅了』は俺には使えないから喜んでただろうね。俺はあんなハゲ王太子絶対嫌だけどな。そしてここで何が起こるかと言うと、ラルフ王太子は、姉貴から、俺へ間違いなく乗り換えると見たってわけさ。


 まあ、俺は姉貴みたいに胸はまな板じゃないし、言うなればたわわに実ったメロンだし、魔法も天才的だし。王太子にとっては身体の成長が上位互換の俺が『魅了』を使わずに御せるわけ。

 結果無事、姉貴を婚約破棄で舞台から安全に退場させられる事が出来た。


 一応考えたんだけど、国王は最初はまともな政略結婚のつもりで姉貴を選んだんだ。でも王太子は胸がまな板の姉貴だけじゃ満足出来なかったんじゃないかな。拘束が好きとか変な性癖まで持っていたようだし。王太子はある時、自分に『魅了』の能力があると知った。次期国王候補で筆頭公爵令嬢が婚約者にいたら、女生徒達は悪い意味で恐れ多くて近づきにくいだろうから、相手を思い通りに出来る『魅了』はあいつにとって魅力的だったんだろうな。国王はそれを知っても看過するどころか、一緒に楽しんでいたんだよ。


 それが事の顛末なんだ。姉貴、俺から最後の頼みだ。

 おそらく大切な姉貴の頼みなら親父達は聞いてくれる。俺が直接親父宛にと、この事を書き残したところで、もうまともに取り合ってはくれないだろうしな。

 俺は一番確実な方法をとっただけ。それは悪の目論見を知った自分を売る事で、一番信頼出来る姉貴の目を覚まさせるって事。

 それに中身が淑女の姉貴を退場させて、中身が男前の俺が代わりを務めた方が安全に決まっているからな。

 自分を犠牲にするとか、そんなかっこよくなったつもりもないけど、今頼めるのは、世界でただ一人、姉貴だけだ。


 ″あの外道達を絶対粛清して、腐り切った国家を叩き潰して欲しい!″


 それが心からのお願いだよ。


 泥棒猫のリオンより』


 ちなみに姉貴には俺の素性はバレている。親父達はショック死したら困るので俺がTSってのは伏せてある。


 ――王城へきて翌々日。


 俺は我慢できなくなり、とうとう動き出す決断をする。

 朝、王城を抜け出し、地下牢へ行ってみた。奴隷達の様子が気になって仕方なかったのだ。

 状況は思っていた以上に悲惨だった。

 簡素な食事だけ与えられていただけで、元々が綺麗な令嬢だったとは思えないほど、彼女たちは生気を失っていたのだ。

 もうなりふり構っていられない!

 俺は彼女達に寄り添い出来るだけの魔力を行使して自分の生気を与えた。下手すると自分の命に係わる荒療治だがやむを得ない。そして彼女達は生気は戻っても、心が擦り切れている。

 メンタルケアが必要だ。

 俺は思いつくだけの魔法を試してみる。予断は許さない。

 彼女たちの命が危ない。


 ――と、その時だ。


 王城付近が何だか騒がしい。

 まるでクーデターでも起きているような、そんな轟音まで地下牢獄に響いてきた。

 えっ? これはマジか? 


 ――奇跡が……起きたのか?

 地下牢獄。まず真っ先に飛び込んできたのが、涙を流しながら走りこむ姉貴だった。


「リオンの馬鹿~!!」


 膝間づいて奴隷令嬢の治療を続ける俺に向かい、思い切りダイブしてきやがった。


「うは! いってー。何すんだよ。姉貴」


「あんた馬鹿なの! 死ぬの!?」


「姉貴、信じてたよ。必ず来てくれるって。俺なんかのことはどうでもいい。それより彼女達がやべーんだ」


 姉貴はシャルル家の聖魔法担当魔術師を呼び、すぐに彼女達の手当てを始めさせた。


 外に出てみると、なるほど、王城の城門が破壊されている。

 見たところ、火炎魔法を集中させたような感じ。

 さっきの轟音はこれだな。


 ってことは、


 あっ!


 城壁に親父とお袋が俺を見つけて手を振っている。

 正直、勘当されてもおかしくねーことやったのに、どうやら両親は俺を許してくれるらしい。

 俺も笑顔で手を振る。


 とりあえず、姉貴は姉貴だった。俺が最も尊敬するそして大好きな姉貴。

 事の顛末はと言うと……


 俺の手紙を読んだ姉貴は、思うところがあったのかもしれないが、


「わたしの心からの願いは、この腐った国家を叩き潰す事です!!」


 両親にこう叫んだそうだ。


 ――それに感化された親父とお袋の動き出しは思いの他早かった。

 見方によっては、シャルル家姉妹がラルフ王太子を巡って、マッチポンプしているだけにも見えなくもないけど、どうやら親父達は分かってくれた。姉貴が涙が枯れる思いで頼んだから。


 これ以上犠牲者を出してはいけない。そして何よりバカなリオンを救いたい!

 そう思ってくれたのならやったかいがある。だが思ってくれてたらしい。


 シャルル家の私兵達は、元宮廷魔術師夫妻が誇る魔法に卓越した私兵達である。

 王家の平和ボケした兵士達では太刀打ち出来るわけがない。

 魔法に耐性もない為、ほぼ睡眠魔法だけで無力化され、無血開城同然となった。

 つまり城門だけで十分だったという事だ。


 国王とラルフ王太子は、生け捕りにさせられ、国家裁判へかけられる事になった。

 証人は俺をはじめ、10人以上いる。

 国王達に逃げ道はなく、その罪は、すぐ様民衆の知るところとなった。


 裁定は、2人とも極刑。

 その首は、王城広場に晒された。


 アルバート王国は、これを以て終焉を迎えた。

 その後、シャルル家の功績を褒めたたえる民衆の後押しを受け、シャルル家が政権を握る事になった。

 新生アルバート王国の門出だった。


 ――1か月後。


「姉貴! 安心しろよ。今度は、俺がいい男紹介してやっからさ!」


 俺の本性は姉貴だけが知っている。ケケケ。ほんとはまた姉貴に男選びを失敗して欲しくはないだけだけど。姉貴に言い残して、リビングへ走る。


「お父様、お母様。わたくしこれからは絶対お姉様の恋人奪ったりはしませんわ。だって、お姉様の選んだ殿方奪ったりなんかしたら、わたくしが不幸になりそうなんですもの」


 そう言い放って、俺は姉貴にウィンクしてみる。

 姉貴はそれを見て、ふざけんな! この悪役令嬢! とでも言いたそうに俺を追いかける。


 あーやっぱこの日常が俺には一番だよなー。


 姉貴。今度こそいい相手見つけろよな。


 あっ! 相手に求めるハードルは俺の場合高いから、婚約なんてまだまだかもな。少なくともどっかの王太子とかはマジ勘弁って事で。


 俺はこんな爽やかな日々を送れるようにしてくれた妹想いの最高の姉貴に心から感謝した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 これがTSかぁ。そこにはちょっとだけいいかもって思えた自分がいた。

 そしてアークさんやドイルさんの気持ちが若干分かる気もしてきた。

 そういえば、僕は今までアークさんとドイルさんをゴミを見るような目で見ていたからなぁ。

 師匠はきっと僕に”多様性”を教え込もうとしてくれたに違いない。

 さすがは師匠だ。僕にないものをどんどん詰め込んでくれる。


 ――だから、僕は師匠にどこまでもついていこう。


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