万能賢者だったはずが……
俺は、村一つを犠牲にして魔王討伐を果たし、リーシャは、デジャヴとも言える婚約破棄を再び味わう事になった。
思った以上の苦行だった。
異世界線では、こんな事になるのか。
多分、心身を鍛えたいと願ったことが原因だろう。
じゃなきゃ俺はどんな世界でも疫病神だ。
「クロード様、顔色が悪いです。大丈夫ですか?」
リーシャが優しく手を握ってくれた。自分も心を擦り切らしたはずなのに。
「ただもう一度だけ。確証が得たい。だから……」
そして俺は再び【空間連鎖】を唱えた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
これは誰かの日記だろう。文字は読める。
~12月20日~
今日から貴族学園初等部の冬休みです。
周りのみんなはうきうきしていました。でもわたしはあまり嬉しくありません。
だって、わたしのお兄ちゃんが半年も前から魔王討伐に出かけてしまっているからです。
クロードって名前で勇者様のパーティーですごく活躍しているみたいです。
お父さんもお母さんも昔はすごい魔法使いで宮廷というところにいたと言われました。
だからお兄ちゃんもすごい魔法使いです。でもわたしは全然魔法が使えません。
お兄ちゃんはすごい魔法を使う賢者様なので、絶対無事に帰ってくると思いますが、何だか不安です。
~12月21日~
王女様のミランダお姉ちゃんがわたしのところに遊びにきてくれました。
お庭に雪が積もったので、一緒に雪だるまを作りました。
わたしのおうちは公爵っていうらしいですが、王女様はわたしのお兄ちゃんと結婚が決まってます。政略結婚というらしいです。でも昔から、とっても良く遊んでくれます。
今日作った雪だるまが寝ぼけているお兄ちゃんそっくりで二人で笑っていました。
大好きなミランダお姉ちゃんの為にもお兄ちゃんには無事に帰ってきて欲しいです。
~12月22日~
今日は朝からお天気が良かったので、お兄ちゃんそっくりな雪だるまは溶けてしまいました。
でも、本物のお兄ちゃんがいつ帰ってくるのか楽しみです。
~12月24日~
今日はクリスマスイブなのにお兄ちゃんがいないのでとっても寂しいです。
お父さん、お母さんとクリスマスパーティーをしていると、夕方お客さんが来ました。
邪魔にならないようにわたしは自分のお部屋に行きました。
そうしたら、お父さんお母さんに呼ばれたので、リビングに戻りました。
二人ともとっても悲しい顔をしていたけれど、何かあったのかな? お客さんにいじめられたのかな? って思ってわたしはどきどきしました。
でもお客さんはなんと魔王討伐に行っていた聖女様でした。
どうしてお父さん、お母さんが悲しい顔をしているの? 聖女様がいじめたの? って聞いたら、聖女様はわたしに用があってわたしにお兄ちゃんからのクリスマスプレゼントを渡す為にきたと言いました。
お兄ちゃんは何処なの? どうしてお兄ちゃんが渡してくれないの? って聞いたら、すごく悲しい顔でわたしのお兄ちゃんは魔王を倒す為に魔王と相討ちになったと言いました。
魔王はとても手強くて自分が犠牲になる必要があるとお兄ちゃんが言っていたそうです。
その時、絶対にこれをわたしに渡してほしいって聖女様が頼まれたそうです。なんでお兄ちゃんがそんなことに?
わたしはいてもたってもいられなくなって聖女様に八つ当たりしてしまいました。
でもそんなわたしを聖女様は優しく抱きしめてくれました。
プレゼントはお兄ちゃんからの手紙と綺麗な宝石でした。
泣きながらもわたしはお兄ちゃんからの大切なお手紙を見てみました。
最初とまどって、えっ? っとちょっとびっくりしましたが、どうしても中身が知りたいのでわたしは聖女様にお願いしました。
”わたしは文字の読み書きがまだできません。読んでもらってもいいですか?”
聖女様はニッコリ笑って声に出して読んでくれました。
”愛するニナへ。
ちょうど今頃クリスマスだよな。こんな形で渡すクリスマスプレゼントになってすまない。
だけど、兄ちゃんな、信頼する大事なパーティの為に、そして世界の為に死ねるんだ。何も悔いはない。
俺が魔王を道連れに自爆魔法を行使すれば魔王は討伐出来る事が判明したから。
勇者カイルの勇敢さ、戦士ビックスの勇猛さ、そして聖女リディアの溢れる知性には本当に助けられたよ。
だからこそ、俺はこのパーティーにいた事を誇りに思う。
このパーティーで魔王討伐を果たせたなら何も悔いはないんだ。
ニナ。どうか、いつまでも幸せになって欲しい。さようなら
クロードより”
聖女のリディア様がわたしを抱きながら、ずっと泣いています。
多分、お兄ちゃんの最期を思い出して泣いているのだと思いました。
なんて心の優しい聖女様なんだろうって……
…………
なんて思うわけなんかないのに!!
……お兄ちゃんのバカ!
でもわたしは心の中でお兄ちゃんの本当の気持ちのこもったお手紙を読み進めました。
”愛するニナへ。
今これがお前の手元に行きわたっていたなら、下手に慈悲がある聖女リディアに託して正解だったのだろう。栄養分の大半が胸にいってしまったような一番バカな女だから。すまないな。元はと言えばこいつら外道の素性を見抜けなかった俺が未熟だったんだけどな。
実際のところ、兄ちゃんな、父さん母さんの素質をしっかり受け継いでいたようで、魔王討伐も誰一人かけることなく無事に果たせたんだ。
だが、本当に恐ろしいのは魔物なんかじゃなくて人間だったって事だ。
魔王を討伐し、最終ダンジョンからの帰りだった。
堕ちれば奈落と言われる【奈落の崖】に差し掛かったところで、3人がどす黒い眼で俺を見てきたんだ。
魔封じが施された場所だったから、明らかに計算づくだろう。
生死を共にした仲間達だし、まさかと思ったが、俺は構えたんだ。
でも先手はやつらだった。
十分な防御魔法を使えぬところを俺は蹴落とされそうになっていた。
何故?
やつらの言い分はこうだった。
国王陛下の言いつけだと。
魔王討伐が果たせたなら力を持ち過ぎた俺が邪魔になる事、元々宮廷魔術師の家系で筆頭公爵である俺達ロンダール家が王家の世襲を破って覇権をとるのを恐れたことが原因らしい。
父さん、母さんには全くそんな欲はないのにな。
やつら3人は所詮金で雇われたバカだった。
ただ冒険中俺を狡猾に出し抜いたことだけは天晴なんだが。
というわけで魔法も使えず剣が達者なやつらが相手では俺に成す術がなくなったんだ。
あーあ、もうすぐクリスマスなのに……
せめてニナと過ごしてやりたかった。
そのことが頭をよぎった俺は最後に一番バカ正直な慈悲をもってそうなリディアに取り入ったんだ。
”クリスマスプレゼントをせめて最愛の妹に届けて欲しい!”
表向きの手紙にはやつらを擁護する言葉を羅列しといたから、気分良くリディアなら引き受けてくれると信じてな。
あくまで”表向きには”だが。
この文面、魔力を持たないものにこそ真実の文章に写るはずだ。
試しにリディアにわたし読み書きが出来ないので読んでもらえますか? と言ってみるといい。
魔力を持ったリディアが読めばその”表向き”の手紙になっていることだろう。
それと一緒に添えた宝石は魔力がないものが触れると俺が体験した物事を脳裏に映像化する事が出来るんだ。さすがに魔封じの効いた場ではこのくらいの細工が限界だった。
何故この手紙をニナに託したかと言うと、子供ながらの純真無垢な眼で物事を見極めてほしかったから。
私情の入った、又は下手に王家に謙遜心のある両親では最適な判断が出来ないと考えた。
お前がこの先この事をどうするかはお前次第だ。
おかしな選択をまだ9歳のお前にさせてしまって本当にすまない。
でもお前であれば、お前が決断した事なら、俺は本望だし、もしお前が両親に伝えたのなら、一番お前を愛する両親だ。死んでも報復を果たしてくれるだろう。
最期に……
世界で最も愛する妹ニナへ。さようなら
クロードより”
お兄ちゃん……
最期の最後……自分が死んじゃう時までわたしの事をこんなにも思ってくれてたなんて……
わたしは唇をかみしめました。
それと同時に今、わたしを抱きしめている聖女様の腕が恐ろしいほど冷たく悪魔のように感じました。
この腕は死神だ。死神の汚い腕だ。
そしてわたしはこんなひどい悪魔のいる国でお兄ちゃんを弔いたくない。絶対に。
綺麗な輝きを放ったプレゼントの宝石を触ると……
お兄ちゃんが言っていた通りの事がわたしの中に流れ込んできました。




