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魂の叫び

 風紀隊を結成して、活動も大分安定してきた。手ごたえを日に日に感じてはいる。

 大体舞い込む仕事は、ギルドで消化できない案件が多いが、それを見越しての遊撃隊でもあるので、文句はない。


 俺達は今何と、ある街外れの炭鉱にいる。

 ルドラという鉱業が発達した街だ。

 今回のメンバーは仕事の質から、力仕事に定評のあるアーク、ドイル、回復の使えるミミを選抜した。

 魔物退治ではないのでマナの供与は不要と考えた。それもあり、リーシャは他国の王子からの派遣依頼をこなしに行き、マールは今日は薬師の研修に行っている。アヤネは王都内をパトロールに出ている。


 王都から若干離れた位置だ。王国内は大小様々な街や村が点在している。行く先々で問題が起こるわけではないが、これから俺達はどうやら各地で平和のフラグを立てるのが、仕事になりそうだ。


 ここは、昔から鉱業が盛んで、かつては活気に溢れ、家族のため、一生懸命働く鉱夫達の血と汗と涙の詰まったエネルギッシュな街だったそうだ。


 しかし、そんな鉱業で潤った街に起きてしまった岩盤落下事故。

 日々綿密な調査の上で安全を確保しての掘削だったのだから、自然災害とも言える。

 俺達は、そこで不幸にも埋もれてしまったと思われる一人の鉱夫の救出を頼まれたのだ。


 この悲しい事故が起こったのが今日の日中。

 今は夜間で辺りは静まりかえっている。


 鉱夫と言えど、冒険者と命の危険はなんら変わりはないのだ。

 この鉱夫はチーフのようで、危険を事前に察知し自分の命を厭わず、完全岩盤落下前に部下全員を逃がしたという。

 英雄だろう。ナイスガイなのだ。


「クロードちゃん、ここには家へとても帰りたがっている鉱夫の無念さを感じるわ。」


 アークは、冷静だった。


「この魂の無念さは計り知れないわ!」


 ドイルも、珍しく無念の表情だ。


「クロード様、きっとこの方でしょう。この巨大な霊魂……とても大変な事をやり残して亡くなった方のようです」


 ミミが大きく輝く霊魂を発見したようだ。

 この世に残した無念の大きさが大きい程、霊魂自体の大きさも影響されるようだ。


 俺は黙って頷いた。

 ミミは例え相手が霊魂だとしても、人としての敬愛の念を込めて“この方“と言っているのだ。


 そう、今回俺達が請け負った依頼は、埋もれた鉱夫の救出だが、その霊魂の必死の訴えも叶えたい。


 あー。確かに俺にも今なら分かる。一つの大きな光の玉がいてもたってもいられないと言った感じで、落ち着きのない動きをしている。


『すまない……こんな寂しい所に呼び出してしまって。あんたが勇者か? 立派な出で立ちだな、そうじゃないかと思ったよ』


「あなたがこのような強いSOSを発していたのですね!」


 ミミが声をかけた。


「これ程の無念。あなたは何をこの世に、やり残してきたと言うのですか?」


 アークはそれでも優しく声をかける。

 普通にしていれば好青年なんだが。


「あなた……もう長くはないのね……お話下さい」


 ドイルが冷静に促した。


『あんたら分かるのか……自分でもわかるんだ、これが達成されないと成仏出来ねーってな。おそらく今夜で俺は消滅する。だからこそ最後の願いを飛ばしたんだ……それを拾ってくれたのがあんたらってわけだ。ほんとありがてー』


「時間がないようだな。じゃあ話を聞こう。俺達で出来る事なら何でも言ってくれ! 俺達は風紀隊、まあ何でも屋みたいなもんなんだ」


『ほんとすまねー……

 俺の頼みはたった一つだけだ。家にな、決して見られてはならない書物を一冊隠し忘れていて、それは俺の書斎の机の上に剥き出し状態なんだ。まさか今日死ぬとは思ってなかったんでな。普段は家内は書斎には入らねーから安心してたんだが、いずれ発見されるだろ?

 あれを家内が見たら、おそらく悪霊になっちまう。間違いねー。だからそれを見つからずにおいそれと、処分して欲しいんだ』


「ちなみに書物のタイトルは?」


『可愛いお嬢ちゃんもいるのに言えって言うのか? 

 まあ仕方ないな。“わたし、イキ過ぎちゃって、もうダメに……』


『ぐが! げはっ! ぶへっ!』


 大変だ。ミミ達が霊魂を群がって蹴り飛ばしている。霊魂はいびつな形になってしまっているが、彼女達は蹴るのを一向に止める気配がない。さすが風紀隊。風紀にうるさいのはそのままだ。


 君が泣いても蹴るのを止めない勢いだ。


 急がないと取り返しがつかなくなるな。


「しばし耐えて、待っていてくれ!」


 俺は霊魂の家へ急いだ。緊急だ。長くは持たないだろう。幸い俺は勇者だ。見つからずに忍び込むなんてお手のも……ぶへっ!


 おかしい! この時空魔法剣士の俺が一発KOだと?

 何か今般若のような悪霊だろうか。書物を抱えて霊魂の方へ走り去っていったぞ。


 かつてこんなに緊迫したシーンに立ち向かった事はあっただろうか。


 あれ? 般若が、一人のやつれた死にそうな男の首根っこを摘まんで、引きずって家に入って行った。男は泣きわめいていたようだ。


 俺は何が起こったのか確かめなくてはならないが……身体が動かない。無様だ。


「クロード様!」


 一目散にミミ達が駆け寄ってきた。


「何があったんだ?」


「奥さんが来たので、あーなったのよ」


 ドイルが口を開いた。


「ちょうど落盤事故で下敷きになった、あのエロ霊魂の遺体を3人で何とか掘り起こしたのよ……せめて身体は掘り起こしてあげましょうと……たまたまかもしれないけど、綺麗なまま原形を留めていたわ」


 アークが続く。無念さで言葉に詰まっている。


「そこへ、あの奥さんが……。霊魂を鷲掴みにして、この世のものとは思えない覇気で身体に無理矢理ねじ込みました」


 ミミがあとを引き取って、説明してくれた。


「残念ですが、もうわたしたちには手の施しようがないのよ……」


 アークも無念そうだが、仕方ないのだ。世の中には救えない命も往々にしてある。


「……ご冥福をお祈り致します……」


 ドイルは般若と霊魂の家に向かい、手を組み祈っている。


 “死んだ方がまし“と言う言葉がある。

 うん、きっとこの事なのだろうな……


「すまない……助けてやれなかった……」


「…………」


 ちょっと待て!!


 いや! それは違うぞ!

 人間生きていれば、生きてさえいれば、誰かが救われる!

 現に奥さんは心はおろか、勇者の俺をKOするほどの強靭さまで身に付けている。



「皆よくやった! 一人の人間……いや二人の人間をも3人の連携で救えたんだ! 俺はお前達を本当に誇りに思う!」


「クロードちゃん……」


 アークが顔を挙げた。


「クロードちゃん。わたし達は一人のみならず、二人も救えたのよね!」


 そうだ、ドイル。


「最高の結果ですよね?」


 ミミ、お前達のおかげだな。


 胸を張って言える。

 命は買えない代物だ!

 俺達は何より尊い報酬を手にしたんだ!


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