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追放

「クロード様。またギルドより、ご依頼をお受けしました」


 ミミがかしこまった様子で言い出した。

 彼女は、顔が広く、どうも各地に情報網があるようで、取捨選択したものを風紀隊へ依頼としてあげる事が多い。


「昨今、冒険者パーティーの追放劇というのが増加していますが、ここルシェ連邦国首都のギルドでも相当数発生していまして、ギルド職員の間でも余計な雑務が増えてしまうと不満が多発しております。そこで追放劇で、どのような悲劇が発生するのかを実演を通して冒険者達に示してもらいたいとのことでございます」


 なるほど。風紀を掲げる俺達にとっては耳が痛くなる問題だ。

 今回のメンバーは絶対にないといえるであろう勇者パーティーで、あえて出張ってくる事にした。


 俺もつい最近まではソロ活動だが、ギルドへは通っていたクチだ。

 冒険者登録した者は各個ギルドには個人ランクがまず保管され、所属パーティーも記録される。

 これが追放やら、脱退やらが起こるとその度、記録の差し替えが必要なのだ。

 総合力としてランク付けされたパーティーランクの更新も必要となるため、ギルド職員にとってはまさしくよけいな仕事が増えるわけだ。


 早速ギルドへ入ると、そこへちょっと綺麗目な受付嬢が俺に声をかけた。


「あの……冒険者様ご一行でございますね?」


「何でしょうか?」


 あれ? 風紀隊の事は伝わってないのかな?


「あの……ご忠告だけです。今現在実に我がギルド登録パーティーの約半数に『追放劇』が起こっているようでございます。とりわけ勇者パーティー、Sランクパーティーに関してはその8割にのぼります。『追放劇』はスッキリ爽快でございますが、瓦解するパーティーも続出してしまい、わたくし達ギルドには仕事の手間が増えて迷惑千万なんです。

 何とぞ、『追放劇』を発生させないよう、よろしくお願い致します」


 そう言うと綺麗目な受付嬢は去っていった。

 なるほど、ギルドの扉くぐった瞬間これだ。相当困った事案なんだろう。


「笑ってしまいますわね! わたし達に限ってそのような戯言は絶対に起こり得ません」


 リーシャが俺達の事を断言してくれたが、俺達は一般に起こるそれを防ぐために来たんだ。


「ただし、何事にも訓練はつきものです。ここはその予行演習をしておいた方がよろしいかと愚考致します」


 マールが言葉を挟んだ。だからそれを一般冒険者に教えにきたんだけどさ。


「そうでございますね。起きないようにするために先手を打っておくという事でよろしいのではないでしょうか?」


 あれ? 勝手に話が進められているんだが……


「じゃあ、ここで一度予行演習しておきましょうか? わたくし達も勇者パーティーでございますし――」


 えーと、まずは冒険者達を集めてからじゃないと意味がないよね。


「やい! クロード! 貴様は今日限りでクビだ!」


 リーシャが唐突に剣幕を立てた。どうやら彼女がリーダー役らしい。

 あれ? もう始まったのか。しかも追放されるの俺なのか。勇者なんだが……


「えっ? どうしてだ? 何で俺がクビなんだ?」


「もう、マールと話し合って決めた事だ! 貴様にどうこう言う資格はねー!」


 えっと……そうだ何で追い出されるのか理由を聞かないと。


「何故俺が追放されるんだ? 理由を言ってくれ!」


「理由だと! そんな事分かり切ってるじゃねーか! 貴様はこんな超美少女が2人も家に住み着いたというのに、その後ものうのうと、お色気にゃんにゃんパラダイスに通ってるからに決まってるじゃねーか!!」


「――うぐっ!」


 なんだこの吊るし上げは? 本気なのか!? 本気なのか?


「いや。通ってはいないんだ。ミミの成長具合を見に行っているだけなんだ」


「とぼけるんじゃねー!! ミミちゃんには既に聴取済みなんだよ! もうこちとら頭きてんだよ!」


 何か本気な気がする。


「いや、違うんだ。これには理由があるんだ」


「はあ? 理由もくそもあるか! もう通ってること自体が既成事実だろうが! 気付けよクソ勇者! わたしとマールの行動に。その頭は空なのか? お花畑なのか? このくそが!!」


「そうですわ! いつもわたくし達おうちで待ちぼうけなのですよ!」


 ここでマールが口を挟んだ。


「わたくし達には家庭を大事にして頂く権利があるのです。それすら守れないほどの無能ぶりのあなたにこのパーティーにいて欲しくありません!」


 なんか真っ当な事言ってそうなんだよな。

 でもあれだ……そもそもまだ俺結婚してないよ?

 これ追放劇じゃなくて、夫婦の内輪揉め想定してないか?


「……それは俺が悪かった。謝るからここにおいてくれないか?

 いいだろ? 超可愛いリーシャ、マール!」


「今更そんな甘い言葉で呼んでもおせーんだよ! 貴様の顔見てるだけで虫唾が走るぜ。さっさとこの家から出ていけ!」


 ここ家じゃないよ……まあ一歩譲っても、あなた達がいるのは俺の家なんですが……何か心が痛いです……


「わかったよー。でも俺いなくなったらお前達、性婦パーティーになるぞ?」


「はぁ? 貴様なんていなくともこっちは十分勇者パーティーやっていけるんだよ! さっさと出ていけ!」


 だから、俺が勇者なんだってばさ……


 俺は寂しく一人ギルドを出ていくことになった。

 予行演習とは言え、心にグサッとくるよな。

 これはキツイ。

 俺は追放者の気持ちを痛い程味わうことになった。


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