悪役令嬢の吐露 ―side サーシャ―
わたしは今、とても幸せだ。
心からの親友を助ける事が出来たから。
ルシェ王国第二王子のカイルと、エリシアの婚約が決まった時、背筋が凍った。
あれは……あの男は、悪魔の息子だったから……
その悪魔とは、当時の国王。
あの悪魔は、様々な淑女を外見の良い年頃の第一、第二王子に婚約者として迎えさせ、稚拙な因縁をつけさせ、婚約破棄に持ち込み、婚約者達を形式上、禊に追い込む為、修道院に幽閉した。
第一王子のルディーは勘の良さで気付き逃れたようで、それでもある程度洗脳は受けていたみたいね。
修道院は、当時の王城と地下で繋がっていて、その途中に巨大な監獄があり、そこで婚約破棄に追い込んだ元婚約者達を毎晩、国王、第二王子達は、性奴隷として扱っていた。
わたしは、その秘匿にされた惨状を知っていた。
わたしは、ノワール男爵家の令嬢サーシャ。
ノワール家には、数世代に一人、特殊な魔法を身体に賜る場合があり、わたしは、それを身に付けていた。使い方によっては、恐慌を招くため、両親にも宿していることは、内緒だった。
ある時、友人の家のお茶会に招かれた。その時王国から手紙が届いていたのを発見した。殺風景な便箋……多分貴族に定期配達される案内書だろう。
内容が差し障りもない為、ぞんざいに扱われていた。
……確かわたしが15才の時だ。
内容は、簡単に言うと、良い家畜がいたら斡旋して欲しいと言うような内容だった。
……家畜?
聞き慣れない“言葉“に違和感を感じた、わたしはなんとなしに、その忌まわしい筆跡に無意識に触っていた。
その時おぼえた吐き気は、その禍々しさからだった。家畜とは……性奴隷の事だった。
その悪魔の手先のカイル王子に、親友が……エリシアが……家畜にされてしまう。
何とかしたいわたしは、考え抜いた。
これしかない……
“国家の悪事を暴く事“
容易ではないが、これを実行するには、まずわたしがカイル王子を魅了するしかない!
ただ、伝手がない。
そこで浮かんだのが、エリシアの弟リオンだ。
この子は、正義感に溢れ優しい。間違いが嫌いな子。
リオンであれば……
リオンであるならば……
わたしは、カイル王子がクリスマスパーティーで、婚約者であるエリシア、そこに弟であるリオンを招いた事を知り、小さい頃からよく遊んだリオンに、とっておきの魔法を教えるから、わたしも同席させて欲しいと言った。
彼ならば分かるはず。
この魔法の価値を。そして、役立ててくれるはず。
……そして、当日出来る限りの美しい格好をしたわたしは、カイル王子に詰めよった。バカな媚びを売る令嬢を演出し、カイル王子は多いにわたしに熱をあげた。
そして、冬休みのある日、リオンの友達によく遊ぶ公園にリオンを呼び出してもらった。
彼に気付かないふりをし、着ていたワンピースを切り刻み、気が狂ったような笑い声を上げ、畑の肥溜めにダイブした。強烈な印象を植え付けるには、このくらいの覚悟が必要だった。
そして、わたしに、熱を上げているカイル王子にこの悲惨な姿をみせて、嫉妬したエリシアにやられたと、報告した。見事にそれを鵜呑みにしたカイル王子は、新年ミレニアムパーティーの場で、エリシアを断罪すると、いきりたった。
……リオン
聡明なあなたなら、教えたあの魔法……一子相伝なのだけど、それを利用して、わたしを断罪してくれるわよね。
わたしが代わりに“家畜“になり、あの吐き気を催す惨状を記憶すれば、この魔法を使って何とか、外部に知らせる事が出来るから。
だけど、ここでわたしの予想を裏切る嬉しい誤算があった。
……リオンが奇跡を起こしてくれた。なんとあの頭が固い切れ者の文官ライナーに、事の真相、国家の悪事まで、信頼足る方法で伝えてくれた。
実際のところ、わたしがエリシアの代わりに奴隷になったとしても、それを外部へ伝える手段はかなり限定され、難題になるはずだった。それをリオンが打破してくれた。
文官であるライナーは、いち早く動き、見事に国家の悪事を言い逃れできないレベルで炙り出し、国家裁判にまでこぎつけさせた。まさに電光石火だった。国王、第二王子カイルを公開断罪。
ルシェ王国は滅亡。英雄とされたライナーは、平和主義者の為、連邦国化し初代盟主となった。
……リオン。あなたはわたしの最初で最後の、誇れる弟子だわ。
わたしは、自分から好んで入った修道院で、お気に入りの羽ペンを今日も器用に、指で回転させていた……




