死ななくても良かったのに ―side ルディー
……目が覚めた。
何もない白い部屋。
目の前には、みすぼらしい老人。
「……おお、モブのルディーよ。死んでしまうとは情けない。アヤネを無双のミリー憑きで送りこんだから、幾らでも生き残る道筋は出来たはずなんじゃが……意味なかったかもしれぬの。でしゃばりおって……」
この老人は何を言っているのだ?
「……そうじゃな。お主は享年18歳か。その年数分、幾つか不幸な縛りがつくが旅立つがよい! 名前はサービスでルディーのままでな。アデュー」
……そこで俺の俺様人生は幕を閉じた。
新生ルディーの俺は、どうやら記憶も消され、ある世界の名のある公爵家に生まれ落ちたようだ。
公爵家の血筋に恥じない研鑽をした……はずだったのだけど……
――1年前
「ルディー、シェリー王女が、お前との婚約破棄を申し出てきた」
朝、のんびり起きてきた俺に突き付けられた父親の言葉だ。
俺はこの当時17歳だったのだが、王国第一王女のシェリーとの婚約が齢10歳の時点で決まっていた。
我が家は、古来から王家の親交に厚い公爵家だ。
王女は、俺より2つ歳が下だが、既にその美貌には定評があった。
俺だって、その頃は素敵な笑顔の美少年と謳われ、顔の造りには定評があったんだ。あの頃は!
子供の時には、政略結婚なんて考えてもいなくて、王女の誕生日パーティーなどは、仲良く手を繋いで遊んでいたりした。本当に心の綺麗な女の子で、俺はとにかく惹かれていた。
そんなお家同士の縛りなんて関係なく懇意にしていたんだ。
「……これが政略結婚だなんて、癪だから。ねえルディー。手を貸して」
彼女はまだ8歳なのにそんな事を言った事があった。
そして俺が左手を差し出すと、おぼつかないしぐさで古めかしい指輪を薬指に嵌めてくれた。
「婚約指輪。わたしもペアの指輪しているの」
そう言うと彼女は左手を見せてくれた。
一目でペアであると分かる形状デザイン。何か古い。
でも俺はとても嬉しかったんだ。
それからも、事あるごとに愛らしきものを育んできたはずなのだが、そろそろ結婚だ! というこの時点での婚約破棄の申し出。ダメージが大きい。
「……あのお父様、シェリー王女はどうして婚約破棄を訴えてきたのですか?」
「……わかるだろ! お前のその見てくれだ。日頃から研鑽を欠かさず、王女に恥を欠かせないないような体型を作り上げろとあれほど言っておいたではないか!」
「……勿論、言われた通りのトレーニングは日々欠かさずやっていました。それ以外にも、ものすごい過酷な負担を体にはかけて、乳酸尽くしの生活でありました……その結果がこれなんです」
この時点の俺は、誰から見てもただのデブだった。信じられない事に歳を重ねるにつれ、強靭な肉体が出来るはずが、肥えていく一方だった。
「――嘘をつけ! その過酷なトレーニングの結果がその情けない体型だというのか!? 到底信じられんな。まあ、それだけでお前にこのような沙汰を下すわけではないのだが。決定打は何といっても王女からの婚約破棄だ。ここにはもうお前の居場所はない。
今後一切、我が家の門をくぐることを禁ずる。さっさと荷物をまとめて出ていくがいい!」
……こうして、俺は公爵家から追い出され……貴族の地位を剥奪された。
――そして1年後の今日。王都冒険者ギルド内。
「ルディー。申し訳ないが君をこのパーティーから追放させてもらう事にした」
……あっ。そうか、そうだよな、そろそろくるかなって思ってたんだよな。その言葉。
結局1年頑張ったから、どうかな? とは少しは期待はしていたけど……
「……分かったよ。今までありがとな」
感じたままを言った。
「――なあ、ルディー、お前何なんだよ。ほら! もっとこう……あるだろ!」
「……ん? ああ、すまなかったな。やるだけやったんだ。それを鑑みてのことだろ?」
「――いやいや。そうじゃなくてさぁ。1年間俺達はお前に、命を懸けて背中を預けてきたわけだ。そんな仲間から三行半を突き付けられたわけだぞ」
「……でもな。お前だってそれなりの理由あってのことだろ?」
「――いやいやいや。なんだかなぁ。もっとほら! 最後まで頑張って縋り付くとか、鬼気迫る感じで泣き付いたりしないのかよ。お前の俺達への想いをぶつけてきて欲しいのさ。それとも、お前の想いはそんなものだったのか? この薄情者!」
「……そうは言っても俺が使えないからこうなったんだろ?」
「――ああ! じれったいなぁ! もう……」
プロポーズ早くしろ! みたいな顔ですごまれてもなぁ……
こんな堂々巡りを続けているが、他のパーティーメンバーは口を挟まず熱心に聞いていた。
俺と熱弁を繰り広げているパーティーリーダーのラルクは俺にご執心。その他に2人、どうにもこうにもならないというか、もっと建設的な前向きなことしようよ的な眼で、俺達を見つめている。
……まあ、分かっていたんだ。だいぶ前から、俺はもうパーティーメンバーから嫌われているって。
元貴族だから、若干場の空気を読めないのかもしれないけどさ。
それを差し引いても、パーティーのお荷物的な眼で見られているのは分かるんだ。
俺が好きだったこのパーティー。
――始まりは今でもはっきり覚えている……




