帰還
王都公邸へとりあえず空間移動した。
女装したルディーはエドワードが背負い、目立たぬよう毛布をかぶせてある。
アヤネも、もしもを考えフードを被っている。
ルシェ王国王城は、その権威を維持するため相当な大きさだ。
城門に回り込むだけでも、かなりの人目にさらされる。
――これは?
どういう事だろう?
暴動というわけではないが、城下に普段はいないであろう民衆で溢れかえっている。
クーデターでも起きたのだろうか?
いや、そうであれば緊張状態のはずだ。
状況が分からない。
「皆様、こちらです」
エドワードがあらかじめ面倒なチェックをカットするため、裏門から入る手はずをつけていたようだ。
軽くノックをし、合言葉のような文言を言ったかと思うと、扉がゆっくり開けられた。
そこに顔を出したのがライナーさんだった。
特別秘匿にするような事はないとは思うのだけど、どうもこのルディーの不始末は公表するのに都合が悪いらしい。まあ既に廃嫡済みだし、元バカ殿下に悪評がたったとしても、国王陛下に直接影響はでないだろうけど、念には念をと言う事だろうか?
「待っていたよ。無事にルディーに決着はつけたんだね。こっちもね、ちょっとばかし変わったことがあったんだ」
ライナーさんが苦笑いで迎え入れてくれた。
今回は任務遂行したとしても決して喜ばしい事ではないので、ライナーさんも表情は険しい……はずだったのだが、エドワードが背負ったルディーから毛布を外した途端、感嘆したような声をあげた。
「なるほどね、まあいいさ。ルディーは最終的には、リーシャ君を匿おうとしたらしいし、それを鑑みて女装くらいで許してあげようって事か」
へっ? どういう事?
「――ライナー様。どういう事でございますか?」
エドワードも詳細はよく知らないようだ。
「リーシャ君は、ルディーに追放されていなければ、もっとひどい凌辱を受けていたってことさ」
――ライナーさんは、事の真相を切々と語ってくれた。
俺達が飛んでから、あるきっかけで国家の闇を暴く必要が出た事。
ある小さな英雄のおかげで、全てが明るみになり。国家が滅亡した事。
外の人だかりは、新しい国制が公表され、皆が喜び歓喜に沸いていること。
そして……ルシェ王国は滅び、ルシェ連邦国へ改名されたこと。
盟主は――他でもないライナーさん。
いろいろ変わりすぎだ。
元国王は、どうもメルに簡単な洗脳をかけていたようだ。
ルディーに取り入り、リーシャへの婚約破棄をけしかけさせ、修道院送りにするよう命じていた。
だが、最後にルディーは、それを看破し、意地を見せてリーシャをわざと追放したってわけだ。護衛には騎士団長のエドワードをつけさせた。彼ならリーシャを救ってくれるだろうと推測したのだろう。
確かにエドワードは俺がいなかったら、自分がリーシャを連れて逃げていたはずだと言っていたし。
洗脳は簡単な命令しか受け付けられないほど脆弱で、その間は同じ言葉を何度も連呼するらしい。
そういえばメルはそういう感じだったっけ。
何度もルディー様~……とか、ほざいてたもんな。
あーあれはただのバカなんじゃなくて洗脳のせいなのか。
まあ、あまり深入りしない方がいいんだな。
「……この方は、この方なりにわたしを庇おうとしていたのですね。全く不器用な方。でも……ありがとう……」
最後にリーシャが、ルディーの頬を優しく撫でていた。
綺麗な瞳が潤んでいる。
おい、バカ殿下。良かったな……
お前は最後は正義の味方で死ねたんだ。
「――あの、わたしはこの先どのようにしたらいいですか? にゃは!」
あれ? アヤネとミリーがミックスされてねー?
うーん。今も洗脳されたままとか? ちょっとバカっぽいぞ。
「にゃは!? なんと! これはあの伝説の獄殺アサシン『ミリー』の決め台詞のはず。もしや君は追放処分されたメル嬢じゃないな?」
何かやたら鋭いライナーさん。何となく文官の理由が分かってきたかも。
「はい。わたしは、そのメルって方が死んじゃった時、その抜け殻にたまたま転生したアヤネと申します。ミリーはおまけだそうです。神様がそう言っていたので」
またアヤネが不可解な事を言い始めた。頭沸いちゃったのかもしれない。残念だ。
「アヤネちゃんを国王に認めてもらおうと、わたしがお連れしたのです。国王はもう死んでますが。追放の元凶になったわたしがお願いすれば、追放処分は解いて頂けますわよね?」
「君はもう自由だよ。アヤネちゃん」
笑顔で盟主が頷いた。
「……ありがとうございます……にゃは」
やはりライナーさんは頭が切れる曲者だった。
さすが性女マールの御業を受けて、正気を保っているだけのことはある。
「えーと、それじゃあもう万事解決じゃありませんか? よかったですわ!」
いきなりマールが会話に紛れ込んだ。
本当に天真爛漫なんだけど、この快活さが可愛いんだよなー。
「……そうだな。一応埋葬前にルディーの最期の雄姿を聞いておこうかな」
「あのー……ルディーさんはわたしを守るために身体を投げ出してくれました――にゃは! 弱っちいくせに威勢よく飛び出して、地獄で後悔するがよい! ハッハッハ! って言ってたけどすぐやられちゃったにゃ!」
言い出した後、慌てて口を塞いだアヤネ。
どっちが本体なんだろうか?
「……一応、国葬はしようかな……いや、暴動の種になりそうだから密葬にしとこう。遺体がこんな格好だし」
まあ、ルディーらしくて、いいんじゃないかと思った。一応悪の一派に数えられたからな。事情を知る者達だけの密葬がベストだろう。
「……ところで、クロード君……君だからお願いするのだが、新たにこのルシェ連邦国に“風紀隊“を設立してもらいたいのだけれど、頼めないだろうか?」
風紀隊? 名前が奇抜だ。
「……規模は?」
「全て君に任せるよ。なんと言っても、連邦国になってまだ間もないから混乱が起きるかもしれないだろ? それを取り締まって欲しいんだ」
「……そういう事であれば」
俺は二つ返事で、実験的な感じだが、風紀隊を編成する事にした。




