本格始動
――連邦国結成3ヶ月後、盟主執務室。
ルシェ連邦国盟主ライナーは頭を抱えていた。
「あなた、お茶が入りました」
美しい所作でテーブルにおかれた紅茶は格別だった。
「この問題が難しくてね……」
「――全くもう……盟主様ともあろうお方が……」
「……この連邦国の本当の英雄の為に、一肌脱ごうかと思ってね。本人は、本格的にクロード君に弟子入りしたそうだし……」
覗き見してきた美しい女性がいる。エリシアだった。
「えーと……あら? 本当に難しいですね」
苦笑いで応えるエリシア。
「でもさ、いつもやっていたんだろう? 彼の宿題」
「そうね。よくあなたに二人して呼び出されて怒られていましたものね……ふふ」
「……そんな影の英雄が、クロード君に早くも勇者の後継を託されたそうだ。恐ろしい程の才能があるらしい」
「……リオンにそんな才能が? でも勉強以外は頑張れる子ですものね」
話しながらも二人して、彼の初等部六回生の宿題を前に大真面目に頭を抱える結果となった。
「国を滅ぼし膿を出しきって、建て直すというすごい宿題をやってのけたあなたが、見る影もないですわ」
「そんな男を亭主に選んだのは君じゃないか?」
「いいえ。わたしが選んだのは最初から正義まっしぐらな”先生”だけです!!」
二人は最高の笑顔で微笑み合ったのだった。
――――――――
……風紀隊。
名前は、ともかく大分認知されるようになった。まあ、何でも屋なのだけれど……
今のところ、メンバーとして、俺、マール、リーシャ、アヤネ、エドワード。
それから、風紀と聞いて、群がってきたアークとドイルがいる。
子爵邸の警護は、エミリーが、恐ろしい程逞しくなったので、二人が抜けても問題ないそうだ。
一応は歴とした連邦組織と言う事で、城内にかなりの広さの詰所を用意された。
これは素直に嬉しい配慮だ。
これで100人隊とか大規模な連隊を組むとかになれば、別途設備も必要になるのだが、ライナー盟主は、俺の采配で規模は決めてよいと言っている。実際はまずすぐ動ける10人程で動くべきだと判断した。
そうなるとこの大部屋だけで十分だ。
職務としては、普段は各々従事した仕事に就いて構わないが、一度召集をかければ、優先して駆けつけるという体制を作ることにした。今のところ、エドワードがこれに当たる。
まだ具体的な活動内容も決まっていないからだ。
これがかなりの機能を発揮すると分かれば、やりがいを感じた者なら風紀隊に特化した体制をとると考えられる。
詰所の整備を皆でしていると、扉をノックされたので入るよう促した。
「あのー。ここが風紀隊の皆様の詰所ですか?」
誰かと思ったら、性女目録のミミだった。
俺はたまにギルドのクエスト帰りに、お色気にゃんにゃんパラダイスには寄っていたので、すぐ分かった。本家マールに迫る勢いの人気者だ。可愛いしサービスがいい。
「ミミ、どうした? アークとドイルも来ているぞ」
「あのー。クロード様のお父様がすごく上機嫌で先ほど“にゃんにゃんパラダイス“に来られて、いつものコースではなくプレミアムコースを頼んでくださったんです!」
「へっ? ただそれ言いに来ただけ?」
「いえ、違います! お父様に聞いて、わたしもここの風紀隊の末席に加えて欲しいなって思いまして……」
「マールさんは何て言ってるの?」
「師匠はわたしはまだまだ現役で技の質も絶好調だから、クロード様の役にたってきなさいって言って下さいました」
ミミはまるでストリップダンサーのように、ほぼ際どいというかいろいろ晒された衣装を着ているのだが、これで風紀を語っていいのだろうか? っていうかよく来たな。
「わたし、皆様のお役にたてるよう必死にこれ練習して習得したんです!」
「【魅惑の波】!」
詰所内がピンク色の妖艶な霧に満たされた。
これは! やばい! 催淫効果のある霧だ。
今部屋にいる精鋭たちは、俺、マール、リーシャ、アーク、ドイル、アヤネだ。
ミミは新手の刺客だったのか!?
リーシャは機敏なステップで霧を避けている。すげー危険察知能力。
アークとドイルは霧を浴びても平然としている。こうなるともうこいつらは、聖人だろう。
まずいのはマールとアヤネだ。
「クロード様~♪」
運動神経が皆無のマールは、神官服を脱ぎ捨てて、抱きついてきてしまった。
まずい! ここは由緒ある風紀の部屋だ。毎晩のスキンコミュニケーションの場ではないぞ。
アヤネはというと……
「アヤニャン! にゃは~ん♪ ――ミリーちゅわ~ん♪」
ん? 何だろう……ミリーと、同士討ちだろうか? それなら問題ないが。
被害はこれだけだった。
俺は言うまでもなく既に耐性獲得済みだ。
「あれ!? すみません! 間違えました! こっちでした!」
「【癒しの波】!」
今度は部屋全体が、エメラルドグリーンの爽やかな色合いに染まり、皆に活力が戻った。
どうも回復呪文の効果と、疲労回復効果まで備わっているようだ。
使い方によっては、戦況のピンチを一気にひっくりかえせるような強大な効果だ。
「ミミ! お前すごい技マスターしたんだな……是非風紀隊に加わってくれ!」
「はい! その為にわたしはここに来たので」
「ミミ。あなたいいの? このまま頑張れば、性女免許皆伝だったのよ?」
「はい。アーク様。本家のマールさんには敵いませんし、わたしには風紀しかないんです! 風紀が全てなんです!」
だからその恰好で風紀語られても……
「大歓迎よ! また2人でドリームアタックが出来るわね!」
「はい! ドイル様。それを楽しみにしていました!」
ドリームアタック? 弓と爆裂魔法のコラボかな?
「クロード様~♪」
マールが子猿のように下着姿のままで俺に抱き着いているが、もう治ってるはずだぞ。
……まあいいか。
「マール。抱っこやおんぶはするから、ちゃんと服は着てくれ!」
「クロード様! 夜はわたしもいますわよ!」
「もちろん分かってるさ!」
リーシャは聞き分けが良くて女神のようだ。
マールは天然なところがまたそそる。
ミミが風紀隊に加わることになった。
これでメンバーは俺、リーシャ、マール、アヤネ、アーク、ドイル、ミミ、エドワード、総勢8人。そうそうたる皆頼りになるメンバーになった。
この日は大部屋を整理し、ミーティングというものを開いてみた。
何か本格的だ。活動内容としては、範囲を定めなければ何でもありだ。
だから、各自の判断で行動してオーケーな事、危険な場合はすぐ俺に連絡は徹底した。
これから、何が起こっても俺には頼れる仲間がいる。
心強かった。




