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魔王討伐 ―side マール―

 ――1ヶ月後。魔王城最奥にて。


 わたくし達は、苛烈な旅路の結果、遂に魔王を追い詰めるところまできていました。

 ですが、魔王は予想通り手強いです。

 四天王が束になってかかってもダメかも知れない位です。


「……くっ……シエラ、【金剛】の重ねがけ頼むわ」


 タンク役のガルト様も満身創痍です。奥の手です。シエラ様もかなり疲弊しています。


【金剛】は打たれ強さが何倍にもなりますが効果が切れた後の代償が計り知れません。

 ガルト様は魔王に肉弾戦を仕掛け、ついに【兜わり】で魔王の防御壁を破りました。


 そこに最大級の火炎魔法が、魔王に襲いかかりました。

 ミレーユ様です。鉄板だけでなく、魔王も見事に焼いていました。


 かなり怯んだところに、いよいよアーク様の聖剣が魔王を貫きました。


 断末魔をあげ魔王は、倒れたのです。

 みるみる目の色がなくなっていきます。


 決着はつきました。


「……ふう……アーク様。終わりましたね」


 わたくしは、思わず安堵のため息をもらしました。でも返ってきた言葉は……


「――やはりだめか……ここからが君の出番だ。マール」


「……へ?」


 すっとんきょうな声をあげてしまいました。


「どういう事だ? アーク」


 ガルト様が首をかしげます。


「見ればわかるだろ? この魔王の骸、飛散してないじゃないか。いわば仮死状態なんだ。完全に殺せていないんだよ」


「……生き返ってしまうの?」


 ミレーユ様も珍しく戸惑っているようです。


「そういう事だ」


「それでは、どうすればよろしいのですか?」


 博識のシエラ様も知らないようです。


「始まりがあれば終わりもあるはずだ。僕が勇者になり立ての頃、古文書で調べつくした結論がある」


「それとわたくしの出番とどう関係があるのですか?」


「魔王を完全に消滅させるには、清められた肉体が必要なんだ。具体的にはこの魔王の心臓と、人間の清められた心臓を聖剣で同時に貫くしかないんだ」


「……何それ? マジ?」


 ミレーユ様が目を丸くしました。


「……マジだ」


「それで嬢ちゃんが?」


 ガルト様ちょっと怒り気味でしょうか?


「……ああ、この為に連れてきたのだからね。既に彼女は教会の懺悔部屋で、心の洗浄は済ませてある」


 全てはアーク様の計算だったのです……


「……そんな!? どうして今まで黙っていたのですか? そんな大事な事を」


 シエラ様も困り顔です。


「もし何かの拍子に知られては、都合が悪いからね。それに彼女は信仰心が強い。おそらく毎日お祈りを神に捧げているはずだ」


 いえ、毎週日曜日だけです。新興宗教怖いです。押し付けはやめてください。


「ひどい! あんまりですわ! この詐欺野郎!」


「……そんな……お嬢ちゃんが」


「なんて野郎だ……てめえ、絶対地獄行きだぜ」


「……そうかもな」


「……ではいつぞや言っていた未来への懺悔と言うのは?」


「……今日この為だな」


 そういえば死は快楽だ的な精神論植え込もうとしてましたよね。


「……でも……魔王はそれで確実に消滅出来るんですよね? わたくしの死は無駄にならないんですよね?」


「……おいおい、嬢ちゃん何言ってるんだ!?」


「そうよ。お嬢ちゃんが犠牲になる事はないわ。魔王が起き上がったら何度でも焼いてやるんだから」


「……それは無理だな。君が生きている間だけの話だろ? それにおそらく生き返る度、魔王は耐性を獲得するはずだ」


「そんなの酷すぎますわ。やるんだったら、わたしの豊満な身体を使って下さい」


「……それも無理な話だ。シエラ、君は身体が豊満なだけで心は清らかではないからな」


 すっごい失礼な事言ってやがりますね。


「皆様、ありがとうございます。わたくしは大丈夫です。世界を救う事には賛成ですので」


「色々言ったが僕だって考え抜いた末の事なんだ。マール。君のその犠牲、絶対無駄にはしない! 君を永世、英雄化する為に君に、遺書を書く権利をあげよう。世界中の人々にその業績を知らしめるんだ」


 アーク様が懐から、すかさず羊皮紙と羽ペンを取り出しました。随分用意がいいですね。


「……遺書? ですか。うーん、書くと言っても……

 アーク様も知っての通り、わたくしこの世界の文字は、読み書きが出来ません」


「ああそうだったね。君の言った言葉を僕が書いてあげよう」


「……じゃあ、お願いします」


 アーク様がいつものお祈りのポーズを取り始めました。わざわざ地面に紙を置いて、しっかり書いてくれるようです。几帳面なのでしょう。シンボルマークの聖剣は鞘が邪魔になるので、脇に。


 ……うーん、こんな時だけどちょっとドキドキします。最後世界中の皆様に何を伝えようか。


「……ゆっくりでいい。この体勢は、毎朝やっているからね。少しも大変じゃないんだ」


 何か気を使わせてしまって申し訳ないです。あーすぐ考えなきゃいけないか、最後の言葉……最期の言葉?


「……決まりました!」


「……じゃあ、言ってみてくれ」


「『わたしの人生は、バカでくだらない最高のものでした!』」


 ――結局は、わたくしの人生は魔王の為に始まって、魔王の為に閉じる事になるわけだから。バカでくだらない……それでも、わたくしの命一つで世界が救われる最高の人生。心残りは、この悪役勇者に制裁出来なかった事なんですが。


 天を仰いで深呼吸して、ふと視線を戻すと……


 ……え? え~~~!?


 アーク様は書き始めているけど、集中しているようで、背後には気付いていませんでした。


 いつの間にかガルト様が、魔王の骸を豪快に持ち上げていて……そして……


「……あらよっと!」


 なんと遺書を書いている最中のアーク様の背中に、魔王の骸が折り重なるよう乗せたのです。おんぶ的な感じに。


 ――そして、その刹那。


「……えーい!」


 これまたいつの間にかアーク様の傍らの聖剣を奪い取ったミレーユ様が、魔王の背中、まさしく心臓に見事にぶっ刺しました。聖剣はなんと非力そうなミレーユ様でも問題なくその刀身を潜らせていったのです。


 ……そして魔王の身体を貫いた刃が、ついにアーク様の心臓まで……


 アーク様が最後の力を振り絞って、こちらへ振り向きました。


 アーク様のその表情は、いつまでも忘れないでしょう。


 いつも冷静で爽やかだった目が、何故かニコニコと笑っていたのですから。

 こんな表情出来る人だったんですね。

 わたくしは騙されたのですが……

 自らの悪行を最後に悔い改めた御祓の表情かもしれません。


 ……そして、魔王の骸と心臓を貫かれ絶命したアーク様はくっついたまま、粒子になり消え去りました。


 ……ご冥福を。悪役勇者様。



 地面には残された壮絶な遺書。


『わたしの人生は、バカでくだらない最高のものでした!』


 ちゃんと書き終えているところに歴代最強勇者の意地を感じました。



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