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旅路にて ―side マール―

 ――精力エネルギーかどうかは分かりませんが、思い当たる記憶がありました。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「初めまして。僕が勇者のアークだ。今回は僕達の魔王討伐の旅に参加してくれてありがとう」


「……いえ、そんな」


 魔王討伐? まあ勇者様ですもんね。すごい勝手に決められた感ありますが。


「ワッハッハ。そう緊張しなくていいぜ? 嬢ちゃん。俺が重戦士のガルトだ」


「……よろしくお願いします。ガルト様」


 ゴリラですね。ゴリラ。


「わたし、聖女のシエラです。よろしくお願いします。マールちゃん」


「……はい、よろしくお願いします。シエラ様」


 圧倒されてオウム返しになってしまいます。


「わたしが魔法使いのミレーユよ。よろしくね。お嬢ちゃん」


「……よろしくお願いします。ミレーユ様」



 皆様人当たりは良さそうです。

 わたくしは、上手くやっていけるのでしょうか?


 ――早速翌日から、行軍を開始しました。


 皆様、戦闘慣れしていて頼もしいばかりです。

 この方達についていって、強くなりたい! そう思うようになりました。


「嬢ちゃん、頑張り屋だな」


「強くなればモンクになれそうですわね」


「ごめんね? 全然期待してなかった。でもその根性びっくりだよ」


 わたくしは、何とかお荷物にならないよう頑張る決心をしたのです。


 魔王討伐の旅は、旅路を進むにつれ、より苛烈になっていきました。

 魔族領内部へ入りこむにつれ、戦う魔物の強度が上がってきます。それでも勇者パーティーの皆様は、怯まず焦らず逃げ出さず。


 最小限の行動で、悠々魔物を屠っていきます。

 わたくしは、倒した魔物を解体する役目です。支援職としては活躍してない気がしますが。


 魔族領域では、休める街もないのである程度、進んだら野営して過ごします。


 その時、役に立ったのがわたくしの日本での経験でした。

 ゴリラ……いや戦士のガルト様なんかは特に前線に立ちっぱなしなので下着はすぐ破けてたりで洗い替えも足りないくらいです。わたくしは裁縫が得意で料理の腕もあるので、ガルト様はすごく喜んでくれます。


「嬢ちゃん。いつもありがとな。いやー。とにかく飯が美味い! 毎日気持ちよく行軍出来るのも嬢ちゃんのおかげだな」


「……いえ、そう言っていただけると嬉しいです」


 ガルト様は、元々騎士の家系だそうで、道場を営んでいらっしゃるそうです。ガルト様が勇者パーティーに加入が決まり、ますます箔がついたらしいです。ガルト様はわたくしを背中に乗っけて親指立て伏せして精進する熱血漢です。


「マールちゃん、支援の基本は各種バフを切らさない事ですわ。有効時間が決まっているバフはまず自分から掛けていくのが鉄則ですわ」


 聖女様のシエラ様は、わたくしをかわいい弟子みたいに扱ってくれます。決して自分も人に教えていられるほど余裕はないはずなのに。魔力がないはずのわたくしに何故? と思うのですが、聖女なら聞いておいて損はありません。


 そんなシエラ様は、魔王討伐を果たしたら、恵まれない子供達のために孤児院を開くそうです。わたくしも児童養護施設出身なので、妹みたいに可愛がってくれます。


「お嬢ちゃん、鉄板焼きの鉄板ちょっと焼きすぎちゃったわ。ファイヤーボールでは加減が難しいわね」


 ……鉄板ごと灰になってますけど……

 そんなミレーユ様も、わたくしと大の仲良しです。

 最初魔法使い特有の取っ付きにくい方なのかなって思ったのですが、田舎者のわたくしに可愛いメイクアップ術教えてくれたり、いつもわたくしの髪を最適に可愛く見えるよう編んでくれたりします。ユリを思い出しました。元気かな~。ユリとミサキ。どうやらこの異世界から日本へ戻るのは、困難なようです。でもその糸口を探してこその聖女です。


 ただ、勇者のアーク様だけ、どうにも素性が知れずと言ったところです。わざとなのでしょうか? 王都にいた時から影が薄くて、街の人々からもあまり知られていなかったようです。

 戦闘のセンスは、歴代最強勇者と言われているくらいだそうで実際、魔王四天王を名乗る魔族も、一刀両断しました。めちゃくちゃです。

 毎朝早起きしてどこかに行っているようで、ある時わたくしもタイミング良く目覚め、こっそり後をつけた事があります。


 日の出に向かい、両膝を折り地面につけ、額を地面に擦り付けるようなポーズでお祈りをしていました。傍らには鞘が邪魔になるのでしょう。勇者のシンボル聖剣を置いて祈りを捧げています。


「『悪しき心には清らかなる心を以て、聖なる架け橋を』」


 何でしょうか? おまじない?


 ――その刹那。


「……どうしたの?」


 そのポーズのまま、いきなり声をかけられました。背中に目でも付いてるのでしょうか?


 洞察力がすごいのかも知れません。


「……おはようございます。アーク様。あの毎朝必ずこうやってお祈りしてるんですよね? あのー。何か過去に……」


 興味本位です。お祈りと言うか懺悔していたようだったので。


「……うん、きっとこれから僕は神に許しを請う事が多くなっていくと思うんだ。魔物だって襲いかかってくるから切っているだけだ。意図はない。それでも死を確実に与えてはいるからね。きっとあの太陽の先には、死後の世界があって、万物は報われるんだ」


 ちょっと何言っているのか、わたくしには分かりません。


「これからしようとしている事に対してお祈りを?」


「うん、そうかもね。未来への懺悔かな」


「……そうなんですね」


「死ぬ為に生きる思想って知っているかい?」


「……いえ、初めて聞きました」


「これはね、僕達人間達が何故存在しているかって事に帰着しているんだ。死は必ずしも自我の終着点ではないと僕は思う」


「……そ、そうなんですね」


 どうしましょう? この人いつにもなく目が輝いています。


「あっ! そろそろ朝ごはんの支度に行きますね」


 危うく数秒で忘れても、どうでもいいような精神論に付き合うところでした。


 勇者アーク様、お顔と強さは一級品なんですが。



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